桜介に愛の花束を 28
未来への希望
桜介が帰ったあと、お風呂に入り愛莉ちゃんへの言葉を考えた。
そして意を決してお風呂から出るとベッドに横になり携帯を取りだした。
緊張するけど勇気を出さなきゃ。一つ大きく息を吐き携帯を開いた。
すると一通のメッセージが届いていた。中を開くとそれは愛莉ちゃんからのものだった。
心臓が駆け足で振動していく。
それを落ち着かせてゆっくり中を開いた。
「ごめんなさい」
そこにはその一行のみが書かれていた。
「愛莉ちゃん、私の方もごめんね。愛莉ちゃんを傷つけるような言い方しちゃったってずっと気になってて、今謝ろうと思って携帯を開いたの」
「菜緒ちゃんの言ったことは全部事実だよ。菜緒ちゃんがいなくなったところで私は桜介くんの彼女にはなれないよね。本当はそれ、気づいてた。でも気づかないふりをした。気づいたらもうそれが決定事項になる気がして」
「うん、わかるよ」
「菜緒ちゃん、過去に戻ったってことは未来を変えられるんだよね? その為に戻ったんだよね?」
「違うよ」
そう言うと愛莉ちゃんは「え」と小さく漏らした。
「未来は変えられないの。私がここでどんな行動をしてもそれは軌道修正されちゃうの。私の未来は変わらないの」
「そんな……」
「だからね、命ある限り精一杯生きてほしいの。生きてると辛いことがあるのも分かる。桜介と付き合いたくて過去に戻ったら変えられるかもって思うのもわかる。でも大抵の人はそれは思うだけなんだよ、実行にはうつさない。愛莉ちゃん、本当に死ぬつもりだった?」
その質問からの返事はしばらくなかった。
既読はついてるはずなのに、いつまで待っても返ってこない。
一度携帯を閉じようとした時に文章が届いた。
「死ぬ気はなかった。怖いよ、戻れるかなんて半信半疑だったし」
「それ聞いて安心した」
「菜緒ちゃん……」
「んー?」
「死なないで」
「ごめん」
さっきよりずっと短い文なのに返ってくるのが遅い。愛莉ちゃん、文字打ちは早いはずだ。
もしかしたら泣いてくれてるのかなと思った。
「電話していい?」
「今無理」
「そっか」
「やっぱする」
「どっち」
思わずふっと吹き出してしまった。そして掛かってきた電話。やっぱり震えた鼻声、いつもの声じゃない。
「泣いてるの?」
「だっ……て」
「泣かないで、私のためなんかに泣かないでよ」
「でも、菜緒ちゃんは……泣いてくれた……私なんかのために……泣いてくれたじゃない」
「そっか、そうだね、ならお互い様だね」
そう言ってふっと笑うと愛莉ちゃんも釣られたように笑った。
「亜美たちね、知らないの」
「え、言わなくていいの?」
「うん、悲しい思いさせちゃうかなって」
「知らなかったらもっと悲しい」
「愛莉ちゃん、どう? 知ってよかった?」
「私は……知らない方がよかったかな」
「ほら」
「でもそれは……私はあんまり仲良くなかったからで。亜美ちゃんくらい仲良かったら知ってた方がいい」
「どうして?」
「だって最後の日、喧嘩して別れるかもしれない、最後の日、楽しくない一日を送っちゃうかもしれない、最後の日、忙しくて優しく出来ないかもしれない……」
「それでいいんだよ、いつも通りのみんなでいたいの。最期のその瞬間までね」
そう言うと納得したようなしてないようなそんな曖昧な返事が返ってきた。
そして時間も遅いからと電話を切った。
桜介、愛莉ちゃんと仲直り出来たよ。
それどころか前より仲良くなっちゃった。
過去より仲良くなっちゃった。
これって収穫だよね。私、期限はあるけどなにかにチャレンジしてみようかな、またこんな風に過去より収穫があるかもしれない。
何ができるかな? 私は絵が好きだから漫画を書いてみようかな。
題材は――そうだな。
命が終わる女子高生が過去に戻って色んな悪い過去を変えてくのなんてどう?
そして最後は自分の未来を変えてハッピーエンド。
みんなが一緒に歳を重ねて、一緒に人生を経験をして、大人になってもおばちゃんになってもおばあちゃんになってもずっとずっと一緒にいるの。
創作なんだから願望のまんま好きな結末でいいよね。
私の好きな世界を私が好きなように書く。
毎日少しずつでも書いていこう。手書きになるから時間がかかるな。
出来上がった時、みんなにみてもらいたいな。
そこに私はいるから。
その物語の中に私はいるから。
だからみんなも淋しくなったらその物語の中に入ってきてほしい。
そしたらいつでも会えるね。
そう思ったら『菜緒が思うほど悪くない未来が待ってるかもしれないよ?』さっきの桜介のその言葉が頭に浮かんだ。
そうなのかもしれない。
私の未来は私が作る。
たとえそれがお話の中だけのものだとしても、そう思えば私の心は弾んでくるし、希望も持ててくる。
こんなに前向きにしてくれたのはやっぱり桜介だ。
そんな桜介はおそらく私がいなくなった先の未来で何かが起きた。
ずっと怖くて聞けなかったその「なにか」それが桜介の未来を陰りのあるものになんてするものじゃありませんように。
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