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【分割版】ボカロとかいうクソデカい物語の主人公『初音ミク』【その2】

※本noteは、7.4万字も書いたせいでnoteがクラッシュしてスマホで読むことができなかった以下のnoteの分割版その2です。内容は同一ですが、有料部分は元noteにのみ付属しています。

■前回


Neru

 「鏡音リンを使うボカロPといえば?」この問いかけにはいくつかの返答が想定できるが、個人的にはNeruの名をあげたい。

 繰り返しになるが私は2015年にボカロ厨を引退しているので2016年以降のNeruの楽曲を知らない。それでも時たまTwitterで流れてくるNeruのバズツイに思いを馳せ、「たまには『ロストワンの号哭』の訓練されたコメントでも見るか」という気持ちに度々させられた。それほどまでにNeru楽曲は骨身に染みているし、鏡音リンの歌声を思い浮かべるとき、そこには『東京テディベア』や『再教育』が流れているのだ。

 ということでNeruといえば『東京テディベア』を真っ先に思い浮かべるオタクが多いのではないだろうか。

 ゆうゆ氏の項で取り上げなかったが『天樂』などで確立された鏡音リンとロックの親和性はNeru氏によってより洗練された。下田麻美に由来する鏡音リンの高めのボイスはとりわけパワフルな声が要求されるロックと抜群の相性を誇る。

 続くミリオン楽曲である『ロストワンの号哭』においても、その強みは遺憾なく発揮されている。

 『ロストワンの号哭』名物といえばその訓練されたコメントである。サビ中の歌詞、「黒板のこの漢字が読めますか」に対しておよそ常用漢字ではない難読な漢字が、「そろばんでこの式が解けますか」に対してどう考えてもそろばんで解くには不適な数字の羅列が画面を横切っていた。と思って今見返したらかろうじて「面積比の公式言えますか」に対応したコメントが流れるだけでほとんど消えてた。オワりやオワり。


トーマ

 「カルト的人気」という言葉がある。決して万人受けするわけではないが一部の同じ感性をもつ人間からは熱狂的に支持される、そんな人物や作品のことを言う。ボカロ界広しといえども、「トーマ」ほど「カルト的人気」という言葉がふさわしいボカロPはいないのではないだろうか。

 徒に言葉を並び立てるより聞いた方が早い。『バビロン』はトーマ氏にとって初の殿堂入りとなった作品でありミリオン達成楽曲である。

 初めから最後まで突き抜ける疾走感、突如訪れる転調、晦渋な歌詞により作られる独特な世界観は大衆に迎合されないものこそより好むオタクの性癖にぶっささり以降、トーマ氏の投稿する楽曲は全て殿堂入りを果たすようになる。

 よりキャッチーな曲調へと変化した『骸骨楽団とリリア』は『バビロン』でトーマ楽曲を忌避していたボカロ厨にも受け入れられることになる。

 『バビロン』と比較してわかりやすくなった歌詞、わかりやすい落ちサビ、乗りやすいサビはトーマの名を一躍ニコニコ動画全体へと広めた。

 ただ、まぁなんというか...こんだけ書いといて今更言いづらいんですけど僕あんまりトーマ聴いてこなかったんですよね。さっき「決して万人受けするわけではない」「カルト的人気」って書いたけど、イマイチ自分のアレとはアレしてたんだちょっとアレだったんで正直『オレンジ』とか『ヤンキーボーイ・ヤンキーガール』も今初めて聴きましたわ。でもトーマがニコ動に現れて”期待の新人”キタ!!!って界隈湧いてた時の感じはまだ覚えているよ。

 そんな私でも『エンヴィキャットウォーク』、これだけは外せない。

 トーマ初のミリオン達成曲である『エンヴィキャットウォーク』、これだけは当時からドハマりした。特に「Project DIVA」でMVを見た時は戦慄した、なにもかもが完璧すぎて。

 曲はもちろん、アニメーション、振付、そして黒猫をモチーフにした前髪ぱっつん黒髪ロング猫耳初音ミクはもうやり過ぎ。原型保ってないって言われそうだけどうるせえ、電子の歌姫だからいいんだよ。間違いなくDIVAで一番好きなMV。譜面もめちゃくちゃ楽しい。「EXTREME」レベル9.5なので音ゲーマーじゃないとおそらく「FAILED...」落ちすると思うが腕に自身のあるゲーマーは是非ACで挑戦してみてほしい。


nightシリーズ

 オタクとは考察する生き物である。考察するパンピーを見たことがない。それはそう、探求心を抱いた時点でその人はなんらかのオタクとして成立するのだ。そんなオタクたちにドデカい餌がばら撒かれることになる。それが『nightシリーズ』だ。

 総勢8名のVOCALOIDで織りなさせる楽曲はまるでミュージカル、不思議な館に迷い込んだミク達がループするストーリーが全4曲に渡って描かれている。

 これまでもストーリー形式の楽曲はいくつか存在していた。代表的な例として『人柱アリス』などがあげられるだろう。歪Pのデビュー曲である『人柱アリス』はで200万再生を超える大人気楽曲で様々な解釈がなされている。じゃあなんで人柱アリスは解説しなかったの?それは僕がそんな好きじゃなかったから...
 nightシリーズは基本的にキャラクターたちのセリフが歌詞として落とし込まれている。それによって説明的ではなく、クドくない。「物語」以前に、しっかりと「楽曲」として楽しむことができる。加えて章を追うごとにMVのクオリティも上がっていく。まぁ正直言って『nightシリーズ』もそこまでどハマりしてたわけじゃないから小説も買ってないし全然考察もしてないんだけど考察大好きな考察ジャンキーにとってシリアスなミステリーをテーマにループまでする『nightシリーズ』は飛び切りのご馳走であった。

 とりわけ第二章に相当する『Crazy ∞ nighT』はラスサビの盛り上がりが尋常でない。私のように「『nightシリーズ』の物語自体はそこまで興味ないけど曲は好き」といったライトなファンも結構いたのではないだろうか。

 余談だが『Bad ∞ End ∞ Night』はmaimaiの譜面が楽しかった。maimaiやってたころはこればっかやってた。個人的にはmaimaiにも踊ってみたじゃなくて曲のMV使ってほしかったけど、それは踊り手に失礼だというものだろう。


うたたP

 VOCALOIDは数多くの楽曲が書籍化されてきた。なかには「そんなものまで!?」と言いたくなるような楽曲も含まれていたが『こちら、幸福安心委員会です。』もその一冊に数え上げてもよいのではないだろうか。

 この曲を聴くだけで恥ずかしくなり死にたくなるオタクも少なくないだろう。なぜか、『こちら、幸福安心委員会です。』は『マトリョシカ(96猫&vip店長 ver)』に負けずとも劣らない「黒歴史製造機」として機能してしまったからだ。

 露骨な宗教色、突如ぶち込まれる演説、死因の列挙や最後の「死ね」に代表される安易な死の要素。若さゆえの豪気、無知ゆえの大胆さ、勇気も中庸を欠けば無謀であり、自尊心のそれは虚栄である。賢人アリストテレスが探求心からコメントを見てしまった暁にはリュケイオンの歩廊で卒倒すること必定、自然科学の進化が数百年は遅れることになっていただろう。

 『こちら、幸福安心委員会です。』の流行った2012年はそれはもう恐ろしい年だった。日本全国各所の中高では昼休憩に『こちら、幸福安心委員会です。』を流したという実績を作ろうと躍起になった。複数人で行われるカラオケで空気を読まずに「幸福なのは!w」と歌えば勇者のようにもてはやされた。あちこちでアジテーションまがいの中身のない演説を披露し、学期初めの委員会決めでは「おれ幸福安心委員会入るわ...w」と謎の宣言。そしてそれら諸々の活動報告がコメント欄を埋め尽くした。末法とはこのこと、この世の地獄である。今、この文章を書いている最中においても気分が悪くなり、死にたくなってきた。なんであんなことしたんだろ。

 以降、『幸福シリーズ』と名前を改めて、いくつかのストーリー性のある楽曲が投稿されることになる。

 『永遠に幸せになる方法、見つけました。』もそんな楽曲の一つだ。

 幸福安心委員会ほどではないがこちらも「黒歴史さ」でいったらそこら辺のボカロ曲を軽く凌駕している。本曲は”秘密のコトバ”を一言一句間違えずに復唱しなければならない”罪状ゲーム”を強いられるストーリーが展開される。その”秘密のコトバ”とは

レグバルクリヤンザンダスアティボン レガトルアルバンザンドライモール

永遠に幸せになる方法、見つけました。

 である。
 オタクであるならばこんなよくわからないフレーズが、いや、こんなよくわからないフレーズだからこそ教養化することは想像に難くない。「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」、「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」、無意味に長いフレーズを覚えることはわかりやすいオタクの異常性の開陳である。オタクは、よりオタクであるために”秘密のコトバ”を覚えることに躍起になり、廊下や教室、場所も時間も選ばずにただ一心にフレーズを唱え続け、そんな姿を野球部にバカにされようとそれすら倒錯した快感へと変換した。

 うたたP楽曲の黒歴史性を語るとキリがないので『幸せになれる隠しコマンドがあるらしい』に触れて次に行こうと思う。

 歌詞を見てもらえればわかるように”隠しコマンド”と言いつつ明らかに音ゲーを意識した本曲は『CHUNITHM』、『オンゲキ』、『maimai』、『SDVX』、『DDR』と様々な音ゲーに実装され、歌詞を再現した譜面が作られた。それゆえに「『幸福シリーズ』は知らんけどこの曲だけは知ってる」という音ゲーマーも多い。ボカロ曲を語るうえで音ゲーを避けては通れないのだ。


■COLUMN⑩

【幸福安心委員会とKNN姉貴】

 ここで詳細は記さないが『こちら、幸福安心委員会です。』を聴くとクッキー☆声優のKNN姉貴を連想するオタクは多い。KNN姉貴は『千本桜』やfripSideの『escape』など多くの歌ってみたを披露したが、中でも『こちら、幸福安心委員会です。』はKNN姉貴の声質と相まって絶大な人気(?)を博した。特にサビ入りの「はいは~い」の部分はKNN姉貴登場時、開口一番のセリフとして有能で、多くのクッキー☆MADで使用された。褒められたことではないが、『こちら、幸福安心委員会です。』の歌詞由来の恥ずかしさと、KNNのおかん感由来の恥ずかしさが融合し、視聴者に共感性羞恥を強要する機能も果たした。幸いなことに当の本人はまんざらではないようだ。よかったよかった。

救済


n-buna(ナブナ)

 ここまでいくつか音ゲーの話題が出てきたが、両手を上に挙げ左右を交互に叩く動きはアーケード音楽ゲーム『maimai』の『ウミユリ海底譚』の譜面だと誰もが知るところとなる。

 n-bunaは初のミリオン達成が2015年と比較的新しいボカロPだ(といってもインターネット老人から見た"新しい"だが...)。前述した『ウミユリ海底譚』は(おそらく)手書きのMVもさることながら初音ミクの調教の素晴らしさにも着目したい。初音ミクAppendを使用した優しく繊細な歌声にみられるn-bunaの調教にはどこか儚さを感じる。『深海少女』を連想する世界観と歌詞の切なさは、これまでのボカロ曲のエッセンスを抽出し、ボカロ界に新たな風を吹かせた。再生回数なんと886万回(2023/03/09現在)。真似したくなる中毒性のある譜面にも恵まれ、n-bunaを代表する曲となった。

 そしてもう一曲、『透明エレジー』も紹介しておこうと思う。

 『透明エレジー』は『ウミユリ海底譚』と違って初音ミクでなくGUMIが使用されているがまたも特筆すべきはその調教である。サビ前に顕著に表れている、細かく揺れた、まるで泣いているかのような歌声は歌詞・曲・MVに次いで調教で視聴者の感情を揺さぶる手法を確立した。「透明哀歌」とあるように、歌詞をそのまま反映したかのような歌い方に、当時のボカロ厨はみな驚愕を隠せなかった。


164

 164といえば『天ノ弱』、『天ノ弱』と言えば164、これは誰にも覆すことのできないボカロ界の黄金律であり、それほど『天ノ弱』というこの曲はニコニコ動画に一大センセーションを巻き起こした。

 再生回数は2023年3月9日現在で951万回再生、VOCALOID神話入り直前の大ヒット曲である。

 鳥越タクミ氏の全体的にモノトーンで無機質なイラストとGUMIの歌い上げるパワフルなロックのギャップに数多のオタクが打ちのめされた。VOCALOIDの人気曲がみなそうであるように、若年層の心情に寄り添った歌詞はしかしそれだけではなく、「天邪鬼」そして「天性の弱虫」と掛け合わされたタイトルにあるように言葉遊びが楽しい。「メリーゴーランド」から始まった遊園地にいるかのような楽しい転調はサビにかけて一息に加速し、ラスサビの転調で盛り上がりは最高潮に達する。
 24作目にしてはじめてのミリオンを達成した164の『天ノ弱』は経験と感性に裏付けされた不朽の名作といって差し支えない。


40㍍P

 164氏を語るうえで欠かすことのできないキーパーソンがいる。それこそ40㍍Pである。

 言わずと知れたボカロ界の巨匠、ミリオン曲は2023年3月9日現在で13曲に上り、新曲が投稿されるたびに「週刊VOCALOIDランキング」を賑わせた。
 40㍍Pと164の関係は「1640mP」というプロデューサー名に集約されている。

 『タイムマシン』では作曲を40mP、作詞を164が、『未来線』では反対に作詞を40mP、作曲を164が手掛けることによって生まれた奇跡のコラボレーションはニコニコ動画を震撼させた。
 40㍍Pが40㍍P由縁である巨大な初音ミクは40mどころか634mの高さを誇るスカイツリーを大きく上回りまさしく1640m規模に生まれ変わった。それでいて『巨大少女』と変わらないタッチを残したぎた氏による爽やかで夏を感じるイラストはオタクたちに郷愁を感じさせるとともに、さらに成長したボカロP両名に対する一層の期待を抱かせた。

 『タイムマシン』では164氏特有の、等身大の若者の心情が反映された歌詞に、40mPの爽やかなサウンドが混ざり合い、切なさを感じる楽曲に仕上がっている。
 対して164氏によってロック色を強くした『未来線』は自分を見つめることで生まれる40mPの直接的な心情の吐露とあわさり我々の感性をダイレクトに揺さぶる。

 1640mPは互いの持ち味を余すことなく活かし、その結果『タイムマシン』はボカロPコラボ曲で初となるミリオンを達成する。


 ということで1640mPの話を終え、やっと40㍍Pの話に移る。

 まずは『Melody in the sky』から始めようと思う。

 40㍍Pを語るうえでこの曲は外せない。なぜならサムネに写りこむ「遠近法により40㍍に見えるミク」によって「40㍍P」というプロデューサーネームがはじめて決定したからだ。


■COLUMN⑪

【ボカロPとプロデューサーネーム】

 ボカロPのプロデューサーネーム(P名)の決定には大きく分けて2つの道が用意されている。
 1つは、ボカロP自身が名乗ることで決定されるパターンだ。これはもっともわかりやすい。ボカロ黎明期から全盛期まで幅広くこの命名方法が選ばれた。代表的なボカロPをあげると、『ハチ』は漫画『NANA』の登場人物から自身で命名したことが知られている。
 2つ目は、リスナーたちの総意で決定するパターンである。これはボカロ黎明期によく見られた。例えば『from Y to Y』や『Calc.』で知られる『ジミーサムP』は投稿する楽曲のサムネが地味だったことによりそう呼ばれるようになった。前述した40㍍Pもこのパターンである。またこの場合、いくつかのプロデューサーネームを経由することが多い。
 無名のPたちにとって週刊VOCALOIDランキングの上位こそ登竜門だった。オタクたちに認知され、初めて付与されることになるプロデューサーネームはそれがどんなものであろうと重い意味合いを含むのだ。

救済

 初音ミクの巨大化は止まらない。ぎた氏のイラストの部分で前述した『巨大少女』では主コメに「今回は40mどころの騒ぎじゃありません。」とあるように、歌詞では「だから もっともっと 高く高く 宇宙から見てみたいよ 世界の景色」と歌われている。身長インフレが進み過ぎである。

 DIVAでは40㍍規模に巨大化した初音ミクがあたかもウルトラマンのように怪獣と戦闘する様子が描かれている。これもう『ウルトラマン ファイティング エボリューション』だろ。

 「第三次性徴期」をキーに少女の成長と不安を描いた『巨大少女』のように40㍍Pの作詞は異なる二つの要素を合わせたものが多い。ここでは3曲だけ紹介することにする。

 『トリノコシティ』は40㍍P楽曲中3番目に再生回数の多い楽曲である。スタッカートを効かせた特徴的な歌い方は「自分だけどこか 取り残された」という歌詞の語感と絶妙にマッチし、どこか楽しい印象を与えるが『トリノコシティ』というタイトルに表れているように空気は暗い。

 謎に実写映画化された、観てないけど。DIVAのMVに金田バイクのスライドブレーキシーンがあった気がしてたけど全然なかった。

 『からくりピエロ』は40㍍P楽曲で最大の再生回数を誇り、2023年3月9日現在その数は664万を記録する。
 ピアノを基本にジャズチックで緩やかな旋律の本曲だが、その歌詞はとりわけ直接的な内容となっている。「これが悲しい僕の末路だ。」と主コメにあるように、恐怖からの脱却や未来への希望が描かれることはなく、たどり着いた少女の末路で心情が吐き出される。
 2011年、ボカロが隆盛を極めていた当時に現れたオシャレなボカロソングは、VOCALOIDに新たな一面を与え1年足らずでミリオンを達成する。

 さて、3曲目は個人的に思い入れのある曲だ。

 40㍍P楽曲の再生回数で7番目に位置する『ドレミファロンド』を取り上げるのには理由がある。当時のニコニコ生放送の女性生主全員これ歌ってたからだ。


■COLUMN⑫

【女性生主御用達曲】

 ニコニコ生放送を語るとそれだけで万字に達するのでここでは女性生主御用達曲に絞って解説する。
 中学生だった当時の私は部活を終えて家に帰るや否やニコニコ生放送にアクセスし、コミュニティレベルの低いかつ声の可愛い女性生主を1人で囲って萌え萌えしていた。どうしようもないやつだ。
 とりわけ声が花澤香菜っぽい生主を好んだ。無理もない。思春期に花澤香菜主演の名だたるアニメにぶち当たりどうして花澤病に侵されずにいられるだろうか。
 女性生主の間ではいくつかのテッパン曲が暗黙の了解によって用意された。その中の1曲が『ドレミファロンド』である。可愛らしくポップな『ドレミファロンド』を一度歌えばコメント欄は「かわええええええええ!!!」の嵐。「くらげちゃん可愛すぎる!声質にもあってるお」「弾幕失礼しましたー」「888888888」「←弾幕職人乙!」「初見です!声かわいいですね!」「初見さんいらっしゃーいマターリしていってねー」「ゆっくりしていってね」「お茶(´・ω・)っ旦~」「良かったら184外してコテハン残していってくださーい」「好きな色とかありますか?じゃあ緑で登録しときますねー」「新規だぞ!もまえら囲え!!」「今宵のかわボスレはここですか」...書いてて体調悪くなってきた。
 他にもみきとPの『小夜子』、化物語の『恋愛サーキュレーション』、DECO*27の『愛言葉』あたりはとりわけ女性生主の囲いを増やすことに貢献した。
 そんなニコ生もいつしか出会い厨とキッズの巣窟に変わり果て...この話はまたいつか。

救済

 3曲だけと断ったが音ゲーマーとしてこれだけは付記しておこう。

 『だんだん早くなる』とタイトルが物語っているが、だんだんと曲のテンポが早くなる。驚くべきことにBPMの変化する回数はなんと46回!(ChordWiki参照)

 90から160までテンポの乱高下を繰り返す本曲は当然音ゲーマーに歓迎され『CHUNITHM』に実装を果たす。にもかかわらず曲のテンポが早くなるだけで『太鼓の達人』みたいにノーツが早くなったりはしないのでそこまで曲の早さを実感しない。BPM200超えの世界に慣れ親しんでしまった音ゲーマーの悲しき性である。


KEI

 オタクたちの有象無象から湧出したボカロ文化はとりわけ彼らの心情に寄り添った歌詞が人気を集めた。その中でもKEIの作る爽やかなサウンドと自己肯定の歌詞は若年層から働き人まで、ニコ厨なら誰でも受け入れる包容力を持っていた。

 ボカロでピエロといえば『からくりピエロ』の次にこちらの楽曲を連想するのではないだろうか。「大丈夫、大丈夫」と繰り返される『ピエロ』の歌詞は徹底的な自己肯定であり、自己のなにか一つでも肯定できなかった結果ニコニコ動画にたどり着いたオタクたちの胸を打った。

 『ピエロ』で涙した当時のボカロ厨たちも、今ではこちらの曲のほうがリアリティをもった泣き曲になってしまったのではないだろうか。「B4の紙切れに収まる僕の人生を」とあるように、確かな現実感をもった歌詞の『Hello, Worker』は、そのタイトルが語るように、いつの間にか”社会人”と呼ばれるようになってしまったボカロ厨を肯定する他の誰でもない、俺たちのことを歌った俺たちの曲として親しまれた。

 個人的に『走れ』には幾度となく勇気づけられた。

 「気付いたときにはもう与えられてたゼッケンナンバー 参加しますなんて一言でも言った覚えはない」から始まる本曲は若かりし頃の多感が作り出した反出生に対する羨望と容易に噛み合った。自己肯定だけに終始せず、「まだ終わらせやしない」と最後に明日への気概を歌う歌詞は多くのオタクを勇気づけ、味方になった。

■次回


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