No.49 ユークレース

南極の氷をそのまま石にしたかのようなユークレースだ。
透明感が強く青い色もきりっとアクセントに入っていてクールな印象を強めている。爽快感を感じる美しき原石だ。
もともと、私はこのユークレースを買う予定はなかったのだ。つまりこれは想定外の出費である。
ことの発端は2019年の夏。私が行きつけにしている店の一つ、群馬にある鉱物店の店主が病に倒れてしまったという情報が舞い込んできた。幸い一週間程度で回復したようで、店主が店を再開してから数日後に買い物と称してお見舞いに行こうと思い、店に向かった。この時点では「お見舞いに行く」というのがメインなので、買い物としては1000円程度のクオーツを買おうと思っていた。そう、あくまでメインはお見舞いだったのだ。
店に着いて店主に「体調大丈夫ですか？」と軽く話をしてから、店内を物色し手頃なクオーツを手にレジへ向かうと、おもむろに店主がこう言った。
「そういえば最近ユークレース入ったんだけど、見る？」
欲深い私はこの言葉に抗うすべがなく、速攻で「見ます！」と返答。
そして店主が品物を持ってきてレジのあるテーブルの上に並べた。
テーブルには小粒ながら美しいユークレースの原石が7粒。お値段は一個5000円。内心「ぐああああああああ！！！」と悶ていた。財布にとっては大打撃。しかしユークレースは美しい。
正に勇者から会心の一撃を食らった気分だった。
そして誘惑に負け、ご購入。
完全に店主のほうが一枚上手だった。
しかし全く後悔していない。
むしろ「買って正解だったぜ！」と完全に開き直っている。
こんな図太い思考力があるから、私は鉱物にのめり込んだのだろう。
自分のことは愚かだと全く思ってない。しかし、割と親に言えないような値段の代物があるので、多少の後ろめたさは感じる。
余談だが、この店主はツーソンのミネラルショーでレッドユークレースを拝んで来たらしい。本当は買おうと思ったが、あまりにも高額だったため諦めたそうだ。この話を聞いた当時は「次はピンクユークレースを狙ってる」と言っていたが、手に入れたのだろうか？
いずれにせよこの店主は博識で頼りになる方なので、これからも元気に長く店を続けてほしいなと願っている。