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これからの時代を生きる私たちは一体どう川と向き合い続けていけば良いのだろうか

天ヶ瀬温泉コンセプトワークと並行して行う天ヶ瀬温泉未来創造勉強会。全五回にわたり毎度各分野のプロフェッサー達をお呼びして天ヶ瀬温泉の未来を共に考えます。

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(↑前回の勉強会についてはこちら )

第二回目のゲスト講師は大分大学減災・復興デザイン教育研究センターの准教授を務める鶴成悦久先生。今回は「治水」という視点で天ヶ瀬温泉を紐解きます。それでは参りましょう!

▼河川整備計画で起こり得る問題とは

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皆さん初めまして。大分大学の鶴成と申します。今日は「治水」という切り口から今後天ヶ瀬の川とどうやって向き合っていけるのかをお話していけたらと思います。

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まず、今一番皆さんが気にかけているであろう河川整備計画。なぜこの議題について最も忙しいこのタイミングで考えていく必要があるのか。…いや、むしろ計画が実施される前の今だからこそしっかりと考えていかなくてはならないのだと私は思います。

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ちゃんとした法的手続きに基づいて地域が合意した内容というのは、一度本格化してしまうともう取り返しがつかない状況になってしまいます。つまり「計画」というのは、その時に私たちが知らなかったとか考えてなかったということが後からになっては一切言えなくなってしまうものなのです。

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これから県が整備計画を立てていく中で地域として今しっかりとできることをやる。皆できちんと納得できるまで話し合い、盛り込めることはしっかりと計画に盛り込んでいく。それがまずは何よりも大切なことなのではないでしょうか。

▼治水対策の限界と河川の大転換期

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近年の河川整備計画が昔と一番異なる点、それはずばり治水対策の限界を認めたということ。要するに「施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するのだ」という前提の上で治水対策を行っていくということです。

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これは施設の能力には限界があり、仮に河川の整備計画をいくら立てたからと言って絶対に安全であるとは言い切れないと国土交通省が宣言したとも言い換えられます。

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昔はなるべくこういう嫌なところは表に出さない風潮がありました。でも今は家屋倒壊等氾濫想定区域(要するにあなたの住むレッドゾーンのところは家が壊れるかもしれませんよ)といった事まで国が踏み込んで伝えていき、それを受けた自治体がハザードマップを作るといった流れに変わりつつあります。

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全国各地で頻発・激甚化する豪雨に対応するためのこのような水防災意識社会の再構築の流れ平成27年頃からどんどん加速してきました。
まさしくこれこそが河川の大転換期と呼べるのではないかと私は思います。

▼気候変動と治水計画の見直し

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さて、こうした傾向の裏側には気候変動の影響というものが存在します。

今回の災害では令和2年7月7日(火)と8日(水)に連続した線状降水帯により、多くの雨量観測所で降り始めからの累加降水量が400mmを超える記録的な大雨となりました。これが俗にいわれる1000年に一度の豪雨災害です。

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台風・局所豪雨・前線を伴う豪雨等によって近年、毎年のように全国各地でこうした大規模な自然災害が頻発しています。

今後予測されることとしては、猛烈な台風の出現頻度の増加や北上、短時間豪雨の発生回数と降水量の増加、流入水蒸気量の増加による総降水量が増加などが挙げられるでしょう。

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また、この予測には国の示した“気候変動シナリオ”というものも存在します。

このシナリオでは今後もし地球温暖化に対し何の対策も取らなかった場合、地球の気温は約4℃程上昇するといわれています。しかしもし、国際的に温室効果ガスの排出抑制対策(パリ協定)を実施したとしたら気温の上昇は2℃位に抑えられるのだそうです。

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ただ、仮に対策を打って2℃の気温の上昇で抑えたとしても導き出される洪水発生頻度今の約二倍です。ちなみに、何も対策をしなかった(気温が4℃上がった)場合の洪水発生頻度はなんとおよそ今の四倍だと言われています。

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いずれにせよ、これからの治水計画は「過去の実績降雨に基づくもの」から「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直す必要があるのではないでしょうか。

▼「流域治水」という考え方

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さて、そんな背景を元に新たな誕生したのが「流域治水」という考えです。

従来の治水では、河川・下水道・砂防・海岸等の役割分担を明確化した管理者主体のハード対策が中心で、エリアに関しても河川区域や氾濫域を中心とした対策が主でした。

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しかしこの「流域治水」という考えにおいては、国・都道府県・市町村・企業・住民などあらゆる関係者による治水対策がとられ、エリアに関しても河川区域や氾濫域のみならず修水域を含めた流域全体での対策が講じられます。

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川というものを目の前のこと、今ここだけで起きていることとして捉えるのではなく流域全体で見て考えていく、それがこれからの治水対策では非常に重要なのです。

▼未来へと繋いでいくもの

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そして、忘れてはいけないのがこの「川に学ぶ社会」というもの。

私はRAC(River Activities Council)と言われる水辺で遊ぶ体験指導者でもあるのですが、これまでずっと子供たちに川の生態系を教えたり実際に川での遊びを通して川に親しむ活動を行ってきました。

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近頃、川というのは危ないもの・近づいてはいけないものといったよからぬ考えが生じてきていますが、それでもやはり川に学ぶことというのは非常に多いです。

もしこれを閉ざしてしまえばそこにある文化も無くなってしまう。だからこそどうしたらこの“川で学ぶ”という土壌を作り育ててあげられるかを考えていくことが重要なのではないでしょうか。

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最後に、「この災害の記憶をどのように伝えていくか」ということについて。

伝え方の良し悪しはあれ、やはり後世に伝えていくということはもの凄く大事です。この「災害の記録を伝えられるもの」が河川整備の中にどこまで落とし込めるか、それも今回の整備における一つの大きなポイントだと思います。

▼天ヶ瀬のポテンシャル

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かつて別府市が火山という存在をないものにしようとした様に、“観光地”という場所は負の側面を出したがらない傾向にありました。

しかし、そこだけに蓋をして街を前に進めていこうとするのはこれからの時代は難しいと思います。決して避けては通れないこの側面をどのような形で逆に活かしていくか、それが川と向き合っていく真の街づくりの考え方であるはずです。

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色々とお話ししましたが、全国的に見て、こういう水害が起きて、そこが天ヶ瀬の様な温泉地で、そこからものすごく復興していった事例って実はほとんど無いんです。しかしながら、私はここ天ヶ瀬にはそれを成し遂げるだけのポテンシャルが必ずあると感じます。

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せっかく今こうして整備計画が立てられ、水害と━━━そして川とこの先どう向かい合うかというビジョンが示される。それはある意味で災害を受けたからこそできる街づくりの一つの可能性なのではないでしょうか。

治水と街づくりをどのように考えていくか、これからも皆さんと共にこの永遠のテーマを考え続けていけたらと思います。

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written by 桶の旅人



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