『いちねんご』畠中恵

時代小説が好きでファンタジーも好きなので、畠中恵の『しゃばけ』シリーズは毎回読んでいる。

このシリーズは妖たちがきちんと輪郭を持ち、地に足をつけて江戸の町を生き生きと飛び回っているのが好き。
一軒家に住むし仕事だってするし恋をしたりされたりするし着物を着るときだって右前で着る。(幽霊ではないのでそれはそうか)

だからといって人間にきちんと混じれているわけではなく、いわゆる人間界のルールは踏み倒して自分たちがなにより大事に思う若旦那のことをいっちばんに考えている。
その違いで発生するどたばたの中で、江戸の町の人々の営みが浮き上がってくるお話。

今回の話は、若旦那の両親が一年間湯治に出掛けてしまうので、大きなお店である長崎屋に旦那が不在となってしまう。
お店を任せたと頼まれた若旦那(病弱)は果たして無事に一年間お店を守れるのか、というテーマを縦軸に5本の短編が掲載されている。

登場する妖たちがみんな魅力的なのだけれど、今回は貧乏神の金次と屏風のぞきが特に主役だった。
以前のシリーズの中でふらりと長崎屋にやってきて貧乏神にも関わらず大金持ちの長崎屋にそのまま居着いてしまった金次は、本当は怖い力も持っているので長崎屋を傾けることだってできるのだけど、人間の感情に詳しいがゆえに妖と若旦那の妙な話の流れになぜか押し流されてしまい、物語が転がり始めた後に「はてさて何で自分はこんなことになったのか?」と首を傾げているのがかわいい。
『いちねんご』は貧乏神に対して不憫かわいいみたいな感情を抱けるとてもめずらしい作品といえる。

屏風のぞきは正直今までそこまでキャラが立っているわけでもないと思っていた。なにしろ最初はモブ的な立場で、でも本当は若旦那の生まれてすぐの頃からそばにいるから若旦那のことは自分の本体である屏風くらい大事に思っている。
とはいえ特徴的な能力があるわけではないので、話し合いのとき場をまぜっかえすだけの印象が強かった。むしろ本体に縛られている分、身軽に動けないというマイナスの特徴すらあった。
でも今回は金次とコンビでめちゃくちゃ格好いい。
彼の特徴は多分"ニュートラル"なんだろうな。
誰とでも均等に話せるし誰とでもツーマンセルできる、みんながキャラ立ちしている中で必ず必要な人物なんだと気付いた。

無敵の人や疫病など、現在の世相と共通するテーマもあることでより一層長崎屋をはじめとする日本橋、江戸の町が(妖や鬼や天狗や神が現れるにも関わらず)現実感を持ち、脳内て描く江戸の町はどんな場面でも鳴家が屋根裏に潜んでいるように思えてくる。
そしてその現実味を持った江戸の町で食べている焼き大福がめちゃぬちゃ美味しそうでおなかが減る。
離れで手代ふたりが七輪で焼いた大福、食べたい。

余談だけどしゃばけシリーズはドラマ化されたり舞台化されたりしているのだけれど、もしまた実写化するならどこかにすゑひろがりずに出てきてほしいなあと思っている。
あの妙なキャラクターっぽさとか、時空を行き来できそうなところとか、少し妙だけど地に足が着いている感じとか、世界観が似ていると思うんだよなあ。

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