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「同じ月の下」


君のことを思うと内臓から身震いする。

全身で私を感じて、必死に刺激を受け止める。

耐え難い快感の時につぶる目
結ばれる口
困る眉毛

全身の力が抜け、唇がほんの薄く開いたかと思うと、小さく溢れた吐息。
全身を震わせ、私にしがみつく。

人は正しい記憶をずっと保存しておくことができない。
覚えていたくても忘れる。
覚えているつもりでも、記憶の一部が自らの脳によって書き換えられている。

私はこの素晴らしい瞬間を、いつまで正しく覚えていられるだろう。
目の前で一生懸命に愛を伝えてくれるこの子のことを、どれだけ私の中に残しておけるだろう。

私が疲れていないか、何かできることはないか。
チラチラと表情を盗み見る表情。

美味しいものを食べると、
私にも食べさせたいと店の名前を連絡してくること。

誰よりも甘えん坊なくせに、
素直に私のところに来れず、モジモジしている横顔。

ひどい仕打ちを受けているのに、
「大好きです」と呟き続ける涙。

「愛しているのよ」と伝えると、
何も言わずに顔を擦り寄せる時の温もり。

私ではだめだった。
君は素直で美しい。
私と一緒にいては、君が消耗されてしまう。

そんな泣かないで。
ほら、抱きしめよう。
こんなに愛してる。

君はまだ若い。
人は巡り合い。
私と終わるのは、君の長い人生で決まったシナリオ。
生きていく中で必要な人に出会うための、必要な別れ。
今は理解できないだろう。
でもきっと大丈夫。
辛いのは、一時。

最後の願いは、犯してほしいって。
そうだね、冷静ではいられない。
私だって少し気を抜けば溢れてきてしまいそう。

後ろから、慣れたそこを犯していく。

弱い角度を知っている。
たまらない仕草を知っている。
果てる時の声を知っている。

慣れ親しんだこの身体は、私のものではない。
これは君のものだから。

大事にしなさい。
自分を大事にして、君を大事にしてくれる人を、大事にしなさい。

何よ、いつも気持ちいい時は顔を上げて仰け反るじゃない。
肘をついておでこをベッドにつけたまま、知らない震え。

可愛い君の最後の願いは「真っ白になるまで犯してほしい」
私は俯く彼の髪の毛を掴むと、無理やり状態を持ち上げた。
弓なりに反った君は、両手のひらをベッドにつけたまま、私の行動に従う。

反らされた首を前から片手で掴み、もう片方はペニスを握る。なんだ、ちゃんと硬くなってるじゃん。

「大好きです」

なに

「大好きです」

なんで

「大好きなんです…っ」

君の身体をベッドに投げ倒す。
弱々しい腰を持ち上げ、全てを拭い払うように君を犯す。

君は何度か果てたかもしれない。
君の穴は切れたかもしれない。
もしかしたら、泣きながら私の名前を呼んでいたかもしれない。

どれもよくわからない。
真実なんて残酷なだけだ。
見えるもの聞こえるもの感じるもの。
時が経てば、都合よく作り変えられる。

私は少し冷静になり、気が済んだような気持ちになった。
彼は少しも動けない程、ぐったりとしている。

いつものように身体を撫でてあげようとして、手を止めた、その時だった。

彼が唐突に呟いた。

「…何もしてあげられなくて、ごめんなさい…」

今すぐ抱きしめて、否定したかった。
私はこんなに君が愛しくて、いつも君から沢山のものを貰ってた。
私とのこと、君が後悔することなんてない。

「今までありがとう」

何を言えば正しかったのか、今でも答えはわからない。

あれから、まだ君に相手ができていないことを風の便りで耳にした。

人見知りのくせに、あんなに人懐っこくて甘えん坊だから、寄り添う人がいないことを聞くと胸がチクン、と痛む。

月を見ながら願う。
早くあの子に相応しい相手ができますように。

でも

パートナーが出来るまでは、同じ月の下、私だけを想って切なく過ごしてますように。

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