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甘く浮く醸造への道⑤

第5回 「ななくさナノブルワリーさんとの出会い②」

2020年2月。
自身の醸造研修を兼ねた甘く浮く初のオリジナルビールを仕込むため、いざ福島県二本松市へ。

今回仕込んだのは、りんごをふんだんに使用したフルーツエール。150L仕込みのうち、りんご果汁を60L使用。良好な泡持ちとジューシーな舌触りを得るために麦芽量の1割ほどオーツ麦を投入。瓶内二次発酵時に添加する砂糖の替わりにもりんご果汁を投入するといったビールとシードルの合いの子のようなレシピです。

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↑使用したりんご果汁。ペクチンが多く濁り気味。ふじにしては程よい渋みがありビールにした際味わいに骨格をもたらしてくれた。

工程としては

麦芽粉砕

マッシング60分
(麦芽でお粥を作る。65℃で温めると麦芽の糖化酵素の働きで汁が甘くなる)

マッシュアウト
(75℃までお粥を温め糖化を更に促す)

ロータリング
(糖化槽下部に敷いた濾過板に麦汁を通し、透明になるまで濾過する)

煮沸60分
(甘くなった麦汁をポンプで煮沸釜に移し煮沸。この工程は麦汁の殺菌、麦汁に残っている酵素の失活、タンパク質を加熱により凝固、好ましくない香りの揮発、ホップを投入して成分(苦味、香り)を抽出など様々な意図がある)

ホップ投入(爽やかな香りが広がる)

煮沸終了、りんご果汁合併

ワールプール(麦汁中の擬個したタンパク質を沈殿させる)

冷却
(チラーという冷却装置で麦汁を冷やす)

酵母添加
(麦汁の糖分を酵母が代謝し、アルコールと二酸化炭素を排出する)

といった流れで、同行した奥さんと代わる代わる作業をさせて頂きました(生後9ヶ月の娘も同行したので代わる代わる抱っこもしました笑)

「これが毎日の仕事だったら幸せだね」

もくもくと湯気が立ち込める真冬の醸造所で、80kg近い大量の麦のお粥を、自身の背丈ほどある大きなしゃもじで掻き混ぜながら奥さんが言いました。
そうだねと僕は同意して、愛しさや希望が醸造所内に充満している様を脳裏に焼き付けました。

仕込み後は後片付け。
糖分が溶け出た大量の麦芽かすを体を屈めながら掻き出して大ぶりのコンポストのような容器に移す作業は骨が折れましたが、それが近所の平飼い養鶏場の鶏達のエサになると聞いて、パーマカルチャーかぶれの僕は俄然やる気が出たのでした。

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↑麦芽かす。エサとして与えたところ鶏達の体調が良くなったそう。

昼食はななくさナノブルワリーの関さんが、隣接するご自宅で振る舞ってくれました。


メニューは野菜たっぷりのけんちんうどん。

大豆はお隣の農家さんが作ったものだが味噌は自家製。その他のうどんの小麦から具材の野菜に至るまで全て関さんが栽培したものでした(関さんの本業は有機栽培の農家さん)

ほんのり灰色がかった風味豊かなうどんをすすりながら、ここでなら僕たち夫婦が志している、持続可能な「地域を醸す」ビール造りが学べると確信しました。

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↑高台にある醸造所からの眺め。昔は養蚕で栄えたという東和地区。

仕込んだビールが一次発酵を終えた5日後、再び醸造所を訪れ瓶詰め作業もさせて頂きました。
炭酸ガスを注入しながら充填する機械は高額で手が出ないし、何より瓶内発酵によってガスを得る昔ながらの手法に憧れがあったので、重力式のシンプルな充填機での作業は是が非でも経験したい事の一つでした。
(不器用な僕をよそ目にポンポンと器用にビールを詰めていく奥さんの姿を見て、充填作業時自分は打栓に専念しようと心に決めたのでした笑)

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↑レイメイの重力式充填機。ノズルを調節し液面の高さで充填量を計れる優れもの。

その後は約1ヶ月の瓶内発酵。
その期間中は夫婦でラベルをデザインしました。お互いパソコンで画像編集するスキルを持ち合わせていなかったので、若かりし頃にやっていた自身のパンクバンドのライブ告知用フライヤーの要領で、描いたイラストをコラージュしてスマホで写真を撮り、印刷会社に入稿しました。

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↑貼るのも手貼り。大変だけれど楽しい作業。

こうして様々な工程を経て完成した甘く浮く初のオリジナルビール。
当初は甘く浮く開業5周年の催しにてお披露目するはずでしたが、その1ヶ月の間に世の中は一変…

結果的にそれは叶いませんでした…


瓶内発酵が落ち着いてビールの味わいがまとまってきた2020年4月中旬。
僕たち夫婦の思いが詰まったオリジナルビールをリリースしたのは、奇しくも緊急事態宣言が全国に発令された翌日の事でした。
(つづく)

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