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桜介に愛の花束を 23

タイムリープ


「キャー」

 普段は授業をしている静かな教室だけど、今日は少し違う。

 悲鳴が鳴り響き、朝からひっきりなしに人が出入りする。

 お化け屋敷の出し物は大盛況で幕を閉じた。

 私たち四人は午前を担当したから午後からは自由時間になる。他のクラスの出し物を見に行ったり、出店に立ち寄ったり、建物の死角になるところでちゃっかりカップルになってる人がいたり、それぞれがお祭り気分で楽しんだ一日。

 途中から私と桜介、亜美と一平の二手に分かれて楽しんだ後、夕方十七時に教室で待ち合わせをした。

 西日が差し込んで少し眩しい。

「あの二人まだ来てないね」
「ちょっと待ってよう」
「うん」

「お化け屋敷、上手くいったな」
「そりゃ、二周目だからね」
「まぁ、そうだな」

「早く来ないかな、今日って人身事故あるよね? 早めに帰らないと巻き込まれちゃう」
「あぁ、あったな。あれか。二人同時に飛び込んだんだっけ? 隣町の高校の奴らだったよな――」

「お待たせー、ごめんごめん、あれ? 一平? 一緒に来たんだけどな……」

 亜美は廊下に向かって顔を出した。そしたら一平はそこにいたみたいで「早く早く」と声が聞こえてきた。

「わりぃわりぃ、原田が立ってたからどうしたのかと思って話しかけてた」
「なんだったの?」
「いや、分かんね、でもなんか顔が強ばってた」
「なんだろうね……ちょっと話しかけてくる」

 亜美はまた廊下に顔を出すと「どうしたの?」と大きな声で聞いた。愛莉ちゃんの声は聞こえなかったけど多分首を横に振ったんじゃないかなと思った。

「大丈夫みたい」

 そう言って戻ってきたからそう察した。

「じゃあ帰ろっか」

 そして私たちは教室をあとにした。

「二周目って……なに?」

 その後ろ、吐き捨てるような愛莉ちゃんのその言葉、私たちの中に聞こえた人は誰もいなかった――。

 翌日、いつも使う在来線で人身事故が起きたという話題で地元のニュースは持ち切りだった。

 人身事故が起きた時、新聞にひっそり載る程度だと思うけど今回は「二人同時に」という点とそれが「地元の高校生」という点がセンセーショナルな内容として心に強く残ることになった。そして学園祭の帰りだったということも記憶に鮮明に残すことになった。

「ねぇ、聞いた? 昨日の人身事故」
「もう一本遅かったら俺ら乗ってたかもな」
「電車乗ってた人は怪我も何もなかったみたいだな……おぉ、原田、おはよう」
「……おはよう、ねぇ、桜介くんちょっといい?」
「なに?」
「昨日の話だけど……」
「昨日?」

「二周目ってなに?」

 その瞬間私は全身の血が引いてく感覚に陥った。

 そして体は熱くなり、心拍数が緩やかに、次第に激しく上昇した。

「なに? 二周目?」

 亜美がその言葉に反応した。
 私は桜介と目を合わせたけど、どうしたらいいのかわからずあからさまに目が泳いだ。

「二周目? なんの話?」

 桜介は冷静にそれを返した。

「昨日の電車の……」

 続けてそう話そうとした時、桜介は冷静にその言葉を遮った。

「あっちで話そうか」

 あくまでも穏やかに、冷静にそう言うと愛莉ちゃんは強い眼差しをしながら一つ、頷いた。

「なになに? 昨日の電車ってなに?」
「さ、さぁ」

 桜介はどう言い訳するんだろう。
 昨日の会話を愛莉ちゃんに聞かれていたんだ。

「授業を始めるぞー、お前ら座れー」

 二人がどんな会話をしたのか聞くことが出来ないまま、先生が教室に入り、全員席に着くことになった。

 だけど気になって、授業が終わるまで待てなくて、桜介の方を見て小声で聞いた。

「愛莉ちゃんなんだって?」
「昨日の全部聞かれてた」
「怪しんでた?」
「かなり」
「なんて返したの?」
「二周目は菜緒が中学の時にお化け屋敷やったことあるから二度目だって意味って言った。人身事故の話は最近人身事故多いよなって話をしていたけど今からそれが起きるとかそういう話はしてないし、分かるわけなくない? って言った」
「信じてた?」
「いや、あんまりかな」

 愛莉ちゃんの方を見たら机の中、先生から死角になる所で携帯をひっそりと見ていた。

 それはまるで何かを調べるように、時々ペンを取りノートに書き込んでいた。

 愛莉ちゃんは何かに気づいたんだろうか?

 気づいたとしても証明することが出来ないんだからどうにもならない。

 たとえクラスの全員にバラされたとしても信じる者はいないだろう。

 視線を感じたのか次の瞬間愛莉ちゃんは顔を上げた。私は慌てて目を逸らした。

 前を向き、一つ深呼吸をしてもう一度愛莉ちゃんの方を向くと愛莉ちゃんはまだこちらを見ていた。

 それは睨みつけているようにも見えた。

 そして携帯をトントンと指さして、続けて私の鞄を指さした。

 なんだろう、私の携帯電話を見ろってことかな?

 先生にバレないようにこっそりと机の横にかかっている鞄を膝の上に乗せ、中にある携帯の電源を入れた。

 メッセージが一件。

 恐る恐る開いた。
 メッセージの相手は愛莉ちゃんだ。たった一行だけのメッセージ。

「タイムリープ?」

 心臓に何かが突き刺さったかのように、一瞬息が出来なかった――。

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