夏凪雨音

小説を書いています。

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桜介に愛の花束を 35

一括払いVS分割払い  悲しみの一括払いと分割払い、どっちかいいんだろう? 必然的に桜介と愛莉ちゃんには分割払いをさせてしまったけど、私はまだ亜美と一平に言うべきか悩んでいた。 「あけましておめでとうございます」  時計の針が二十四時を回ったと同時に打ち上げられた花火。  カーテンを開けて、窓を開けたら抗議が来た。 「寒い」 「え、でも見たくない?」  仕方ないからタオルで窓ガラスに降りた霜を拭き花火を見た。 「わっ、よく見えるね、キレイキレイ」 「来年もこう

    • 桜介に愛の花束を 34

      カウントダウン 「桜介? どうしたの?」  私たちが別れてから一時間近く時間が経ってる。  桜介は寒さで少し震えていた。 「ずっとここにいたの? なんで? お母さんいなかった? 鍵、忘れたの?」 「いや」  桜介は振り絞るような声でそう言った。  もしかして、そう思い私は階段を上がろうとした。  そしたらすぐに腕を取られ引き止められた。 「彼氏?」 「まぁ、そんなところ」  そう言うと桜介は眉を下げ小さく笑った。 「うち、帰ろ。私んち、帰ろ」  桜介の手を

      • 桜介に愛の花束を 33

        ふたつの傘 「お待たせ」 「どこ行ってたの?」 「ふふ、なんか頼んだ?」 「まだ」 「じゃあ先に頼もうか」  メニューを見て私はホットココア、桜介はカフェラテを選んだ。 「桜介、手出して」  そう言うと桜介は不思議そうな顔をしながら、それでも素直に両手を出した。  右腕には時計がついてるから却下。右腕をそっと押し返した。 「なに?」  そして左腕にさっき買ったヘアゴムアクセをつけた。 「そこで売ってたの、欲しくなっちゃって、ケーキ代も浮いたし」 「え、それなら俺

        • 桜介に愛の花束を 32

          私は今日も生きている 「そうだ、愛莉ちゃんカウントダウンうちに来ない?」 「え?」 「みんなで集まるの。よかったら」  結局三人とも二つのドーナツを頼んで、私はまずはクリスマス限定の方をかじった。  うん、やっぱりこれ正解だ。甘さが体に充満して幸せが充満してる気分になる。  思わず綻ぶ顔。口元についた砂糖をペーパーナプキンで拭きながらまだ愛莉ちゃんを誘ってないことを思い出した。 「いいの?」 「もちろん。私たちと桜介と一平いるけど、もし……嫌じゃなきゃ」  これ、

        桜介に愛の花束を 35

          桜介に愛の花束を 31

          女子だけで 「クリスマス行きたいって言ってたのどこ?」 「え? どこか行きたいって私言ったっけ?」 「行きたいけど予約してないし無理か、みたいなこと言ってなかった?」 「あぁ! あれね、違うの、一平がね、亜美誘いたいんだって」 「そっか、ついにか」 「そう、だから私は桜介と二人でどこか行きたいところがあったんだーって話をしただけ。一平が亜美をクリスマスの日に誘えるように」 「で? ないの?」 「ないって?」 「行きたいところ」 「あー、そうだね。イルミネーションがあるところ

          桜介に愛の花束を 31

          桜介に愛の花束を 30

          孤独 「はぁ……秋のイベントが終わっちゃったね」 「亜美疲れちゃってもうやだって言ってなかった?」 「言ったけどー終わってみたら楽しかったよね」 「原田も一緒に帰ろうぜ」 「え、あ、いいの?」 「いいよなー?」 「もちろん」 「もちろん」  この時に、私がみんなよりワンテンポ遅く返事をしたこと、愛莉ちゃん、気にしてないといいなー。と思ったんだけど、やっぱり気になるよね。  家に帰るとメッセージが。 「ごめん、私も一緒に帰っちゃって」 「違うの、私もそれは嬉しいの

          桜介に愛の花束を 30

          桜介に愛の花束を 29

          青春の一ページ  体育祭当日、私の心は浮き足立っていた。 「はぁ、やだな……もう疲れちゃった」  打って変わって亜美からは大きなため息がこぼれていた。 「菜緒、なんか楽しそうだね」 「んー、だって今からリレーだもん」 「はぁ、そういうことね、イケメン彼氏の勇姿が見られるからか」 「ふふ、まあね」 「一平のことも応援してあげなねー」 「それは亜美に任せるわ」 「なんでよ」 「亜美ー」 「んー?」 「このままでいいの?」 「え? は? なに? なんの話し」 「動揺しすぎー

          桜介に愛の花束を 29

          桜介に愛の花束を 28

          未来への希望  桜介が帰ったあと、お風呂に入り愛莉ちゃんへの言葉を考えた。  そして意を決してお風呂から出るとベッドに横になり携帯を取りだした。  緊張するけど勇気を出さなきゃ。一つ大きく息を吐き携帯を開いた。  すると一通のメッセージが届いていた。中を開くとそれは愛莉ちゃんからのものだった。  心臓が駆け足で振動していく。  それを落ち着かせてゆっくり中を開いた。 「ごめんなさい」  そこにはその一行のみが書かれていた。 「愛莉ちゃん、私の方もごめんね。愛

          桜介に愛の花束を 28

          桜介に愛の花束を 27

          またね 「でも菜緒、一人で抱えてたんだな」  桜介の穏やかな声が私の脳内に居心地よくとどまる。 「菜緒が思うほど悪くない未来が待ってるかもしれないよ?」 「私の未来は最悪のシナリオだよ」  何をどう考えても「悪くない未来」なんて思いつかなくて、桜介の言ってる意味が分からなかった。  普通は日々の積み重ねでラストがある。だけど私はラストがあって逆算するように日々を重ねる。  どんなに頑張ってもあのラストがある限り楽観的に物事を考えられない。 「菜緒、不安が顔に出す

          桜介に愛の花束を 27

          桜介に愛の花束を 26

          私たちに明日はある  病院に着いて投げ捨てるように自転車から降りると入口から桜介と愛莉ちゃんが歩いて出てきた。 「桜介」  上がる息を整えて桜介の名前を呼ぶと桜介と愛莉ちゃんがこちらに気づいた。 「もう帰れるの?」 「あぁ、学園祭の準備をしていてうっかりカッターが当たっちゃったって言ったら警察にも言わないでくれたから」 「そう……」 「桜介! 原田」 「ちょっと一平、声がでかい、ここ病院だよ」  聞き慣れた声がして振り返ると亜美と一平がそこにいた。 「呼んだの?

          桜介に愛の花束を 26

          桜介に愛の花束を 25

          青天の霹靂 「高三の夏、私は事故に遭ったの」 「その事故で……?」 「そう。で、さっき書いてあったのと結構似てる。死神……本人は「天使」って言ってたけど、まぁ黒い服着た人が現れて過去に戻してくれた」 「過去を変えた?」 「うーん、少しだけ」 「もしかしたら桜介くんと付き合ってなかったけど上手いことやって付き合うようにしたとかはない?」 「あ、それはないよ」  愛莉ちゃんが気になってたのは桜介と付き合ってたかどうかってところだけで他の部分にはあんまり興味がないんだなって思

          桜介に愛の花束を 25

          桜介に愛の花束を 24

          告白 「タイムリープ?」  その文字を見た瞬間体が硬直していくような錯覚に陥った。  そしてその文字を見たまま乱れていく呼吸を必死に整えた。 「菜緒?」  隣から桜介の声がして我に返った。  だけど、それと同時に続けてメッセージがもう一件届いた。  それはアルファベットの羅列で、httpsから始まるインターネットにアクセスするurlだった。 「おい、相田」  ビクッと体が跳ね上がった。 「何してるんだ?」 「あ、いえ……あの、ちょっとトイレ行ってきてもいい

          桜介に愛の花束を 24

          桜介に愛の花束を 23

          タイムリープ 「キャー」  普段は授業をしている静かな教室だけど、今日は少し違う。  悲鳴が鳴り響き、朝からひっきりなしに人が出入りする。  お化け屋敷の出し物は大盛況で幕を閉じた。  私たち四人は午前を担当したから午後からは自由時間になる。他のクラスの出し物を見に行ったり、出店に立ち寄ったり、建物の死角になるところでちゃっかりカップルになってる人がいたり、それぞれがお祭り気分で楽しんだ一日。  途中から私と桜介、亜美と一平の二手に分かれて楽しんだ後、夕方十七時に

          桜介に愛の花束を 23

          桜介に愛の花束を 22

          手紙  亜美へ  元気? 専門受かったかな?  亜美と一平は地元に残ること、進路を決めたあの時は少し淋しく感じてたの。  だけど今はよかったと思ってる。  地元にいてくれるといつも近くにいてくれる気になるから。  私はこんなことになって悲しい思いをさせてごめん。  この手紙を書いている今、私は私の未来に何が起きるか知っています。知ってて書いてるの。  もっと言うとね、知ってて高校生活送ってたの。  だけど安心してね。あの日、私は自ら命を絶ったわけじゃないよ。

          桜介に愛の花束を 22

          桜介に愛の花束を 21

          タイムカプセルに乗せて  桜介のこと詳しく聞かなかったり、桜介と未来の話をしなかったのは現実になるのが怖かったから――。 「あとは椅子並べて黒いカーテン被せたらいいかな?」 「だいぶ出来上がってきたな」  毎日遅くまで残って少しずつ完成していくお化け屋敷に言葉に出来ないくらいの達成感を感じていた。 「私、青春してる」って思っては胸がギュンと軋《きし》んだ。錆《さび》 てきてるのかな、最近よく軋む。  潤滑油がないとギーギーとこの胸はうるさいままだよ。  潤滑油、っ

          桜介に愛の花束を 21

          桜介に愛の花束を 20

          雨の夜 「菜緒?」  しがみついて離れない私が濡れないように桜介は傘だけ拾って、片手で傘をさしながら、もう片方の手で抱き寄せてくれた。 「震えてる。風邪ひくよ」 「もう少し」 「うーん……ならうち、来る?」 「え?」  ドキッと心臓が跳ねてギュンと縮んだ。 「うち、いつも夜まで誰もいないから」 「うん」 「家に電話して」 「しなくてもいいよ、少しくらい」 「だーめ、ほら早く。あと亜美の家って口実もなしな。なんなら俺電話出るから」 「いいよ、そこまでしなくて」  私

          桜介に愛の花束を 20