番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第1話(全4話)
本編未読の方は、先にストーリー&登場人物紹介をご覧ください。
巫女さんと猫の話です(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)
境内の玉砂利を箒で均していると、楠の根本に人が集まっていることに気づいた。人数は7、8人。若い男女や子ども、お年寄りもいる。
「かわいいー」
「超なつっこい!」
ここ源神社は、横浜・元町という場所柄いつも参拝者が多いが、ああいうのは珍しい。なんだろう、と思って様子を見に行くと。
「にゃー」
黒猫がいた。
サイズ的に、まだ子猫だ。首輪もしていないし、やせているから野良猫だろう。でも参拝者たちにまとわりついているところを見ると、もとは飼い猫だったのかもしれない。
捨てられたのかな、かわいそうに──と思っていると、黒猫は俺の袴の裾に鼻先を寄せてきた。
袴が汚れる、と避けかけたが、黄色い瞳に見上げられ足がとまる。
か……かわいい……。
参拝者たちが「じゃあね」「バイバイ」と黒猫に手を振り去っていく。俺はといえば、裾に鼻先や額をこすりつけてくる黒猫を、見つめることしかできない。
猫動画を見てはしゃぐ人たちの気持ちが、初めてわかった。こんなにちっちゃくて、ふわふわもふもふした生き物が動く様子がかわいくないはずがない……。ああ、俺はいままで、なんて人生を損していたんだ……。
「氷の巫女」「雪の女王」などという異名を持つ雫だって、俺と同じように思うに違いない。
──よーし、よしよしよし。かわいいねえ❤️
猫なで声でそんなことを言って、猫のお腹を撫でて目尻を下げる雫──かわいい! 猫とは違う意味で、絶対かわいい!!
「参拝者さまから聞きました。猫がいるそうですね」
氷の礫のような声で、我に返った。振り向くと、雫が立っている。
「そうなんですよ」
言外に「かわいいですよね」という同意を求め、俺は黒猫を指差した。
雫は答えず、黒猫の後ろ首を左手でつまんで持ち上げる。そのまま、短い四つ脚をぱたぱたさせる黒猫には構わず、冷たい表情を崩さず、すたすた歩き、鳥居に続く階段を下りていく。
え? ええ? えええ?
戸惑っているうちに戻ってきた雫は、手ぶらだった。
「境内の外に置いてきました。さあ、仕事に戻りましょう」
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