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小説「快適な宇宙旅行」vol.4

 陽気な音楽が流れている。彼ら曰く「チルい」らしい。そんなチルい船内からお送りしております、快適な宇宙の旅。今日は彼女も一緒である。
 グラスには水色のシュワシュワした液体。水星の水らしいが、宇野にはシャンパンカクテルに思えてならなかった。彼女はピンクのドリンクで上にアイスクリームも乗っている。宇野に心を許した彼女は鼻だけでなく口も伸びることが発覚した。
「あれはキスなんかじゃないよ」宇野は甘え口調で彼女に言った。
「私の星ではあれで恋に落ちる男性が大勢いるってのに、」
 彼女の唇が一メートル程伸びて宇野の口に触れた時は一瞬酔いが覚めて地球が恋しくなった。人間の女性の唇はあんなに伸びないし吸引力もない。唾液が吸い取られたらどうなるのだ。怖すぎる。
「でも」
「ズズズ…」
 また鼻で飲んでる。
 ゆったりした陽な音楽はこんな彼女も許容してしまう。確かに地球でも多様性を重視する風潮だが。これは多様すぎてわからない。一番わからないのはそんな彼女が人間そっくりの形をしていて女優になれそうなほど綺麗なことだ。嘘みたいなことばかり起きて、口と鼻が伸びることが本当みたいだ。
「ねえ、私が昔火星に星を見に行った時、地球はこんな透き通った青だったわ」宇野のドリンクを指して言う。
「目も飛び出ちゃう?」我ながら面白い。
「照れちゃう」褒め言葉らしい。あまりにも価値観のかけ離れたこの彼女に恋をしている宇野はどうかしている。
「君の星は何色?」
「みどり」
「へえ、自然豊かなんだ」みどりの星なんて素敵だ、行ってみたい。
「逆よ、汚染されてる、二酸化炭素が足りないの。」どうやら彼女は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出すらしい。引いた。
 自分の星ではレジ打ちのアルバイトをしていたらしい。バイト代が貯まったので今は旅行中だ。彼女の実家がコンビニを経営しており、昔からレジには自信があるとか。
「昔からお腹が空いたら一階へ降りて行って期限切れや、半額のお惣菜を買って食べてた。冷蔵庫みたいに使ってたわ。」コンビニの二階に住んでるなんてなかなか本当っぽい。
「やっぱり君地球人だろ」
「違うよ!ズズズ…」
 まぁ地球人だったら鼻は伸びない。酸素も吐かない。言わないでおいたが彼女と僕は酸素と二酸化炭素を循環させて一生同じ所で暮らせるのではないか。しかしこれを言うと彼女の口が伸びてきそうなのでやめた。そもそも何で好きになったのかわからない。。地球で普通に恋愛してた時は、性格がいい、顔がタイプ、仕草が可愛い。色んな理由で彼女のことが好きだった。結果的に浮気されてしまったけど、それが恋愛というものだと思っていた。今回は自分でもびっくりしている。顔は綺麗だが鼻は伸びるし口も伸びるし、価値観も合わない。仕草は正直タコ以下だ。
 なんで好きなんだ…しかもどうやら両想いの様子。
 宇宙犬が尻尾を振りながらこちらに向かって走ってきた。グラスを加えて去ってゆき、再びドリンクホルダーに新たなグラスを乗せて来た。相変わらず犬なのか猫なのかわからない。今度のドリンクは黒い。よく見ると中にキラキラした何かが見える。
「わっ、宇宙。」彼女が宇野のドリンクをみて言った。
 見るとたしかに黒いドリンクの中は宇宙のようにキラキラしており、時々流れ星が見える。
「おお…。」しばらく二人で眺めた。ロマンチック過ぎる。宇野はこの瞬間生まれてから今まで積み重ねてきた人間の汚れた部分が綺麗に削ぎ落とされる感覚になった。なんか、整った。彼女も同じ気持ちだったと思う。頭の中からスキャンすべきバーコードが消え、あたり一面が美しい銀河になり、我々の存在意義を教えてくれた。
「あの二人いっちゃってる。」マーシャが呟く。
「私たちの思惑通りね!」ボサノバは言った。
 二人が計画的に彼らを繋げたことは宇野はまだ知らない。宇宙犬が「めぇ」と鳴いた。
             つづく

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