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京マチ子さん追悼 羅生門レビュー(再録・ネタバレ)

2018年12月に自サイトで公開していた、羅生門のレビューの再録。



メモの日付を見ると、見たのは9月と書いている。

ネタバレもネタバレ!
超ネタバレ!

めっちゃ内容を書いちゃってるし、台詞も書き出しちゃってるので
見てない人は絶対に見てからにして下さい。

Amazonプライムで黒澤明の羅生門が無料だったのでさっそく見てみる。

プライムにしろ他のにしろ、昔の映画をもっと充実させて欲しい。
おばあちゃん時代のハリウッド映画、色々見たけど大好きなのが多かった。
買ってでも見たいと思うものも多い。
版権の問題とか色々難しいのだろうか。

さて、羅生門はさすがの黒澤明なので、素晴らしかったし展開にも引き込まれたのだけど、レビューを検索してみると、んん…?
事実誤認というか、あれ違うんじゃないの?というのもある。
女が夫を刺し殺したと書いているのもあって、は?違うくない?(小説の方と混同?)

二回ほど見直してしまった。

しかも、ずいぶん格調高い考察が多いけど、もっとあけすけに、下品に見た方がいいのじゃないかと思うこの作品。
これは昨今のアダルト用語で言うところのNTR、ネトラレという奴だ。
さすが天下のクロサワ、一周まわってむしろ新しい。

それぞれの言い分には、まったくの嘘でもないし、一部の真実がある。
全てではないが巧妙に嘘を交えてあり、虚々実々。
本人たちがこうありたい、他人にこう見られたいと思った姿が投影されている。

目撃者が完全に正しいという前提の上での話だが…。

盗賊→「女のために勇ましく戦い、勝利を勝ち取った。女は怖くて逃げだした」
必死で口説いたり、夫の言葉、女の言葉とふらふら惑わされた所を隠している。強い男、豪放な盗賊のイメージを守ろうとしている。ある意味、夫の情けなさも隠してあげている。彼が一番重要だったのはイメージ。

女→「手籠めにされてから、盗賊はすぐに去った。後の夫の態度があまりにもひどかった」
自分のために起きた男同士の争いを隠している。自分の行動の正当化、夫の愛情がなかったことを強調し、弱い女らしい姿を見せようとしている。微妙に盗賊をかばうというか、二人の間の感情のあれこれをなかったことにしている。しかし夫の態度がひどかったのは事実。そこだけ膨らませて強調。

夫→「妻は盗賊に犯されたのに彼になびいた。しかも自分を殺せと言った。悪いのは妻。盗賊は立派だった。自分は自刃した」
妻が最初は断ったこと、負けたことを隠している。悪い妻に裏切られ、愛に裏切られた悲劇の夫という風に見せようとしている。自分の卑怯さはすべて隠している。妻が盗賊をそそのかしたのは事実。

目撃者「盗賊は女を口説いた。女は『(盗賊の妻になると自分の口から言うのは)無理です。女のあたしに何が言えましょう』といって夫の縄を解いた」
女は、夫に一応の義理は通した。とりあえず(曖昧だが)断ったし縄も解いた。結論を夫に預けたのだ。
問題の丸投げ。
号泣していたのに突然泣き止んで身を起こし、無表情になって「無理です、女のあたしに(略)」と言って小刀を引き抜き、夫の縄を解く→またしおらしく泣き伏す。
この後はお二人でどうぞ決めて下さいとのポーズだ。

女の考えでは、
①夫が盗賊を殺して自分を慰め、なかったことにしてくれる
②盗賊が夫を殺して、もう自分の妻になるしかないよと言ってくれる。
これで、「助からない立場」「どうにもならぬ立場」はとりあえずの一件落着、問題解決になるはずだ。

盗賊は、「わかった、それを定めるのは男の役目だと言うんだな」と刀のつかに手をかける。
一応、了解している。
しかし、夫のまさかの裏切り。
「待て、こんな女のために命をかけるのはごめんだ」
腕に自信がないからか、夫は自分の命を優先。しかも争わない理由を取り繕うために妻を見下し、さげすむ。

女はふっと、泣きのお芝居をやめ、手にまだつかんでいた小刀を見て、それから信じられないといった風に夫を振り返る。
そこさらに夫が追い打ち
「二人の男に恥を見せて、なぜ自害しようとせぬ。呆れ果てた女だ。こんな女惜しくはない。欲しいというならくれてやる。今となっては女より馬の方が惜しい」

そこで女は代わる代わる二人の男を見ながら、盗賊の方を期待を込めた目で見る。
ここで盗賊の第二の裏切り。
ここではいそうですかともらっていくのはかっこ悪いから?
泣くな!とさらに追い打ちをかける夫に対して、「女という奴は所詮、このように他愛ないものなのだ」と迎合する始末。

女を守る力もないくせに自分を責める夫、欲にかられて力づくで犯し、かつあれほど必死に口説いたくせに、形勢を見て(空気を読んで)夫に迎合した盗賊。
力なく生まれついたのは自分のせいではないのに、弱いからといって恥の責任をすべて彼女に押し付ける。
見栄と命おしさに自分を蔑んだ二人の男を、女は激しく糾弾する。

「他愛ないのはお前達だ!夫だったらなぜこの男を殺さない。私に死ねという前に、なぜこの男を殺さないんだ。この男を殺した上で私に死ねといってこその男じゃないか。お前も男じゃない。多襄丸と聞いた時、私は思わず泣くのをやめた。このぐじぐじしたお芝居にはうんざりしていたからだ。多襄丸なら、私のこの助からない立場を片付けてくれるかもしれない、そう思ったんだ。私は、このどうにもならぬ立場から私を助け出してくれるなら、どんな無茶な、無法の事でもかまわない、そう思っていたんだ。ところがお前も、私の夫と同じに小利口なだけだった。覚えておくといい。女は、何もかも忘れて、きちがいみたいになれる男のものなんだ!女は、腰の太刀にかけて自分のものにするものなんだ」

黒澤明「羅生門」より

この時の盗賊(三船敏郎)の顔が秀逸。
情けなくおどおどしながら怒りに燃える女の顔を上目遣いでうかがう。
武士らしいプライド第一の冷たく狡猾な夫より、盗賊の方が人間味がある。

女は盗賊の表情を見て、その気にさせ自分の手中に落ちたのを悟ったのか、歓喜の表情をもって、さあ、あのムカつく夫を殺っちゃって!という感じで盗賊の方に満面の笑顔ですりよる(この京マチ子の表情は、映画中で一番美しい)

こうなったら、もう自分の命を守るためには戦うしかないので夫も太刀を抜く。
泥仕合がはじまった所で、女はやっと我に返って子供っぽい恐怖を見せ、成り行きを見守る。
殺し合いをするように焚きつけたことに気が付く。
肉と肉がぶつかりあい、血で血を洗わなければすまない肉弾戦の争い、命と命のぶつかりあいの殺し合いのすさまじさ。

ここからは、他愛ない女に戻って恐ろしさに逃げ出す。
でもそれを男たちに強いたのは自分に他ならない。

夫の最後の叫びは「死にたくない、死にたくない」だったので、やっぱり、自分の命が惜しかっただけということがわかる。
命が、口惜しさも、妻への愛も、プライドにも、すべてに優先していた。

女の言う通りにしたので、盗賊は、自分の罪のありかを求めるように女にすがろうとする。

だが女は殺人を犯した男を拒否!
二人が勝手に殺しあっていれば、罪は自分にはかからなかったのに。
状況に流され、仕方ありませんでしたですんだのに。
男たちが不甲斐ないばかりか卑怯なので憤慨し焚きつけた結果、そそのかしたのは自分ということになってしまった。

ここで盗賊の手を取れば、盗賊と組んで夫を殺した悪い妻。殺人教唆。
そこまでは望んでなかった、そんなのになりたいわけじゃなかった。
しかも、情けない姿を一度見せていて、焚きつけないとその気にならなかった所が気に入らない。
あっけなく乗せられて女の言葉に従う所も気に入らない。
こっち来んな、人殺し、という感じ。

ある意味、盗賊の言い分が一番、真実に近い。
口説いたことを隠しているだけであとはある程度真実を語っている。
ちょっとニュアンスは違うが、女が「二人で決めろ」と言ったのは事実。

あとの人間とは~うんぬんかんぬん。
信じるとは~、お前も嘘を~うんぬんかんぬん。
どーでもいいです。
どっか他の、格調高い素晴らしい考察サイトさんにお任せします。

…いやいや、何のかんのいって、クロサワのネトラレはなかなかのもんでしたぜ!
見てもないのに、このブログを読んでネタバレを知っちゃった方もぜひ、必見の一本です。

追記:京マチ子さんに心から哀悼の意を表します。こんなレビューでごめんなさい。

児童書を保護施設や恵まれない子供たちの手の届く場所に置きたいという夢があります。 賛同頂ける方は是非サポートお願いします。