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正しく愛するとは

 浮気を疑われた。いつも通り疲れ果てた一日の終わり、寝る前にしていた電話の中で。

 上手く呼吸ができない夜だった。恐らく身体の凝りだろうなと思いながら、スマホ越しの声を聞いていた。ついこの間、「あなたは寝る前に、ん、しか返ってこなくなる。だったら寝ようって言ってほしい」と言われていたから、適度に人語の返事をしていたつもりだ。

 流れは忘れてしまった。いきなり増えた仕事に溜まったタスク、予定通りに動けない毎日に体力不足の身体。全て自分が悪いのだと思ってはいても、疲れもする。ただでさえ話したことを覚えている、という行為が苦手なのに、そんな深夜なら尚更だ。
 「不安だ」と、電話越しに聞こえた。
 何がふあんなの、と、尋ね返せば、「心配性なだけだろうから」と先を教えてくれない。そんなのどうしようもない。不安なことが分かれば解決できるかもしれないのに。今夜自分は何かしてしまっただろうか。また正しく愛することが出来なかったのだろうか。眠くて回らない頭を必死に回して、浅くなりそうな息を落ち着けて、もう一度尋ねた。

 「あなたは嫌がるかもしれないけど、浮気とか、」

 驚いた。同時に何となく、理解も出来てしまった。
 自分の性が普通ではないことを自覚している。それをパートナーにだって話していた。普通の愛も恋も分からない、正しく当たり前に愛することができない、それでも良いか。身体の性で扱われることが得意でない。当たり前のように恋人らしいことはできない。貴方を好きかどうかは分からない。今抱いている感情はきっと「情」ではあるのだろう。
 全部、ぜんぶ伝えてきた、つもりだった。
 普通の愛でも恋でもないけれど、大切にしているつもりだった。時間もお金もこころも割いて、愛せているかふあんになって、当たり前にできないことをなやんで、それでも手を離さずにいたつもりだった。
 きっとそれじゃ、駄目だったのだろう。

 待ち合わせに遅刻してしまうこと。ラインのやり取りをすぐに終わらせてしまうこと。上手く甘えられないこと。外でのスキンシップを拒んでしまうこと。好みの格好ができないこと。話を上手く聞けないこと。自分が気分屋なこと。正しく愛を受け取れないこと。同じ愛を返せないこと。
 振り返れば山のように欠点が浮かんでくる。こんな自分とよくお付き合いを続けているものだ、と、よく思う。どれもこれも自分の体力不足が根元にある。筋肉もなければ体力もない、姿勢も悪い上に休み方も知らない。少しでも余裕があれば疲れが表面に出てくるのに、余裕がなくなれば焦ってこころが沈んでいく。
 義務であれば身体は動かせる部分も、きっと愛されていないと感じる理由になっている。おすすめしてくれるコンテンツを見ていないことも、気分で言うことが変わることも。

 改善できるところは山ほど見つかる。
 それを直して、お互い幸せにいられるのだろうか。

 普通の人間らしく振る舞いたいから、自分とて改善せねばと思っている。頑張るだけの気力も体力もない。甘えだと自分で一蹴できるが、自分を大事にすることもまた決めたことだ。数ヶ月もしたら余裕が出るはずだから、それまでは耐え忍ぼう。ちゃんと話を聞いて、忘れないで、弱いところを見せる努力をしよう。そう決めて生きていた。
 相手を優先したら、相手を一番に考えたら、相手のために自分を蔑ろにしたら、平和になるのだろうか。果たしてそれを相手に気付かれずできるのだろうか。気付かれて「無理をさせてしまった」と、一番の地雷を踏んでもそれが本当に平和なのだろうか。

 多分しばらく、パートナーと離れる選択は取られないのだと思う。だとすれば、浮気を疑われたまま、となりにいる選択をされるのだろう。
 身勝手だと思いながら、それは嫌だと思う。
 今まで大事にしてきた時間は、ぜんぶ嘘だと思ったのだろうか。ぜんぶ作り物のように思われていたのだろうか。
 ぜんぶ本当の、つもりだったのに。
 今までずっと、向き合ってきたつもりだったのに。
 ぜんぶ、嘘に見えたのだろうか。

 悲しい。でも自業自得だと理性が叫ぶ。当たり前だ、正しく愛せない自分が悪い。どうしたら正しく愛せるのだろうか。どうしたら、今までのすべてが嘘ではないと思ってもらえるのだろうか。

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