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桜介に愛の花束を 22

手紙


 亜美へ

 元気? 専門受かったかな?
 亜美と一平は地元に残ること、進路を決めたあの時は少し淋しく感じてたの。

 だけど今はよかったと思ってる。
 地元にいてくれるといつも近くにいてくれる気になるから。

 私はこんなことになって悲しい思いをさせてごめん。

 この手紙を書いている今、私は私の未来に何が起きるか知っています。知ってて書いてるの。

 もっと言うとね、知ってて高校生活送ってたの。

 だけど安心してね。あの日、私は自ら命を絶ったわけじゃないよ。

 ちょっとにわかには信じがたいようなことが起きてあの高校一年の時に戻れたの。

 それから亜美にこのことを言おうかずっと迷ってた。だけど、残りの二年をただお腹抱えて笑える二年になるか、いつも私のことが頭にチラついて悲しい二年になるか、そのどっちも考えた時、私は言う決断は出来なかった。

 ごめんなさい。

 亜美、仲良くしてくれてありがとう。亜美のこと、大好きだったよ。

 いつか亜美と一平が結婚して子供が出来る、そんな風景がなぜだか最近ずっと頭に浮かぶの。

 二人はまだ気づいてないみたいだけどね、この手紙を読む頃にはきっと気づいてると思うな。

 一平へ

 一平のお父さんのこと、私元々知らなかった。そりゃ言ってないんだから知らなくて当たり前って思うかもしれないんだけど、そうじゃなくて、私には元々、元の世界があって、命が終わってからもう一度高校生活をやり直してるの。

 一回目の時、一平はその話をしていなかった。ってことは、二回目の時は相当私と桜介に違和感を覚えたんだと思う。そして私たちを救えるのならってあんな辛い話をしてくれたんだと思う。

 ありがとうね。だけどあの時本当のことが言えなくてごめんね。

 あの時私、桜介と付き合っててそれを言い出しづらかったって言ったら二人はすごく喜んでくれた。実際その言葉で納得してくれたのかは分からないけど、本当は私があと二年しか生きられないことを私自身が知っていたことからくる違和感だったと思う。

 上手く隠せなくてごめんね。心配かけてごめん。言わなかったことも本当にごめん。

 なんか謝ってばっかりだね。
 本当はありがとうって言いたいのに。

「腐れ縁」だなんていつも言ってたけどさ、本当はこれからもずーっと「腐れ縁」だったらいいって思ってたよ。

 切りたくても切れない縁じゃなかったの? って感じだよね。

 
 桜介へ

 初めて会った時から桜介のことが好きでした。あの桜舞う入学式の日、私は桜介に一目惚れをしました。

 後悔なんてしてないよ。桜介が受けいれてくれたから。

 出会ったこと後悔なんてしてない。
 今はもう、ね。

 桜介を好きにならないようにと踏ん張って、桜介に好きになられないようにと避けて、桜介と付き合わないように過去を変えてごめんなさい。

そんなことしても変わらない本筋が二つあることに気づいた。

 それは、一つは私の命。
 そしてもう一つは、私と桜介が想い合うこと。

 命に関してはあの「天の使い」が言ってたの。

『あの事故はあなたの寿命だから変えられません。猫を助けなかったら、とか学校を出るのが遅かったら、とかそんなことは関係ないのです。そこで回避をしても回収をしにきます。#逸__そ__#れた物語を軌道に戻すための「回収作業」が行われるだけのことです』

 ってね。
「寿命」ていうか「運命」なんでしょ?

 だから変わらないんだよね?

 だったら私と桜介がどんなに離れようと努力しても無理なのは「運命」なんじゃないかって思ったらちょっとだけ嬉しくなったの。

 だけど私がいなくなったら運命の相手も変わるだろうから、桜介は私のことは気にせず幸せになって欲しい。

 強がりなんかじゃないよ。出会った頃ならこれ、強がりで言ってたかもしれないけど、今は少しだけ強くなれた気がするから。

 自分の幸せより人の幸せを願えるようになったんだと思う。

 こんなこと言ったら妙に物分りのいい「いい女」風だね。

 実際ズボラでしっかりしてなくて、ワガママばっかりだったのにね。

 最後に、いつも言おうと思ってたことがあったんだけどどうしても言えない言葉があった。

 私ね、生まれ変わったら桜介の膝で眠る猫になりたいの。

 ぐるると喉を鳴らして「幸せだよ」と伝えたいの。

 そんなこと思ってたら、私は今桜介と話せるのに「幸せだよ」って言ってないことに気づいたの。

 だから頃合いを見て言うつもりだったんだけど、これがなかなか言えない。

 好きとか幸せとか相手を傷つける言葉じゃないのになぜ人は上手く言えないんだと思う?

 なんなら傷つけるナイフのような言葉の方が出すのにエネルギーを使わないのかもしれない。

 好きってエネルギーを大きく消費してすごく勇気をだして言うのに、たった二文字ぽっちだし、言われた方は、なんだかあまり信用しなかったり。

 どうして「好き」より「嫌い」の方が人は受け入れてしまうんだろうね?

「好き」の方がパワーは大きいのにイタズラ半分の「嫌い」に負けてしまう。

 でもこれ伝え方じゃないよね。伝わらないなら何度も言えばいい。何度だって言えばいい。

 桜介のことが好きです。
 そして桜介と出会えて幸せでした。

 ちゃんと、伝わるといいな。

              菜緒

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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