毎週ショートショート　音声燻製

テストの休み時間、隣席の中野君が暇つぶしに話しかけて来た。

「男はな、中学になったら国から手紙が来るんだよ。届いたら半年以内に声変わり施設に行って声を燻してもらうの」

「なにそれ！声変わりって人工的に行われてるの？」

中野君は風邪気味なのか少し枯れた声で週末に変声しに行く事、何で燻して貰おうか考えててテストに集中しきれない事をヘラヘラ話した。
私はメープルで燻製すれば少しは優しい言葉遣いになるとわざと真顔で答えた。

その後私も集中が逸れて、テスト中に睨んだ中野君とバッチリ目が合って暗記した化学式は全て分からなくなってしまった。

週明け、担任の先生は中野は病気が見つかった為、入院すると言った。

声、燻され過ぎたw

一言だけのメッセージが夜遅くに来ていた。
お見舞いに行った時にお母さんから聞いたよ。
風邪かと思って検査しに行ったら舌癌だったそうだね。手術して良くなってね。

術後少しして復学した中野君は自称程よく燻された声になっていた。
大声は出せないけどそれが大人っぽくなっただろ？相変わらずヘラヘラ話した。