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桜介に愛の花束を 30

孤独


「はぁ……秋のイベントが終わっちゃったね」
「亜美疲れちゃってもうやだって言ってなかった?」
「言ったけどー終わってみたら楽しかったよね」

「原田も一緒に帰ろうぜ」
「え、あ、いいの?」
「いいよなー?」
「もちろん」

「もちろん」

 この時に、私がみんなよりワンテンポ遅く返事をしたこと、愛莉ちゃん、気にしてないといいなー。と思ったんだけど、やっぱり気になるよね。

 家に帰るとメッセージが。

「ごめん、私も一緒に帰っちゃって」

「違うの、私もそれは嬉しいの。大人数の方が楽しいしね。でもね、愛莉ちゃんが無理してるんじゃないかなって思って。桜介と一緒にいたり私と一緒にいること、辛いんじゃないかなと思っちゃって」

「桜介くんと一緒にいるのは……辛くない……ことはないかな」
「だよね」
「菜緒ちゃんと一緒にいるのは……これも辛くない……ことはないかな」
「やっぱり」
「でも菜緒ちゃんのは、桜介くんの彼女だから辛いとかじゃなくて、菜緒ちゃんいつかいなくなっちゃうの思ったら辛くなる」
「あ、そっちか」
「うん、だけどね、いつかいなくなっちゃうなら、それまで一緒にいたいの。いいいかな?」
「え? 私と?」
「うん、菜緒ちゃんと一緒にいたい。もしかしたら私の力で菜緒ちゃん助かったりして! なーんて、ないかな?」
「ありがとう」

 なんだろう、嬉しくて「ありがとう」なんて素っ気ない文字しか打てないよ。

「また調べとくね」
「あの怪しいサイト?」

 そう書いたら爆笑してるスタンプが返ってきた。

「そう、あの怪しいサイト、意外に侮れないんだよ、あそこはね、九十九%の嘘に一%の真実が埋もれてるの」
「九十九パーセントの嘘?! 九十九パーセントの真実に一パーセントの嘘じゃなくて?」
「うん、九十九%の嘘。ほぼ全部嘘」
「なにそれー、じゃあよくその中であの真実見つけたね」
「うん、だから菜緒ちゃんを救う方法、見つけるから」
「ありがとう」

 やっぱり「ありがとう」なんて陳腐な言葉しか出てこない。

 もっとスラスラと気持ちが言葉に出来たらいいのに。

 こんなに嬉しくて今すぐ外に飛び出して「わーー」って叫びたいほどなんだよ! って、この気持ち、伝わればいいのに。

 春、夏、秋、冬、一年は四分割されてるはずなのに春と秋は飛ばされることが多い。

 しつこい残暑に嫌気がさして恋しい秋。やっと来たかと思えば一気に冬が来る。

 冬が来れば夏を想い春を待つ。

「寒い、ここのところ一気に寒いよね、もう雪降るんじゃないかってくらい」

 十二月に入ると街も色付きだした。キラキラと光るネオンが私たちの周りを飾りだしたころ、心はそわそわと落ち着かなくなってくる。

「クリスマスどうする?」
「桜介と菜緒はどっか行くの?」
「決めてないけど……みんなで会わないの?」
「うん、みんなで会おう」
「おい、亜美、それは野暮ってもんよ、恋人同士の初のクリスマスだぜ? 二人きりで過ごさせてやろーぜ」
「それも……そうか」
「いいよ、愛莉ちゃんも呼んでみんなで遊ぼうよ」
「菜緒、ちょっとちょっと」

 突然一平が小声で私に手招きをした。当然全員が見ていて隠れるように端に行く理由もない。

「なに」

 一応一平の方へ行き、小声で聞いた。

「ここがチャンスなんだよ! わかるだろ」
「え? まさか一平亜美のこと誘うの?」
「告ろうと思う」
「いい! いいよ!」

 私の声が思ってた以上に大きかったらしく「ばっか、デカいデカい」慌てて口に手を当てられた。

 チラリと後ろを振り返ると……うん、思いっきり二人ともこっち見てる。

「分かった。じゃあ私は桜介と一平は亜美と」
「あぁ」
「健闘を祈る」

 敬礼ポーズをしたら一平もそれを返してくれた。

 もう桜介も亜美も不審がることもなくなってた。
「またいつものことか」くらいの二人のおふざけに見えたんだろう。

「桜介、私行きたいところあるの、連れてってくれる?」
「あぁ、いいけど」
「でもクリスマスだし混んでるよね、今から予約とか無理だし……」
「え、待って待って、みんなで会うんじゃなかったの?」
「亜美ごめん、やっぱり桜介と一緒にいたいから」

 そう言うと亜美は呆れたように大きくため息をついた。

「カウントダウンは約束通りみんなで会おうよ」
「あ、その日なんだけど……」
「なに? その日も桜介と二人でいたいって?」
「違う違う! うちに来ない? と思って」
「いいの?」
「うん。愛莉ちゃんも誘って」

 帰り道、一平と亜美と別れて桜介と二人きり。

「私愛莉ちゃん誘っとくね、桜介大丈夫だよね?」
「あぁ、俺はいいけど、いいの?」
「うん、なるべくね、家族ともいっしょにいたいんだ。だからうちだったらみんないるでしょ、ちょっと反則技。強引に全員集合」
「なるほどな」
「でも桜介はお母さんといなくていいの?」
「俺はいいよ。多分その日も――いないから」

 桜介の孤独はどうやったら埋まるんだろう。

 だけど桜介はどうしてこんなに孤独を感じさせないんだろう――。

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