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二重人格ごっこ(436字)




ファーストフードのバーガーショップに面接に行った。

「では、簡単に履歴書の説明お願いできるかな。…と、言っても安田くんのクラスメイトなんですよね?採用しようと思ってますので、肩の力を抜いて話してみてくださいね」

子綺麗なユニフォームを正しく身につけ、笑顔ではあるが眼鏡の奥の光は失われている副店長を名乗った神経質そうな男性は、僕にバックヤードであることを忘れさせてそのままバーガーセットでも頼みたくなる程、強烈な明るさで面接を始めた。



一月が過ぎ研修バッジが取れた頃、副店長は僕に接客研修をする事になった。

「接客業とは いかに自我を殺すか なんだよね。」
接客マニュアル片手に横に立った彼は僕の背中を軽く叩いた。
「君には素質があると思うんだ。」
「そんな…」
否定しようとしたが彼の強烈な明るさに言葉がでてこなかった、確かに僕はニ重人格だ。

フィッティングルームの鏡に映る僕は正しくバーガーショップの店員に成っていて笑いそうになる。
恋人に暴力を振るうとは彼の他には誰も気付かないだろう。

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