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ロスト・バケーション『真面目なサメ映画、でもヒロインはカモメ』映画感想

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作品名:ロスト・バケーション
評価:4/5
放映日:2016/06/24(日本2016/07/23)
監督:ジャウマ・コレット=セラ
主演:ブレイク・ライブリー

評判の良いサメ映画として、前から気になっていたロスト・バケーションを見ました。
本作はサメが出てくる映画ですが、一般的なジャンル認識としてのサメ映画(≒バカ映画)ではない映画です。(サメ映画にも真面目な名作映画があるって話は置いておいて)
あらすじは、母親の死をきっかけに秘密のビーチを訪れたナンシー。
サーフィンを楽しんでいると、海に浮かぶクジラの死体を見つけます。
不穏なものを感じて浜へ戻ろうとするナンシー。
そこをサメに襲われ脚に大きな傷を負い、小さな岩場に逃げ延びて、極限状態から生き延びるすべを探す、といった内容です。(ここまで本編で30分程)

美しい自然と、サメと海への恐怖と不安、そして傷と痛みを生々しく感じられる映像と演技。
最初から最後まで設定の提示と演出が見事。
所々サメ映画の要素を感じながらも、基本的には真面目なストーリー&演出で、自身の傷や自然環境、海とサメと向き合いながら、生きることについて考えさせる映画です。
興味がある方はぜひ見てみてください。

あと裂けた脚の傷をピアスとネックレスで縫ったり、結構痛々しいシーンがいくつかあるので、苦手な人はご注意を。





以下本編感想、ネタバレ注意。





少年がビデオを拾った所からスタート、タイトル表示。

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ご機嫌な南国風景が美しい。
運転手のおじさんが凄くいい人。

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海に入る俯瞰の撮影が美しさと同時に不穏さを感じさせる。
序盤から不穏なBGMでミスリード。
サーファーコンビ登場。
どっちも気のいい兄ちゃんで運転手おじさんと合わせてメキシコなのに民度高いな。

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今度こそご機嫌なBGMでサーフィン。
画面作りがずっと海の美しさと広さを強調するような撮影になってるのは後半の展開への前振りかな。
母親の死を理由に医学部を辞めようとしているナンシー。
父親との電話を切って再びサーフィンへ。
クジラの死骸を発見。

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そしてサメの襲撃。
赤く染まっていく海が恐ろしいと同時に、気泡の演出がどこか美しさを感じさせる。

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陸までさほど遠くなく、それでも孤立感と絶望感を演出する画面作りが凄い。
今作で一番痛い脚の縫合シーン。
手術用具がピアスとネックレスなのが余計に痛さを際立たせる。
演技も相まって他の映画で殴られるとか銃で撃たれるとかのシーンよりもよっぽど痛そうでつらい。
夜を越えて、酔っぱらいおじさん登場。
数百メートル離れてるとはいえ目の前で荷物盗んでくおっさん凄えな、さすがメキシコか。
映るサーフボードで(あっ……)ってなる。
それでもおじさんを心配するナンシーは聖人かな。いやまあ死んだら救助呼んでもらえない的な意味でも困るんだけど。
死ぬオッサンを映さずにナンシーの表情で長回しする演技が凄い。
しかし上半身と下半身分裂して砂浜にあがるってどういう食われ方したんだろう…。
朦朧とするナンシーと、サーファー2人組再登場。
サーファー!!!
悪いことなにもしてないのにふたりとも死んでかわいそう…。
まあナンシーも悪いことしてないんだけど。
直射日光にボードを掲げるナンシー。
サメと海もだけど、夜の寒さや昼の暑さといった自然の過酷さも表現されてるよね。
あと止血した脚が変色してきてて痛々しい。

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治療してあげたのに鳩に噛まれるナンシーの「随分乱暴なありがとうね」って台詞がユニークで好き。
カメラに遺言を吹き込むナンシーがおつらい…。
鳩の名前はスティーブン・シーガル(スティーブン・セガールとシーガル=カモメを捩ったダジャレかな?)。
カメラを見つけて、鳩に託す流れだな?と思ったらそんなことはなかったぜ。
「二人に凄く会いたい」
「でも戦うつもりだから。諦めない。ママが戦ったように。パパは正しい」
サメとの戦いを決意すると同時に、人生に迷っていたナンシーが決断して覚悟を決めたシーン。

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(綺麗だけど、なんで光るの…?)
からのクラゲ痛ってええええ!!!
水中で空気全部吐いたのに結構息に余裕あるな?
ブイに到着。通り過ぎていく船。
そしてサッカー少年登場。
少年が英語わかるのかな?それともスペイン語で吹き込んだのかな?吹き替えで見たからちょっと疑問。
(あとで字幕で見たらやっぱり吹き込んでるのは英語でした)
でも最初の襲われる映像見ればとりあえずヤバいことはわかるか。
そして最後の決戦へ。

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クジラの油に引火して燃え上がるサメ。
急にサメ映画感マシマシになってきたな?嫌いじゃないけど。
ブイが破壊されて鎖で水中に潜っていくナンシー。

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人食いサメの串刺し一丁上がり!
あの速度でナンシーだけ綺麗に避けるの無理だろ?とちょっと思ったけど、まあサメ映画だし、映画のテーマとも関係ないからいいか。
サメのいる(いた)海に浸かってまで運転手おじさん本当に聖人すぎる……。すき。

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死にかけてるナンシーの事情なんて知る由もなく頭振ってるカモメがなんか笑う。
笑いかける母親の幻覚。
ナンシー「大丈夫よ」
大丈夫は死にかけの自分が大丈夫って意味と、将来を迷っていたけどもう大丈夫ってふたつの意味があるのかな。
一年後、そこには元気に立つナンシーの姿が。
普通に立って歩いてるー!?あの傷で後遺症とかなかったの!?
エンドロールの空撮風景がやっぱり美しい。



最後に、
構成に低予算を感じさせるけれど、画面作りの手法が秀逸で安っぽさは感じさせないこの映画。
終始主演のブレイク・ライヴリーさんの名演技が光ります。
サメ映画としてのガワを保ちつつも、本質は極限状態で自身を見つめ直すナンシーの心が本テーマな作品ですね。
母を救えなかった医療に疑問を持った彼女が、自身やカモメの傷を手当し、極限の状態で自分を見つめ直し、最後に決断する。
「でも戦うつもりだから。諦めない。ママが戦ったように。パパは正しい」
最後はどうなるかわからないとしても、諦めずに戦う、これは彼女の現状であり人生そのものへの決意の言葉でもあります。

盗みをはたらいた酔っ払いが死んだと思ったら、特に悪いことをしてないサーファーコンビも死んだり、最後の親子はどっちも終始善い人だったり、ずっと一緒だった鳩が癒やしなだけで脱出の助けにはならない。
そういった要素がお話の展開のためのパーツとして設定されていない感じに、逆にリアリティを感じました。
人生で出会う人には、悪い人がいれば善い人もいるし、理不尽に悪い目に合う人もいれば、情けをかけてもその全てが報われるわけではない。
でもだからこそなにがあっても腐らず、今を必死に生きろというメッセージがあるのではないでしょうか。

設定的にツッコミどころもいくつかあるんですが、サメ映画だからということでなんとなく納得できるのが強いですね。
テーマとしてはちょっとありきたりな部分もありますが、演出、描写、設定の詰め方がどれも秀逸なので、将来に迷った人にオススメしたい作品です。

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