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「ノラ猫くん」2

「………なんで僕なんですか」

え……会話を続けてくれるの?!
こんな日が来るなんて……っ!

「…人嫌いそうなあなたの瞳が美しくて、私のことを受け入れて欲しくなります」

ここ一番のキメ台詞をぶっ放す私…
もうこれは…

「……めちゃくちゃ怪しいですね」

がーーーーーーーーーーん
全然決まってなかった…

「いや、これ、私の名刺!もし少しでも気が向いたら連絡して!」

今日も今日とて撃沈…。
とりあえず名刺だけは(無理やり)渡せたから…いいでしょう…。

その日の夜。
何と、あの彼から連絡が来た。
知らないアドレスからメールが一通。

「僕、別に人嫌いじゃないです」

すぐにわかった。
こんな事送ってくるの、あの子しかいない。
私は嬉しさから、部屋の中を歌い踊り飛び回った。

全く懐いてくれない野良猫ちゃんに、毎日毎日餌を持って慣れてもらいに行くような。
彼は今、やっと私の置いた餌を食べてくれるようになったのだ。
あと少し、私の手にすり寄ってくれるまで。
もう少し、あぁ、目の前にいる猫ちゃんが可愛くて堪らない。

私はその日以降、彼と文字のやりとりを毎日続けた。
素っ気ない文章だけど、必ず返信が返ってくる。
可愛くて可愛くて、毎日胸がいっぱいになる日々。

いつ誘おうかな…そんなことを思い始めた頃。
それは突然、彼からだった。

「あまねさんのお家、本たくさんありますよね、きっと。読みに行きたいです」

人嫌いだと思ってた彼のコレは…
彼は私の好意を知っている。
向けられた好意は気持ちいいでしょう?
自意識も段々と出来上がる。
私は、彼のその臆病なあざとさが可愛くて。
目の前の猫ちゃんに、両手を差し伸べる。

「沢山あるよ、いつでもおいで」

その返信をしてから一週間程経った頃。
私は締め切りに追われ、自宅で一人籠もっていた。

不意に鳴る携帯。
手に取り確認をすると、彼だった。
見なくてもわかる。
どうしたって私の顔がほころんでいく。

「今から行っていいですか」

「もちろん」

手早く返信し、一人自宅モードだった私は急いで身支度を整える。
1時間経たないうちに連絡が入り、とうとう彼が我が家に足を踏み入れた。

本屋以外で見る彼は、全てが新鮮だった。
シンプルだけどさっぱりとしたおしゃれで。
長い髪の毛も、暗い眼鏡もそれっぽく見えてくるから不思議だ。

「…お邪魔します」

「うんうん、よく来たね」

私はニコニコしながら飲み物を運ぶ。
すぐに本棚の前に立つ彼を呼び、一緒にソファーへ座った。

「本、何かいいのあった?」

「はい、読みたいものばかりでした」

うんうん、可愛いね。
君は私の部屋に来ても、目を合わさず徹底して俯くんだね。
いいのいいの、そんな君が好きだから。
怖いものね、認めて受け入れるのは。
もっと警戒して。ギリギリまで、私の好意を拒んでよ。

「そっか、いくらでも読んでいっていいからね!私ね、せっかく君が来てくれたんだけど、もう少し仕事しなくちゃいけないのよ、だから自由にしてて」

そう言い、彼から離れデスクに戻る。
初めて来た私の家で放置される彼の存在を背中で感じながら行う仕事は、いつにも増して捗った。
どんな事を考えているんだろう。
頭の片隅で想像を膨らませながら、キーボードを叩く指は陽気に踊る。
一息ついて時計を見ると、2時間も経過していた。
彼の姿を求め振り返ると、ソファーの上にちょこんと座り、本を見つめる姿に胸を打たれる。

「ごめんねーうっかり集中してしまったわー…」

「あぁ、はい、僕は全然大丈夫です」

見慣れた暗い彼。
いや、暗いんじゃないんだよね。
そのままなんだよね、彼は純粋で可愛らしい。
ソファーの上で小さくなって。
きっと落ち着くんだろうな、彼なりに。
そこが可愛いじゃない。私の見る目は間違ってなかった。

「…ねぇ、君はさぁ、急に現れた私に「性的に気になる」とか言われてどう思った?」

前髪に隠れて覗く君に近づく。
同じソファーに腰をかけた瞬間。
猫のような彼の、見えない全身の毛が逆だって、私を警戒し直した。

逃げないで、逃げないで…可愛い猫ちゃん。
私は君に何も危害は加えないよ。
美味しいものをあげたいだけ。
でももし良ければ、私に擦り寄ってちょうだい…それだけなのよ。

「…やばい人だと思いました」

あー…まぁそりゃそうだ。
しかもそれは当たってはいるぞ。
あれはまさにやばい人だ。
金輪際、そんなこと言って近寄ってくる女になびいちゃだめだぞ!
…と、心で激しく頷く。

「まぁそうだよね、あの時の私どうかしてたからな…あはは…」

「…はい。…でも、「受け入れて欲しい」って言われて、気になりました、正直」

あぁ、やばいな。
目の前で、そんなこと思ってたなんて聞いたら。
可愛すぎるよ。
ほんと、罪だな。
君っていう…猫は。

「……今もそう…受け入れて欲しいの、覗きたいのよ…拒む、君の中を…」

「………」

最後の距離。
息を潜めて、近づく。

目は合わせたまま。
そっと、音を立てないように。
気づかないぐらい、しなやかに。
君が驚いて、逃げてしまわないように。

「………っ」

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