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桜介に愛の花束を 34

カウントダウン


「桜介? どうしたの?」

 私たちが別れてから一時間近く時間が経ってる。
 桜介は寒さで少し震えていた。

「ずっとここにいたの? なんで? お母さんいなかった? 鍵、忘れたの?」
「いや」

 桜介は振り絞るような声でそう言った。

 もしかして、そう思い私は階段を上がろうとした。

 そしたらすぐに腕を取られ引き止められた。

「彼氏?」
「まぁ、そんなところ」

 そう言うと桜介は眉を下げ小さく笑った。

「うち、帰ろ。私んち、帰ろ」

 桜介の手を引いて立ち上げてそのまま歩き出した。

 桜介は何も言わなかった。だけどちゃんとついてきてくれた。

「あ、どうも、あれ? 渡さなかったの?」
「うん、桜介ね、鍵忘れちゃって中入れなかったみたい」
「ええー、この寒い中親待ってたんすか、姉ちゃん呼び出せばよかったのに。なぁ」
「本当だよね。まだ帰ってこないみたいだからうちで一緒にパーティーしようと思って」
「あぁ、そうだな」

「慎二くん、ありがとうね」
「え、全然いっすよ」

 桜介と目を合わせて小さく笑い合った。

 家に着くとすぐに桜介をお風呂に入れた。慎二の服を着せて濡れた服はハンガーにかけてエアコンの前で乾かした。

「さぁさぁ、食べましょう」
「クリスマスパーティー、いつまで出来るのかね」
「菜緒が高校卒業するくらいまでかな? 慎二もその頃には彼女でも出来て家にいなさそうだわ」

 二人がそんな話をしてしんみりしだしたから私はなんとなく居心地が悪かった。

「高校卒業してもまたクリスマスには菜緒、戻ってきなよ」

 そんな桜介の言葉。高校卒業したあと、私にクリスマスはこないのに親の気持ちに寄り添ってくれた桜介の気持ちが嬉しくて「そうだね」とポツリ呟いた。

 桜介がいてくれてよかった。不自然に少ししんみりしちゃうところだったから。

 ご飯を食べて、また出てきたケーキ。

「今日絶対太ったよね」

 小声でそんなことを言いながらも美味しくて全部きれいに完食。

「じゃあそろそろ帰ります」

 少しくつろいで慎二は部屋に戻り、お母さんは洗い物が終わった頃、お父さんはウトウト眠りかけている。

「あ、服、こっち来て」

 私の部屋に案内して服を触った。

「うーん、少しまだ冷たいなー」
「いいよ、大丈夫」
「そう?」

 そんな話をしてる最中に桜介はおもむろに上着を脱ぎ出した。

「ちょっとちょっと」

 私は慌てて後ろを向いた。

「あ、ごめん」

「着替え終わったら言って」

「うん……終わった」

 振り返ると来た時の桜介の格好に戻っていて、慎二の服を畳んでた。

「いいよ、それ畳まなくても」

 それを奪い取るように受け取って部屋から出ると、隣の慎二の部屋に雑に投げた。

「慎二ありがとうー」
「んー」

「じゃあ、外まで送る」
「寒いから中にいな」
「外までだから大丈夫。でも家、入れるかな?」
「そろそろ大丈夫だと思う」
「もしまた入れなかったら連絡して」
「あぁ」

 その日、桜介から電話がなかったから家に入れたのかなと思った。

 だけど、実際はどうだったのか分からない。

 桜介を助けられないもどかしさが心の中、棘のようにチクチクと刺さって痛い。

 桜介が傷つかず桜介が悲しい思いをせず、穏やかに生きられる、そんな日々であってほしい。

 それを与えてあげられるのはお母さんだけなのに――。

 二学期最終日、明日から冬休みだ。

「明日から冬休みに入るわけだけど、高校生らしい清く正しい生活を心がけて、くれぐれも俺らやご両親が警察なんかに呼び出されることのないように、頼むよ」

「はーい」

「それと、最近不審火のボヤ騒ぎがあちこちで起きてる、空気が乾燥してるから火の元には十分注意して」

「はーい」

「じゃあ、来年会いましょう、良いお年を」

「よっしゃー! 終わった」
「何か食べてく?」

 その亜美の言葉に一平、私、桜介、そして愛莉ちゃんが順に頷いた。

「全員参加! いいね」

 学校の近所のファミレスでご飯を食べた。

「今年もこれで終わりか」
「あっという間だったね」
「大晦日は菜緒んちでいいんだよな?」
「うん」

「約束」っていいよね。
 十二月三十一日、きっとみんなはうちにくる。

 だって「約束」したんだもん。

 未来の約束をして、それを叶える。

 小さな約束を、当たり前に叶える。

 当たり前のことなのに、当たり前に感じない。一つ一つのことがまるで奇跡のように感じるよ。

「食べ物はうちら持ち合わせていくから」
「うちにもあるよ?」
「メシまで世話になれねーよ」
「気、使わなくていいからね」

 そう言ったのに、当日ピザと大量のお菓子とジュースを買い込んで来た。

「お邪魔します、今日は大人数でお世話になります。うるさくならないように気をつけますが、もしもうるさくなっていたらどうぞ教えてください」

 亜美ってこんなちゃんとした言葉使えるんだってちょっと見直した。

「こちらよかったら召し上がってください」

 愛莉ちゃんが渡したのはケーキだ。

「駅前のケーキ屋さんのケーキ、美味しいんですよ」
「あらあらみんなありがとうね、このケーキはみんなで食べたら?」
「私たちは食べ物たくさんあるので大丈夫です」

 そして私の狭い部屋に五人で入った。

 このぎゅうぎゅうの感じもいいね。

 今日が終わるまであと三時間。

 少し怖くて震えそうになると桜介と愛莉ちゃんが勇気をくれるように力強く頷いてくれる。

 それに本当に救われたよ。

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