「グラデーション」3


『…あ゛ぁ、おおぅ、ぶひゅぅっ…あう、あうええ…お゛…ぶふぅっ…』
『…いいねぇ…最高に気持ち悪いよ』

動画はそれだけだった。それだけなのに、俺は映像のブタに自分を重ね、酷く欲情した。
自分が人間とでも思っているようなブタ語で鳴き喚き、見てられないほどの醜さだった。
この瞬間まで何が行われていたのか、ここまで怯え、こんなに幸せを与えられるなんて。
そんなブタを目の前に平然と動画を撮影し、「いいね、最高に気持ち悪いよ」と呟いた声は僅かに甘く震えていた。しっとりとした吐息に興奮が滲む。正しい人間が美しい景色を視界いっぱいに映した時のそれだった。
信じられない。目の前にあるのはこの醜きブタで、こんな生き物を前に甘く深い溜息を漏らせる彼女の底知れぬ恐ろしさが、俺のたがを外させた。夢中でスウェットを脱ぐとすでにパンツは濡れていて、扱き始めるとすぐにヌチャヌチャ音が鳴る。
想像した。
手足を拘束されたまま浴槽に寝かされ、目と鼻と口がギリギリ出る水位までお湯が溜められている。彼女が浴槽の端から顔を出し俺を覗く。何か喋っているようだが、耳が水に浸かり何と言っているか聞き取れない。
コポコポと包まれる水音の中自分の心臓の音が聞こえ余計に恐怖が増す。彼女は浴槽のフチに立ち、俺の顔の真上でゆっくりしゃがむと、指でパンツを横にずらし勢いよく放尿し始めた。俺は焦りバタつくと顔にお湯が浸かり、逃れようと向き直すと彼女のおしっこが顔面を襲った。目にも鼻にも入り、気管に入った途端むせ返り止まらなくなった。俺が暴れたせいで波が立ち、絶えずお湯が顔にかかり続けた。息を吸う度溺れかけ、苦しい死ぬもうだめだ…そう思い首を起こした途端、彼女の美しい股間が俺の口を塞ぎ、そのまま窒息の世界へ押し戻された。

「はぁ…鯉みたい、気持ち悪い」

不意に聞こえた彼女の声。耳に、脳に。確かに届いた。生きようと必死な俺を見て、甘いため息の後にこう言ったんだ、鯉みたいで気持ち悪いって。
永遠と許してもらえない遊びを繰り返す中、俺は映像に映るブタのように意識は朦朧とし、言うんだ。「ありがとうございます…」って。あぁ堕とされたい、人では無い何かにしてほしい。もう全て諦めさせてほしい。
たった数秒の動画で何度も果てた。数秒とは思えないほど、イメージの中長い時間を過ごした。
抑圧された願望が、体温を持ち、色も匂いも痛みまで、俺に“見せた”。
現実に戻ったようで、現実の現実味が無かった。今の今まで過ごしていたイメージの世界があまりに鮮明で、戻ってきたはずの現実が仮の世界に思えてくるのだ。
気持ちは晴れていた。肩も、心做しか軽く感じた。溜まりに溜まった毒が、少しだけ抜かれた、そんな感じだった。
俺は何かを騙すような素振りで彼女をフォローし、仮の姿に戻った。

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