桜介に愛の花束を 24
告白
「タイムリープ?」
その文字を見た瞬間体が硬直していくような錯覚に陥った。
そしてその文字を見たまま乱れていく呼吸を必死に整えた。
「菜緒?」
隣から桜介の声がして我に返った。
だけど、それと同時に続けてメッセージがもう一件届いた。
それはアルファベットの羅列で、httpsから始まるインターネットにアクセスするurlだった。
「おい、相田」
ビクッと体が跳ね上がった。
「何してるんだ?」
「あ、いえ……あの、ちょっとトイレ行ってきてもいいですか?」
「あぁ、行ってこい」
隙を見て携帯をポケットにしまって小走りにトイレへ向かった。
「おーい、廊下は走るなよー」
そんな先生の大きな声が廊下中響いた。
だけどそんな言葉は頭に入らない。慌ててトイレに駆け込みポケットから携帯を取りだし、震える指でそのurlをクリックした。
『死神に会ってきたんだが』
最初に飛び込んできたのはこんなタイトルだった。
――くっだらねぇ。まぁ、とりあえず話せよ
――どうせ釣りなら面白く書けよ、待機
『先月俺は死んだんだ』
――幽霊かよ
――幽霊が書き込んでると聞いて
『厳密には死んだんじゃなくて死にかけたんだ。一時的に心臓が止まってたらしい。俺は元々病気で体が弱くて入退院を繰り返してるんだ』
――ダメだ、涙が出てきた
――強く生きて欲しい
――なんか流れ変わったな
『一瞬死んだと認定されたのか死神みたいな奴が目の前に現れて早く上に来いって急かしたんだ。俺はまだ死にたくないし抵抗してたら今死んだことを認めたら特別に過去に戻してあげるって言われたんだ。なにやら特別キャンペーン中らしい。人生二周目が出来るって言われた。なんか夢あるよな』
――二周目の奴がいたら競馬とか当たりまくって完全に人生イージーモードじゃねーか
――なんか周りに前もって災害みたいな未来が分かる奴がいるんだよ、霊能力的な感じかな? って思ってたけど、もしかしたら二周目なのかな?
――待てよ、その死神ってどんな服着てた?
『黒い服を着てた。大人の奴と子供みたいなちっちゃい奴も隣にいた』
――俺もそいつら見たことある
――自演か? 一気に胡散臭くなってきた
――いや、でも俺は過去に戻れるなんて言われなかったぞ
――キャンペーンに外れたんだろ
――お前って奴はいつでも外れる人生だな
――お前死にかけたのかよ?
――人生に絶望したけど死にきれなかった
――生きろよ
――自ら死ぬのはキャンペーン対象外なんだろ
『死にかけた時の不思議な体験て話。俺の話は以上』
――は? オチは?
――オチがないのが逆にガチっぽい
――お疲れ、みんな死ぬなよ
そこで会話は終わっている。
愛莉ちゃんは私たちが未来を当てたことと「二周目」という日常生活では聞かない言葉が気になって調べたんだ。
「二周目 未来が分かる」
試しにこの二つのワードを検索欄に入れたらこのページに辿り着いた。
これを信じたの?
携帯を見つめたままチャイムが鳴って授業が終わったことに気づいて慌てて教室に戻ると先生が教室からちょうど出てきたところだった。
「おお、相田、腹痛いのか? 大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。すみません」
教室に戻ると亜美と一平も近づいてきた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
「ううん、携帯見てたら授業終わってた」
なるべく明るいトーンで異変に気づかれないようにそう言うと亜美と一平は笑いだした。
「なにやってんのー」
「まぁ、俺もたまにやる」
二人が席に戻っていくと桜介に声をかけられた。
「なんかあった?」
そして私は愛莉ちゃんの方を見た。
愛莉ちゃんは今度は机から出して堂々と携帯を見ていた。こっちには見向きもしない。
桜介にそっとさっきのurlを開いて見せた。
「なんだこれ」
「みんな面白半分で書いてるだけだし、信じる人もいるだろうし信じない人もいると思うんだけど、この人は嘘ついてないと思う。これ愛莉ちゃんからさっき送られてきた」
「原田から?」
「愛莉ちゃん気づいてる」
本当のことを言おう。
信じてくれるならむしろ話が早い。
「私、言う」
そう言うと桜介は小さく頷いた。
「俺も一緒に言おうか?」
「大丈夫」
席を立ち愛莉ちゃんの方へ向かった。
「愛莉ちゃん」
声を掛けると愛莉ちゃんはゆっくりと顔を上げた。
「放課後、ちょっと時間あるかな?」
そう言うと愛莉ちゃんは無言で力強く頷いた。
「桜介、今日先帰ってて」
「待ってようか?」
「大丈夫、亜美と一平に……」
「上手く言っとく」
「ありがとう」
放課後、愛莉ちゃんと二人きりになるのを待った。
「ごめんね、時間取っちゃって」
そう言うと愛莉ちゃんは俯きながら首を横に振った。
「あのサイト見たよ」
「うん、なんかおかしいなって思って」
「そうだよね」
「二周目って聞きなれない言葉とか、なんで人身事故のこと知ってたんだろうって思ったら気になって」
「うん」
「あんなの嘘くさいかもしれないけど、あれが事実ならしっくり来るって言うか……」
「うん、そうだね。合ってるよ」
その瞬間、いつも私の前では感情が表情に出ない愛莉ちゃんの顔が一瞬にして色を変えた。
「未来から……来たの?」
愛莉ちゃんの目を一瞬をも逸らさず力強く頷いた。
その時愛莉ちゃんはぎゅっと強く目を瞑った。
まるで何かを決意したように――。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?