シカに遭遇!
義理実家を出発する前に、みんなでおばあちゃんの家の裏山に登ってみた。
静けさが痛いほど。
道はほとんどなくて、細いけものみちしか残っていない。
ふうふう言いながら歩いていると、足元がぱっと明るくなるように花びらがたくさん落ちている。
見上げてみると、椿だ!
手入れされてない、野生のままの椿だった。
鳥の声が断続的に響いている。
壊れかけた石垣が小さなお堀のようなものを作っていた。
「ここは昔、わさび畑だったんだって」
下の子がさっそく、俳句を一つ詠む。
「かれはてたわさびばたけのきずあとよ」
「うまい、いいんじゃない?」
おだてつつ周囲を見ると、一本、すらっと立つ若木がある。ひょろひょろと伸びたまだ細い幹、上に向かって円状に葉を開いている。
私も書きとめてみた。
すらり立つならの若木よみどりの手
足元を見ると、たくさんうさぎのような丸いコロコロしたふんが落ちている。
「シカだね」
旦那が言う。
「うさぎもいるけど、主にシカだよ。たくさんいる」
このあたりはハクビシンもイノシシもいて、畑をやっている義父さんは大変のようだ。
「日々、獣たちとの戦いですよ」
と言っていた。
わさび畑は確かに枯れているが、今も天然の川とまでいかない湧き水がちょろちょろと流れており、旦那がいくつかカニを捕まえて見せてくれた。
しずけさや沢ガニのすみかよみがえる
「キャー!!!」
下の子の叫び声が山の中にひびき渡る。
木を分けて下に見えるおばあちゃんの家にまで確実に届くすごい声だ。
「鹿ー!!!」
本物のシカだ!!
びっくりするほど近くにいた。
下の子の大声にも動かなかったが、旦那と私がゆっくり近付いて来るのをみて、ぴょんと跳ねて走っていく。
「す、すごい…」
馬とは違って、ぴょん、ぴょんと高く上下に跳ねてとんでいく。
おしりが白くて上下にひょこひょこ動いていた。
兄の方が下の子より下の方にいたので、シカに一番近い場所にいたのは上の子だ。
「気が付いてたの?」
「うん。めっちゃ近くにいた。下の子が騒ぐから逃げたんだよ」
上の子は動物寄せの技があり、ねこも寄ってくるし、鳩も止まる。
「めすだったね?」
「角はなかった。子供かめすだと思う」
シカは山の上に行くかわりに、私たちが来た細い道をたどっていったん人家の方へ降り、別の山に登って消えていった。
来たときのけもの道はシカのものだったのか。
この辺りは人も少ないし野山は広い。伸び伸びと暮らしてしているのだろう。
よく山で鳴いているよ、とあとでおばあちゃんが教えてくれた。
帰る直前に、とてもいい思い出になりました。
なんてんのぶらさがりたる宝石か
おわり
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