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小説「快適な宇宙旅行」vol.5

 美魔女、とよく言われたものだ。現在宇野の彼女としてこの物語に登場している私、エイドリアーンは、変態という、形を変えることの出来る能力を持つ種の生物で、一度見たものの形を記憶し、同じ形に変化することができる。元は植物のようなほとんど動かない生き物だった。光合成をするのはそのためだ。
 初めて人間の形になったのは物心ついた頃。父や母が同じく変態だったので私も真似をした。やはり人間の形は動きやすいし、色々と便利だ。今の状態になったのは三年前に白人の美人を決めるコンテストの雑誌を見た時に、一番好みの女性を選んで変わってみた時だ。あれから両親にも褒められるし、友達や上司からも綺麗だと言われる。
 というわけで言ってしまえば宇野は騙されている。ただ、仕草だけは不細工になってしまう。仕方ないというか、そこだけは変えられないさだめのようだ。それで好きな人にフラれた友人を何人も見た。得なようで少し悲しい運命なのが変態種族である。
「エイドリアーン、あーしの船に地球人乗ってきたんやけど会ってみーひん?」親友のボサノバからのメールにすぐ返事した。
「会いたい!」私の星では地球人が超人気だ。地球人にはあまり知られていないようだが、好きなタイプを聞かれれば皆口を揃えて「地球人!」と言うのが最近の女子だ。
「じゃいつもの居酒屋で」ボサノバと結託してあの出会いの状況は出来上がった。宇野との出会いは偶然ではない。ただ、宇野はボサノバの宇宙船に突然飛び乗ってきたらしく、そこらの地球人とは少し訳が違うようだった。変わり者なら余計に私とも気が合うかも知れない。なにせ大抵の地球人は「怖い」などと言って逃げていく。
 宇野は始め、「良い天気ですね」と言った。よく意味がわからなかったので後で「いいてんき 意味」でググったが、よく意味がわからなかった。何度か話しかけられるうちになぜか「こいつ、可愛いな」という気持ちが湧いて来て、少し怖がらせてやりたい気分になった。
 鼻を伸ばしても口を伸ばしても私を怖がらない宇野のことが私はどんどん好きになり、今に至る。彼だって初めてみるものばかりで引いているはずなのに、なかなか強者だ。「私のこと怖くない?」
「綺麗だ、エイドリアーン」宇野は変わり者だ。私より変態だ。
 ボサノバは、
「うけけ!上手くいくと思ったわ、」
 ちなみに私の父の名前はエイリアン、母はエスパー。私だけ人間みたいな名前をもらって良かったと思う。しかしこの私の変態という最大の秘密はいつ明かせば良いのだろう。
「宇野が酔ってない時にズドーンと言ってやんな、びっくりさせたろ」ボサノバは言うけど私は自信がない。嫌われたくはない。私の良い所って顔以外にどこがあるんだろうか。
 顔が生まれつきのものではないことを宇野が知ったら流石に振られるかもわからん。しかしいつかは言わないとだろうか。一生このまま突き通すのも手ではある。
 宇宙人にも悩みはある。どうか、みなさまどんなに綺麗な宇宙人でも悩みが尽きないことをわかってほしい。美貌を手に入れたって、本当の所はなんか色々大変、なのだ。にしても宇野は本当に面食いなのだろうか。なぜ私と一緒に居てくれるのだろうか。変態種族は涙は出ない。というかどこを切っても血は出ない。ゆえになかなか死なない。水と太陽があれば生きれる。もう正直二千年は生きてる。正直疲れた。これは初恋ではないが、数少ない恋愛だ。このチャンス逃したくない。ああ、嫌われたくない。
 あ、てか宇野は地球人でしかも四十五歳だから後どれくらい生きるのだろう。
 地球人が人気なのはそれもある。あんまり生きないから。儚い命は美しい。命とは、ロマンだ。エイドリアーンからすれば宇野の命はミジンコみたいな短さだが、ダイアモンドのような宝石を思わせる存在。好きというのは尊い。推しが尊い。大切に大切にしたい存在。
「原宿でオソロのティーシャツ買った〜」ボサノバからのメールに三人が「朝飯前」と書かれたティーシャツを着てピースする写真が添付されていて尚尊い。宇野の顔は拡大してスクショした。
 やはり本当のことを打ち明けよう。そう決意した。決意はした。そのうち実行するとか。たぶん?
 それまでは、自分磨き、口から水を飲む方法を練習している。素敵なご飯屋さんも検索しておこう。乙女心とは幾つになっても衰えない。恋って素晴らしいぜ。    つづく
 

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