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超短編小説|違法の冷蔵庫

 誰しもこっそりと内緒にしていることがある。人知れず大切にしている物がある。僕の場合、それは違法の冷蔵庫だった。

 書斎の片隅に置いてある真っ黒で四角いそれは、異様な存在感を放っていた。俯瞰して見ると、合法の物には到底見えず、ひんやりと冷たい怪しげな雰囲気をまとっている。

 しかし正面に付いている丸い取手をひねり、ドアを開けても、中は少しも冷えきってはいなかった。それも無理はない。なんせ、僕が所有しているのは、違法の冷蔵庫なのだから。

 今から3年前、僕は極貧生活にあえいでいた。銀行にも、財布にもお金はなく、仕事を選ぶ余裕もなかった。だから、やれることは何でもやった。違法なことにも手を染めた。そして、そこで知り合った男性に真っ黒の冷蔵庫をもらった。


 僕は、冷蔵庫のダイヤルを回し、ドアを開けた。中を見ずに手を伸ばし、奥から数枚だけ抜きとる。そして、そっと財布にしまい、夜の街へと繰り出した。

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