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【声劇台本】迅雷の最適解Ⅱ~カサドラの雷鳴~


前作「迅雷の最適解」からの続きです

「俺の、最適解は」
生体兵器TI(ティーアイ)の討伐から2ヶ月後
迅雷はラオを追って、遥か西にある都市「カサドラ」へとやってくる
そこでは大勢の殺し屋に追われている「バレット」がいた

SF風味のファンタジーアクション

・性別不問
・展開を崩さない程度のアドリブは可


キャラ紹介

迅雷(じんらい) 男

政府「ネムズ」に造られたサイボーグ
TI(ティーアイ)討伐後、政府の命令でカサドラへとやってきた
機械らしくクールな印象関係のない情報は得ないため、世間知らずに思われることもある

バレット 女

カサドラの街で「殺し狩りのバレット」と呼ばれている女性
赤い髪に、動きやすいドレス男勝りで口が悪い
好きなものはりんごジュース。苦手なものはコーヒー
ダルケスは元師匠で、殺しの術を教えてもらった関係

ダルケス 女

カサドラでカフェ「サンクス」を経営している女性
元殺し屋ピンクの髪に、露出度を高いシャツを着ている
物腰の柔らかい、余裕感のある印象
「罠師のダルケス」とも呼ばれるバレットの元師匠
(性転換ありで、その場合は綺麗なオカマとして演じてください)

ラオ 男

政府「ネムズ」の元研究者
青い髪に、白いコート
好奇心旺盛で、自分の研究にのめりこむ性格
TI討伐の1件で、政府から逃れ、カサドラに入り込んでいた

疾風(はやて)

ラオに造られたサイボーグ
栗色の髪に、胴体と腕が機械で、足は一部人間の肌を形成している
清楚な印象で、話し方が冷然としている
ラオの事をマスターと呼び、彼に従ってきた
機械らしくクールだが、迅雷やラオから、別の人間と姿かたちを重ねられることに嫌悪感を抱く



ヒデじい様の
声劇台本置き場にも置いてあります

シナリオ本文

バレット:ったくもう!

バレット:流石に数が多いっての! 今回は何人だい、これ!?

0:カサドラの街中、バレットはたくさんの殺し屋に終われていた

バレット:めんどくさい……一気に蹴散らす!

バレット:踊り狂えよ…マカブリットダンサー!

0:バレットは二丁拳銃を取り出し、追っ手を各個撃破していく

バレット:よし……これで、ってまだ!?

バレット:もう! 拉致があかない!

迅雷:……

バレット:…? 男?

バレット:ちょっとあんた! そんな所で何やって…

迅雷:そこの赤髪

迅雷:追われていると分析した

バレット:赤髪って…もうちょっと言葉をさぁ

迅雷:変わろう

バレット:はぁ!?

迅雷:…戦闘モード移行

迅雷:戦闘バッテリー消費予測5%

迅雷:ターゲットは「カサドラの殺し屋」

迅雷:敵戦闘パターン予測。過去の戦闘経験データを元に算出(さんしゅつ)

迅雷:予測曲線の変化率、10%

迅雷:支障はない。

迅雷:これより、戦闘を開始する

0:迅雷は剣を抜き、バレットを追っていた殺し屋をあっという間に片付けた

バレット:……すっご

迅雷:戦闘完了

バレット:…その身体、あんたまさかサイボーグかい?

迅雷:…「殺し狩りのバレット」。カサドラのデータと照合完了

バレット:東の都からはるばるやってくるなんざ、政府もあたしに目を付けたかい?

迅雷:いや

迅雷:それが目的ではない

バレット:始末する以外何があるってんだよ

迅雷:ラオという男を追ってきた

迅雷:政府から排除の任務がくだっている

バレット:……!

バレット:ははっ、そりゃありがたいね

迅雷:知っているのか?

バレット:知ってるも何も、ここじゃ有名だよ

バレット:1か月前に現れて、もうすでに、この地域の殺し屋は5割も従ってる。前代未聞だぜ

迅雷:何?

バレット:大方、そのラオってやつが持っているサイボーグ技術とか、なんだ、色々あるのか知らんけど

バレット:それ欲しさに雇われた殺し屋が多いんだろうぜ、きっと

迅雷:先ほどの殺し屋達も、それだと

バレット:ああ

バレット:どうやら、ラオってのはあたしが好みみたいで。連れてこいって言われてるらしいのさ

バレット:数が多すぎて、厄介だぜ、ホント

迅雷:それなら、協力関係を結ぶ選択を提案する

バレット:さっそくデートの申し込み?

迅雷:デート? なんだそれは

バレット:……びっくり

バレット:サイボーグってそんなことも知らねえのか?

迅雷:検索する必要がない。デート、という物を知ったところで、戦闘に支障はないだろう

バレット:はは……頭かったい

迅雷:俺にメリットがあるだけだ。返答は?

バレット:…いいぜ。協力しよう。

バレット:あんたがいきなり後ろから殺しにかかる奴には見えない

バレット:ラオを狙っているならなおさらさ

バレット:あー、それで、あんたの事、なんて呼べばいいんだ?

迅雷:迅雷だ

バレット:迅雷…? 迅雷、迅雷……

バレット:あ! 雷鳴の英雄か!

迅雷:噂というものは、ここまで流れているとみた

バレット:東の都市で、でかい化物を倒したとかなんとか

バレット:へぇー。見た目じゃわからないもんだね

迅雷:戦闘の勝率は、見た目との因果関係はないが…

バレット:あーいや、そういう話じゃないから

迅雷:…それで、ラオの居場所は掴めているのか?

バレット:ああ

バレット:ここ数日、南のほうにある取引所で、ラオを見かけた。追ってきた殺し屋にも聞き出したが、直接顔を合わせる連絡場所でもあるらしいぜ。嘘じゃなければな

迅雷:どちらにしよ、他に情報がない。そこに向かおう

バレット:んじゃ、よろしく……じんら…あー、なんか呼びづらいな

バレット:迅でいい?

迅雷:名前の省略か。一文字名前が消えるだけでも、戦闘における無駄な時間は減る。有効な手段だろう

バレット:あんた、意外と戦闘バカよな

迅雷:……この都市でも、馬鹿にする個体がいるとは

バレット:いや、まぁ発言がさ

バレット:ほんと変わったやつ……

迅雷:…とにかく、行くぞ

迅雷:ここか…

バレット:お望みのラオさんは出てくることやら

迅雷:楽しそうだな

バレット:これでも真面目さ

迅雷:殺し屋と聞けば、8割がた眉間(みけん)にしわの寄せる人間が多いというデータがある

バレット:何それ? ガセネタでしょ

バレット:眉間じゃなくて、口元の間違いだよ、そいつは

迅雷:口元?

バレット:口角を上げて、涎(よだれ)を垂らしてきた痕(あと)…そういう顔が染みついた連中ばっかだよ、カサドラは

迅雷:欲望を中心に動いている人間が多いという事か

バレット:そうだね…。中には、違うやつもいたけど…それはごく少数。少なくとも、ラオが雇っているのはだいたいがそういう連中ばっかりさ

迅雷:その連中というのが、奴らか?

0:迅雷たちの目線の先には、数名の殺し屋がいた

バレット:そういうことさ

迅雷:ラオの姿は……見当たらないか

バレット:偵察はしてんだけどなぁー

バレット:そう簡単に掴まらないかね。それかあたしが偵察に向いてないだけとか

迅雷:偵察は、おおよそ我慢値の高い人間が適性を持っている

迅雷:殺し狩りのバレットの忍耐強さは低いと分析した

バレット:勝手に分析しないでくれるかね

迅雷:相手の事を事前に知っておくのは、重要だ

バレット:確かに。レディのエスコートをするなら、なおさらね

迅雷:エスコートだと?

バレット:そのまんまの意味だよ

バレット:ってことで、迅。……頼むぜ

0:バレットは黒いドレスの中から銃を取り出す

迅雷:攻撃という意味だったのか、エスコートとは

バレット:ちょっと違うけど、ね!

0:バレットは前に出て、殺し屋達の不意を衝く

バレット:遅いよ!

バレット:先手必中…チャイルショット!

迅雷:敵前方に5体。3体はバレットが処理。なら残り2体

迅雷:除去コード45(よん ご) 

迅雷:雷回旋(らいかいせん)!

0:迅雷は残り2体の殺し屋を、剣で斬りつけた

バレット:死にたくなかったら、ラオの居場所を教えな

バレット:奴は今どこに……

迅雷:……?

バレット:どうした? 迅?

迅雷:…この匂いは…

バレット:…っ!? 火薬!?

ダルケス:そーれ。ぽちっとな

迅雷:離れろ!!

バレット:…っ

0:瞬間、辺り一帯に大きな爆発がおこり、バレット達を襲う

バレット:この芸当…!

ダルケス:流石、バレットちゃんね

バレット:ダルケス…!

迅雷:…何者だ?

バレット:…カフェのオーナーで

バレット:イカれたやつだよ

迅雷:…殺し屋ということか?

ダルケス:元、殺し屋よ

ダルケス:というか、バレットちゃん。その隣にいる子…

バレット:なんだ、知ってんのかよ

ダルケス:……いい顔してるじゃないのぉ!

ダルケス:まさか、バレットちゃんがこんなイケメンサイボーグを掴まえてたなんて。お姉さん、嬉しいわぁ

バレット:それ、もっと平和なムードで聞きたい台詞なんだけどな

バレット:全然笑えないぜ

ダルケス:んもう、冗談は何でも受け止めなさいって教えなかったかしら?

バレット:全然

バレット:これっぽっちも、教わってないさ

バレット:……元師匠

迅雷:…師匠?

ダルケス:可愛いバレットちゃんが、こうも素敵なレディになるなんて。当初は思いもしなかったわ

ダルケス:さっきの罠だって、余裕のよっちゃんで避けられていたし

バレット:罠師のダルケスは、殺し屋を辞めても変わらねぇ異名だな

ダルケス:嬉しいじゃないの。殺し狩りの異名と、いい勝負かしら?

バレット:今日ここで勝てたら、その異名の方が上をいっちまうかもな

ダルケス:あら、ここで死ぬつもり? バレットちゃん

バレット:冗談!

迅雷:!? 周りに電気!?

迅雷:違う…これは、トラップか!

バレット:迅!

迅雷:了解している

0:迅雷はすかさずその場から離れる

ダルケス:あーん残念。苦しむイケメンも見たかったのに

迅雷:戦闘に苦しみは…必要ない

迅雷:…トラップのサーチ、開始

迅雷:……っ

迅雷:……量が多いな

ダルケス:へぇ……これは驚き

ダルケス:流石、政府のサイボーグさんね

迅雷:……道は見えた

迅雷:……最適解のルートは、ここだ

0:迅雷は、不規則に飛び交い、ダルケスへ近づく

ダルケス:っ!

0:しかし、何者かに剣を阻まれる

迅雷:…!? 何!?

疾風:っ!

迅雷:……誰だ!?

0:割りこまれた敵から、剣をはじかれ、迅雷は距離を取る

迅雷:……こいつは? サイボーグ!?

ダルケス:危なかったわぁ

ダルケス:ナイス助太刀(すけだち)、疾風(はやて)ちゃん

疾風:…

迅雷:…疾風(はやて)?

ダルケス:彼女は、ラオの付き添いのサイボーグ少女

ダルケス:簡単に言うと、そんなところかしらね

バレット:もう一体の……サイボーグ?

疾風:……殺し狩りのバレット、そして

疾風:あなたが、迅雷ね

迅雷:…っ

迅雷:(この声……顔…なんだ)

迅雷:(一体……何が引っかかっている?)

疾風:私は疾風(はやて)。ただ、ここで貴方はスクラップにされるわけだから、こんな自己紹介をしても、意味がないと思うけれど

ダルケス:疾風(はやて)ちゃん、バレットちゃんは生け捕りよ。分かっているわよね?

疾風:ええ

疾風:私が言っているのは、そこのサイボーグの事よ

疾風:マスターを追ってきたんでしょう?

迅雷:…ラオのことか

迅雷:随分と機械じみた女だ

疾風:機械であることは、最も効率が良く、最も戦闘に適している

疾風:貴方が中途半端なだけ

迅雷:な、何?

疾風:その腑抜(ふぬ)けた面(つら)、嫌いなのよ

迅雷:っ!?

疾風:戦闘モード起動

疾風:魔素(まそ)転換。風力エネルギー、異常なし

疾風:敵戦闘パターン分析……過去の経験データから推測

疾風:戦闘における予測曲線の変化、30%

疾風:これより、戦闘を開始する

バレット:迅!

ダルケス:よそ見している場合かしら?

バレット:くっ!

0:

0:疾風は一気に近づき、迅雷へ攻撃を仕掛ける

迅雷:……挙動が早い! あの距離を一瞬で詰めるか!

疾風:貴方が遅いのよ

迅雷:っ、がっ……あ!

疾風:もう少し、速さを鍛えたらどうかしら

バレット:くそっ。2対2だけど…迅の様子が、変だ

ダルケス:人の心配をしながら戦う余裕はないわよ。ほら、そこ

バレット:ここにも罠かよっ!

ダルケス:…教えた頃を思い出すわね、バレットちゃん

ダルケス:私が仕掛けた罠を、ギリギリのところでかわしていく

ダルケス:そうして最後に貴方はいつでも、まっしぐらに撃ってくるのね

バレット:あたしは、カサドラを平和にするって決めてんだよ

バレット:それはあんたもよくわかってるはずだぜ……元師匠

0:

疾風:随分と、話にならないのね

迅雷:ぐっ……!

疾風:雷鳴の英雄が、聞いてあきれるわ

迅雷:くそ……

疾風:それとも、私が誰かに似てるからかしら?

迅雷:…なんだと?

疾風:…「ハル」

迅雷:…!

迅雷:…ま、まさか

0:迅雷の脳裏の中。TIとの戦いが頭に蘇る

0:疾風の顔と、TIの中に居た少女の顔が一致した

迅雷:……お前は…「ヒナミ」な……の…か?

迅雷:が……あっ……あああっ!!

バレット:!? おい! 迅!

迅雷:くっ……あ……ぁ……

疾風:……手が震えている

疾風:…足がもたついている

疾風:自分がやってしまったことを、悔いている

疾風:…泣きそうな顔をしている。機械なのに

疾風:……信じられないのね

疾風:その斬った相手と似ている存在が、目の前にいる事を

迅雷:……黙れ……

迅雷:……黙れっ!!!

0:

ダルケス:…そう。意外とあの子、傷物(きずもの)なのね

ダルケス:クールなサイボーグにも、見えない影、か

ダルケス:まるでバレットちゃんのようね

バレット:……何のことだよ

ダルケス:まぁ、殺し屋だれしも影があるっていうから

ダルケス:苦い物はまだ飲めなさそうだけど

バレット:……あんたを撃った後には、きっと

バレット:飲めるようになってるさ

0:

疾風:「黙れ」…ね

疾風:ずっと、私が「それ」に見えて、仕方がない

疾風:その過去のフィルターを通して、私を「見てる」だけ

迅雷:……お…前……は……あ

疾風:……っ

疾風:虫唾(むしず)が走る…!

迅雷:…!

疾風:勝手に私を、重ねないでくれるかしら?

疾風:除去コード10(いち ぜろ)……鎌鼬(かまいたち)!

迅雷:…風の攻撃…! がぁっ!

迅雷:くそ…。…っ!? これは……雷神剣のエネルギー……低下?

迅雷:…どういうことだ?

疾風:貴方の感情より、私のほうがまさっているということよ

疾風:くだらない過去への恐怖と、勝手に投影される嫌悪

疾風:後者に軍配があがっただけ

迅雷:が。あああああっ!

疾風:過去の亡霊と共に、風に飲まれて、沈みなさい

迅雷:…っ……

0:ふと、迅雷はバレットのほうを見やる

バレット:…

ダルケス:撃ちたくないの?

バレット:いや

バレット:できるさ

バレット:あたしはもう、「撃って」んだ

バレット:それは、あんたも知ってるだろ?

ダルケス:……

バレット:どんなに知った奴でも

バレット:…撃ちたくない相手だったとしても

バレット:相手が殺しに来るなら、狩り続ける

バレット:それが殺し狩りのバレットなのさ

バレット:だから、ここで死ぬわけにはいかない

バレット:あたしはここで、あんたを超えて、その先に行く

ダルケス:…バレットちゃん

迅雷:…!

迅雷:こえ…る…

ラオ:そこまでだ

ラオ:いや、いいものを見せてもらった

ラオ:フィクションを見るよりよっぽど面白い

バレット:…ラオ

迅雷:…あらわれたか

ラオ:久しぶりだね、迅雷君

ラオ:そして、はじめまして。殺し狩りのバレット姫

バレット:勝手に姫呼びするの、辞めてくれないか

ラオ:今、どういう状況か分かっていっているのかい?

疾風:…

ラオ:疾風(はやて)。ご苦労だった

疾風:大したことはありません

ラオ:雷鳴の英雄相手に、健闘したじゃないか

疾風:彼は、強くはありませんでした

疾風:それだけです

ラオ:…君のその物言い。実に機械的だ

ラオ:面白くない。ニテラやアングイスのほうが、よっぽど感情豊かだったよ

疾風:他の機械のことは、知りませんから

疾風:私はただ、私として従うだけです

ラオ:つまらないよ、「ヒナミ」

疾風:…っ!

ラオ:…オリジナルと重ねられる嫌悪感だけが、唯一、風神刀(ふうじんとう)を動かしている原動力

ラオ:しかし、それだけでは物足りない

ラオ:プラスの感情も学んでほしいところだが

ダルケス:仕事はこれで終わりそうね

ラオ:ダルケスも、よくやってくれた

ラオ:姫をここまで追い詰めることが出来たのも、元師匠たる君の手腕(しゅわん)のおかげかな

ダルケス:…どうでしょうね

ダルケス:でも、手強かったわ、彼女も、そして、そこのイケメンサイボーグも

迅雷:……

ラオ:私を追ってきたのだろう、迅雷君

ラオ:その感情、実にいい

ラオ:君の目を見ると、あの時TI(ティーアイ)を斬ったことを思い出すよ

ラオ:それが、その雷神剣の大元の力になっている

ラオ:素晴らしい傑作だ

バレット:減らず口を!

ラオ:おっと

0:ラオはすかさず、「宙」からレーザーを放った

バレット:なっ!

0:バレットは手に持っていた拳銃を弾かれる

ラオ:怖い怖い。姫とあろうものが、そんなに野蛮な姿を見せないでおくれ

バレット:…あんたが王子さまってか? 死んでもごめんだよ

ラオ:…はぁ

0:ラオはもう一発、バレットの足に撃った

バレット:がっ…!

迅雷:バレット!!

疾風:動かないで

迅雷:っ!

0:ラオは思いっきり、バレットの頬を叩いた

バレット:っ……が……あ!

ラオ:なんでそういう態度とるかなぁ、姫

ラオ:僕さ、そういうのが一番嫌いなんだ……っ!

バレット:っ!

ラオ:僕はいつも否定されてきた

ラオ:僕が立案(りつあん)したことも全部、政府が盗って勝手に使う。親だってそうだ。あいつらは僕のしたい事をいつも鼻で笑ってた「バカ息子だな」って。だから殺した

ラオ:どいつもこいつも、クソつまらないんだよ

0:ラオはバレットの首を掴む

バレット:あ……あ……!

ダルケス:ラオ!

ラオ:あ、あぁ、ごめん、つい、なんだ、その。興奮してしまった。ほら? よくあるだろ? 自分がときめくものを見たら、つい気持ちが走ってしまうのとさ

ラオ:それと、同じだ、はは。君は、可愛いな、そう……好きだ

バレット:……クソ野郎が

ラオ:僕は君を殺すつもりはないよ

ラオ:胸のときめきを殺したら恋愛ゲームは成立しない……

ラオ:やはり、君にはサイボーグになってもらおう

ラオ:狂暴さを抑えつけた改造をほどこせばどうなるか、気になって仕方がない

バレット:……!?

ラオ:そして、君は私の隣で永遠を誓う

ラオ:戦闘用じゃない、僕の「お気に入り」として

バレット:っ……!

ダルケス:レディは手荒(てあら)に扱っちゃだめよ、ラオ

0:ダルケスは、ラオの頭に銃口を向けていた

バレット:!? ダルケス…!

ラオ:…ほう、君は約束を守る人間だと思っていたが

ダルケス:カフェの経営でもしていれば、自然と自分なりの美学が身につくって物よ

ダルケス:バレットちゃんをサイボーグにはさせないわ

バレット:あんた……

ダルケス:「敵を欺(あざむ)く時はまず味方から」。そう教えたでしょ?

バレット:…はは、流石。罠師のダルケス

ダルケス:どういたしまして

疾風:ダルケスっ!!

0:疾風がダルケスに斬りかかろうとするが、寸前で迅雷に止められる

迅雷:…

疾風:…貴方、邪魔なんだけど?

迅雷:邪魔なのはお前だ、サイボーグ

疾風:っ!? 力の圧が……先ほどより増している…!?

迅雷:……邪魔といえば

迅雷:翻弄(ほんろう)されていた俺自身も、か

迅雷:なら、邪魔者同士、仲良くする提案をしよう

疾風:…こいつっ……!

ダルケス:さてさて、形勢逆転と行きますか

ダルケス:行ける? バレットちゃん

バレット:ああ……

バレット:ハイテクレーザーを撃たれたくらいで、くたばるバレット様じゃないんだよ

ラオ:僕の発明を受け入れてくれると思っていたが、プレゼンがまだ足りないようだね

バレット:!? なんだありゃ!?

ダルケス:機械で出来た……カラスかしら?

ラオ:サイコレイヴン…僕の発明さ

迅雷:…状況を把握した

迅雷:バレット…そっちは任せられるか?

バレット:ああ、問題ないさ、迅!

迅雷:頼もしい声だ

迅雷:戦闘データ分析

迅雷:アンドロイドとの戦闘訓練データから、戦闘パターンを算出(さんしゅつ)

迅雷:魔素(まそ)転換。雷神剣の電力エネルギー、供給開始

迅雷:損傷度予測…50%

疾風:…まるで別人ね

迅雷:いや、これが本来の「迅雷」だ

疾風:…舐めたクチを

疾風:…魔素(まそ)転換。風神刀の風力エネルギー、供給開始

疾風:損傷度予測 50%

疾風:これより、戦闘を開始する!

0:疾風は刀を抜き、迅雷との距離を一瞬で詰めた

迅雷:やはり、速度は上のようだな…

迅雷:刀の抜いた瞬間から振り抜くまで、俺の攻撃速度を超えている。回避行動よりは、防御回数が増えるか…

疾風:自分の性能を理解しているようね。回避行動を選択していたら、貴方の損傷率は、大幅にあがっていたわ

迅雷:戦闘データの蓄積が功をなした。TIやデクノボウとの戦いも、経験値としては優秀か

疾風:先ほどまでの臆病さが嘘のようね

迅雷:バレットと同じだ

迅雷:その段階は、もう超えた…!

疾風:…っ!せいぜい言ってなさい!

0:疾風はそのまま一回転し、迅雷を蹴り飛ばす

迅雷:体術の速度も、奴が上回っている…!

疾風:除去コード10(いち ぜろ)…鎌鼬(かまいたち)!

疾風:はぁぁぁッ!!

0:疾風は刀から風を出し、迅雷に向けて攻撃を放つ

迅雷:…ッ!

疾風:速く、押し切る!

疾風:除去コード80(はち ぜろ)!

疾風:風霧ノ連撃(かぜきりのれんげき)!

0:疾風による怒涛の連続攻撃が迅雷を襲う

疾風:防御で精一杯かしら!?

迅雷:なら、力で覆すだけだ

迅雷:…除去コード444!(よん よん よん)

迅雷:雷斬砕破!(らいざんさいは)

0:迅雷は雷神剣を床にさす。床が砕けて電撃が辺り一面に走る

疾風:雷!? 床が砕けて!?

疾風:ぐあ……っ!!

0:疾風は体勢を崩し、迅雷の攻撃を受けた

疾風:くっ……

迅雷:一撃に対しての重みは、お前の武器とは性能が違うと分析した

疾風:……まだ!

0:疾風は、刀を構える

0:同じように、迅雷も剣を構えた

疾風:風神刀、エネルギーチャージ

迅雷:雷神剣、エネルギーチャージ

疾風:除去コード30(さん ぜろ)

迅雷:除去コード333(さん さん さん)

疾風:風月一閃(ふうげついっせん)!

迅雷:雷電地烈斬(らいでんじれつざん)!

0:疾風と迅雷の攻撃が、真っ向からぶつかる

0:

ラオ:響く、響く。嵐のように

ラオ:神の天気は、いつも気まぐれ

バレット:詩を読むなんて、余裕じゃないのさ

0:バレットは、両手に拳銃を構え、ラオにめがけて打つ

ラオ:母がいつもその詩を読んでくれた

ラオ:僕はその詩を読みながら、この手にかけた

ラオ:こんな風に

0:ラオは手をかざすと、周りに飛んでいたうち、一つの小型機からレーザーが放たれる

バレット:くっ! あっぶねぇ…バリアも張れるなんざきいてないっての!

ダルケス:どうするの? あのハイテク、厄介で仕方ないわよ

バレット:なら、あの小型機自体を

バレット:罠師のダルケスさん、力、貸してもらうぜ

ダルケス:…設置してきなさいと

バレット:話が早くて助かる

ダルケス:でもその間に、あなたが奴と戦う必要がある。大丈夫かしら?

バレット:さっきまであんたの罠をかいくぐってきた女だぜ? 舐めすぎだよ

0:

ラオ:ほう、姫。君から出てくるとは…

バレット:なんだい? あたしとのデート断っちゃうのかい? 

ラオ:面白い…。君に注いであげよう。僕の発明を

バレット:……くっ!

ラオ:クク、素早い身のこなしに、壁へ隠れる咄嗟の判断力、

バレット:喰らいな!

ラオ:さらに、僕に少しの隙あらば撃ってくる……これが殺し狩りのバレットの、真骨頂。美しい! 美しいぞ! 君の駆け巡るその姿、欲しくて仕方がないッ!

ラオ:カサドラで殺し屋を狩っている女がいると聞いた時は実に興味がわいた。それが、こんな美しい女性が、鮮やかに狩っているとは!

バレット:残念だけど、あたしは生まれてこの方、誰にも惚れたことねえから

ラオ:君の赤い瞳に、僕が映っているだけで幸福感を感じる

ラオ:是非とも、それを僕のものにしたい!

バレット:死んでも断る

バレット:モノにされる前に、終わらせてやるさ

ラオ:おびえる君の表情も好きだったが、こうやって戦場でいきいきとしている姿が、やはり君の美、そのものだ

バレット:殺し狩りは、ただの仕事だ。美しさもないっての!

ラオ:いいや、君の殺しは芸術そのものだ!はは!

バレット:お褒め頂き、光栄だね!

ラオ:君の瞳は、必ず僕のものにしてやるさ!

ダルケス:すごーくラブラブじゃないの、ラオ。でも、私の事も忘れないでよ?

ラオ:ダルケス……忘れていないさ

ラオ:ただ、後ろをとったところで……っ?

ダルケス:スイッチオン、ぽちっとな

ラオ:…バリアが…小型機が、動かない?

ダルケス:命令系統を、ジャミングで妨害したわ。これで無力化達成ってね

ラオ:っ!こざかしい真似をッ!

バレット:隙だらけだよ!

ラオ:が……あっ!

疾風:くっ…!!

迅雷:俺と力で勝負をした時点で、負けは見えていた

迅雷:話にならなかったな、サイボーグ

疾風:……っ

迅雷:お前は「ヒナミ」じゃない

迅雷:そして、俺も……

0:

ラオ:はは……形勢逆転といったところか

バレット:ここまでだよ、ラオ

ダルケス:ナイス連携

ダルケス:二人で開業しちゃう?

バレット:カフェはどうすんだよ

ダルケス:あー、それもそうね

迅雷:終わったようだな、バレット

ダルケス:…先ほどはごめんなさいね、迅雷ちゃん

迅雷:いや

迅雷:意図が判ればそれでいい

ダルケス:さすが、サイボーグね。何でもさらっと水に流しちゃうところとか

バレット:それサイボーグ関係ある?

迅雷:余計な感情に囚われない、効率的な考え方だ

迅雷:時として、戦闘にも必要になる

ダルケス:……すごい特殊ね、この子

バレット:そりゃサイボーグだし

ダルケス:そういう問題?

ラオ:……随分と成長したね、迅雷君

ラオ:TIを斬った時と、まるで違う

ラオ:成長速度も著しい

迅雷:ラオ

迅雷:お前に排除命令が下っている

ラオ:その前に、聞きたくないのかい?

迅雷:何がだ?

ラオ:彼女の事

疾風:…

迅雷:あいつは、ヒナミじゃない

ラオ:そう、その通り。でも半分正解かな

迅雷:?

ラオ:オリジナルのヒナミはTIさ

ラオ:あれは、そのオリジナルから遺伝子を抜き取ったクローン体だ

ラオ:そのクローン体を改造し、風神刀(ふうじんとう)を持たせた

ラオ:どうやらそのパターンでも、神器(じんぎ)は出力を発揮するらしい

迅雷:…クローン体

バレット:よくわかんないけど、あんたが作ったってこと?

ラオ:オリジナルとは、別人だ

ダルケス:…事情が複雑そうねぇ

迅雷:ただ、その事情にもう迷うことはない

迅雷:バレットがそれを教えてくれた

バレット:…

疾風:……認めるのね

疾風:私は、ヒナミではないと

迅雷:過去の俺が勝手に解釈していた、それだけだ

迅雷:もうお前を重ねてみる事はない

迅雷:お前は、疾風(はやて)という1人のサイボーグだ

迅雷:すまない

疾風:…っ?

ラオ:君から謝罪の言葉がでるとはね……クク

迅雷:それで、どうする?

ラオ:…ここで死にたくはないな

ラオ:せめて、カツラギ君の所に行ってから…あぁでも

ラオ:それもそれで大変か

ラオ:毎日、カツラギ君の質疑応答を受ける牢獄に入ると思うと、嫌気がさすね…

ラオ:なら…っ!!

0:ラオは瞬間、自分の腕に何かを刺した

バレット:っ!こいつ!?

0:バレットはすかさず撃ち、ラオは撃たれてその場に倒れる

疾風:マスター!

バレット:…焦らせてくれるじゃないの……

迅雷:……生体反応消失

バレット:迅…悪い。掴まえる算段もあったよな

迅雷:いや。元々は排除命令が出ていた。何をされるか分からない。適切な判断だ

ダルケス:…これで一件落着、かしら?

疾風:………

バレット:…あんた、マスターが死んだってのに、えらく落ち着いてるじゃないさ

バレット:あたしに突っかかってきても、おかしくないだろうに

疾風:……何もないわ。私は人形だから

バレット:?

疾風:マスターの命令の元、…邪魔者を殺してきた

疾風:そのやり方に…私は不信感を持っていた

迅雷:…少しは疑問を持っていた、ということか

疾風:それでも、従うしかない。私はマスターに造られた、ただの機械だから

疾風:それ以外に、意味はない

疾風:それしか、私に価値はないから……

ダルケス:価値、ね

ダルケス:それは、自分で見出すものよ

疾風:?

ダルケス:私達の世界では、自分で見出さないとやっていけないわ

ダルケス:私だって、殺し屋始めたての頃は、価値なんて考えられなかったわよ

ダルケス:でも、どれだけ仕事をこなしても、殺したという事実だけが残り、外側から評価なんて与えられることなんてないわ。あったとしても、お金くらいかしらね

ダルケス:価値は、自分の中から見出すものよ

ダルケス:私は辞めた身だけどねぇ

バレット:あんたの出す飲み物、美味いよ、ダルケス

ダルケス:それはりんごジュースでしょ、バレットちゃん。珈琲とかそっちを本当は褒めてほしいんだけどねぇ

バレット:飲めなくて悪かったな

疾風:……自分の価値

ダルケス:ラオがしてきたことに疑問を感じていたなら、それが疾風(はやて)ちゃんが考えるきっかけになったってことでしょ?

ダルケス:なら、そこから自分でどう意味づけをするのか。スタートはそこじゃない?

疾風:でも、どうやって

ダルケス:それをこれから、考えるんじゃないのかしら?

疾風:…

0:

迅雷:…これで、ラオとも決着がついた……か

迅雷:…?

ダルケス:…それにしても、変なものを持ち出してなかったかしら? 

バレット:そういえば…死ぬ前に確か

バレット:…迅? どうした?

迅雷:…生体反応?

迅雷:…これは……TI…だと!?

疾風:! ダルケス!!

0:突如、ラオの体から何かが飛び出した

疾風:…っ!

ダルケス:疾風(はやて)ちゃん!

ラオ:ほう……ダルケスを守るか

ラオ:自分で行動を選択したのは、初めてじゃないかな、疾風(はやて)

0:ラオは少しずつ起き上がる。彼の体からは「蔓(つる)」が伸びている

バレット:あいつ! 生きてんのかよ!

ダルケス:でも、何かしら、ラオの様子が…?

迅雷:…戦闘データ一致……TIの蔓(つる)だと?

バレット:どういうことだよ!? 迅!

迅雷:……化物になった、ということだ

バレット:はぁ!?

疾風:…マスター

ラオ:少し表情が変わったね

疾風:私は…自分自身の行動を、自分の意思で選ぶ事にしました

ラオ:成長したな…疾風

ラオ:それで、何を選んだ?

疾風:貴方を…止めることです…!

ラオ:…僕に対しての不信感があったことは知っていた。

ラオ:君が持っていたオリジナルと重ねられる嫌悪感。それは自分が唯一無二でありたいという大きな欲求の現れ。不信と嫌悪は、人間らしい感情だ

ラオ:ただそれを、ネガティブで終わらせず、プラスの感情にまで昇華(しょうか)させるのは、見事だ…

ラオ:自分の本心に気づいたのは、大きな成長だよ

ラオ:イエスマンだった頃とは、大違いだ

疾風:……除去コード、70(なな ぜろ)

疾風:風車(かざぐるま)!

ラオ:空中で回転し、風をまとって攻撃する……

疾風:上から、蔓ごと斬り落とす!

ラオ:おおっと……危ない危ない

0:ラオは疾風を、蔓ではじき、疾風を吹き飛ばした

疾風:…があ…っ!

ラオ:でも、TIの前では無力だ

バレット:まだ、だぜ!

ラオ:?

バレット:咲き貫け……! ショットゼロ!

0:バレットはラオの懐に飛び込み、散弾銃を放ち、火が飛び出る

バレット:!? 蔓(つる)で防がれた!?

ラオ:変わった散弾(さんだん)だね……

ラオ:しかし、それも無意味。ふふ……TIの力が、僕になじんでいる……いいぞ!

バレット:っ!!

0:バレットはそのまま蔓(つる)で縛られる

ダルケス:バレットちゃん!!

バレット:こ、この野郎!

ラオ:迅雷君……きみもいい加減、決着がつけたいところだろう

ラオ:カサドラの南にある湖で待っている

ラオ:来なければ、カサドラも、バレット姫の命もどうなるかな

迅雷:…俺の返答は決まっている

ラオ:それは、是非とも聞きたいところだ

0:ラオは指を鳴らすと、バレットと共に消えた

迅雷:…消えた? 

疾風:…空間移動

疾風:ラオの技術よ

ダルケス:もう……色々起こりすぎて、ついていけないわね

疾風:殺し屋からしても、未知の領域でしょうね

ダルケス:当たり前よ! 本当にファンタジーじゃないのよこれじゃあ!

迅雷:現実だ

ダルケス:…地に足ついた返答だことで

ダルケス:でも…バレットちゃんが心配だわ

ダルケス:ラオがあんな化物になるとは、思ってなかったし…

迅雷:心配ない

迅雷:俺が助ける

ダルケス:あらやだ、イケメン

疾風:私も、同行するわ

迅雷:疾風(はやて)…

疾風:…ごめんなさい、色々と

疾風:囚(とら)われているのは、自分もだったわ

迅雷:いや

迅雷:機械にはいい刺激になったさ

疾風:…人間らしい冗談を言うのね

迅雷:お前も、人間らしく罵(ののし)っていたぞ

疾風:…機械なのに、そういう嗜好(しこう)があるのかしら?

迅雷:そんなものはない

ダルケス:あー、水を刺すようで申し訳ないけど……何かしらね、周りから、変な音が…って、ええっ!?

0:突如、地面から木の人形が現れた

疾風:…!?

ダルケス:な、なんなのよこれぇ~!!

迅雷:……デクノボウ!?

疾風:…ラオの影響か

ダルケス:奇想天外もいいところだわ…

迅雷:疾風(はやて)

迅雷:お前はここに残ってデクノボウと応戦してくれ

迅雷:その間に、俺がラオを倒す

迅雷:ダルケスも、任せられるか?

ダルケス:もちろん、やるしかないでしょうに

ダルケス:バレットちゃんをよろしくね。迅雷ちゃん

迅雷:…ああ

迅雷:飛行モード、起動

迅雷:電力エネルギー60%

迅雷:目標達成と合わせた帰還率……30%

迅雷:……低いが、行くしかない

ダルケス:わーお。綺麗な翼

疾風:迅雷、気を付けて

迅雷:ラオの従えているデクノボウは、ネムズの時より小型だ。だが、油断はするな

疾風:支障はないわ

迅雷:サイボーグらしい返答だ

迅雷:…行ってくる

ダルケス:いってらっしゃい

0:迅雷は飛行モードを起動し、すぐさまラオの元へ向かった

ダルケス:さて、果たしてどれだけ持つかしらねぇ

疾風:それにしては余裕ね

ダルケス:一応、ベテランですから

疾風:引退したのに?

ダルケス:昔の経験はこういう所で生きてくるのよ、疾風(はやて)ちゃん

疾風:私も、貴方に負けないくらいの戦闘データはある

疾風:除去コード10(いち ぜろ) 鎌鼬(かまいたち)!!!

迅雷:目標地点、確認

迅雷:これより降下し、ラオの討伐を開始する

迅雷:…バレット

迅雷:…間に合うか

0:

0:

ラオ:空間移動技術も上々。そして…ふむ。やはり、湖近くだと生体機能が回復するか…ほら、見てみろ姫、君に撃たれた場所も、御覧(ごらん)の通りキレイに

バレット:……

ラオ:あまり元気がないね

バレット:人さらいで喜ぶ奴がいるかよ

バレット:さらわれても殺し屋だと思ったのに、初体験があんたとはね

ラオ:それは御光栄だ、姫

バレット:…なんでこんな事するのさ?

ラオ:簡単だ

ラオ:ネムズの馬鹿どもに復讐するためさ

バレット:政府にってこと?

ラオ:そうだ。そのために、カサドラで勢力を広げ、ネムズに対して反旗(はんき)をひるがえす準備が必要だ

バレット:…あたしらの地域の殺し屋は、殆どあんたに従ってた。最初はびっくりしたさ

バレット:どんだけ欲に溺れてんだって思ったけど…ま、それがカサドラの殺し屋か

ラオ:君は違うようだね、殺し狩り

バレット:静かな日常に殺しはいらないよ

ラオ:なら、機械にしてしまえば、少しは穏やかな心も持てるというもの

ラオ:その暴れ馬な部分を抑えつけたサイボーグ改造で…

ラオ:迅雷も疾風(はやて)も、神器(じんぎ)の関係で強制的に服従する機能はつけなかったが…君は、僕の好みで、手駒(てごま)にする方が面白そうだ

バレット:気持ちわりぃんだよ、誰があんたの言う事なんか聞くか…ぺっ

0:バレットはラオに唾をかける

ラオ:…はは、そういうところだよ。改造しがいがあるのは

0:ラオはバレットの首を掴む

バレット:っ……!

ラオ:僕を邪魔してきたものは、そうやって僕の欲を盗ってきて、阻害してきた

ラオ:なら、僕自身がそれを抑えつけるしかない、相手を抑えなければ、僕のすべてが盗られる

ラオ:こうやって、ゆっくり、首を絞(し)めて……

迅雷:そこまでだ

ラオ:……いいタイミングだね

バレット:じ、迅……

迅雷:バレットを開放しろ

ラオ:言われなくても

0:ラオは蔓にまかれたバレットを突き放す

ラオ:ただ、僕に勝てればの話だけど

迅雷:…

ラオ:…この景色、君の故郷に似ているかい?

迅雷:…ラオ、俺はやはり

迅雷:「ハル」なんだな?

ラオ:その通り

ラオ:その人間の、ハルとしての記憶を消し、雷神剣に適応する特殊試験体サイボーグとして生まれ変わった…それが君だ

バレット:記憶を…消された?

ラオ:今の彼が、彼足らしめているのは、迅雷君としての人格に変わったからだ

ラオ:ただ…あの時から少しずつ記憶が戻っているようだが。人格に変わりはない

バレット:……そんなの、別の人間になったようなものじゃないか

ラオ:そうだ

ラオ:彼は、ハルでもあり、迅雷でもある

迅雷:…「ハル」は、ヒナミに守ると誓った

迅雷:…でも、それは嘘になってしまった

迅雷:…ヒナミを斬らせるように仕組んだのは、お前か?

ラオ:いや

ラオ:僕は政府に盗られただけだ

ラオ:しかし、政府はTIを自分達が扱えないものとし

ラオ:ヒナミを処分しようとした

迅雷:……!

ラオ:でも、馬鹿だよねぇ

ラオ:そう簡単に廃棄できるわけないのにさ

ラオ:暴走しちゃったわけだから

迅雷:……そのあと、俺は

ラオ:そう

ラオ:TI討伐は政府の上層部が、君に命じたことさ

迅雷:…どういうことだ?

ラオ:君とTIはセットだった

ラオ:「イレスの楽園」計画。TIと、僕が作った神器(じんぎ)の適応者。その二つで構成し、君たちの力で…世界を管理する計画だ

ラオ:集落で、ティリスト・イレスの末裔である少女と、雷神剣に適応できる君を見つけたのは幸運。僕の計画も順調に進んでいたが、最後に政府に盗られた

ラオ:結果、TIを暴走させてしまい、最終的に君に斬らせることにした。君自身が本当に守る「相手」を消すことで、計画を壊したのさ

バレット:……そんなことが

迅雷:……全て、手のひらの上か

ラオ:ただ、君の激情は止まらず、答えを求めはじめた

ラオ:自分が誰なのか

ラオ:自分の選択が、果たして最適解だったのか

ラオ:君はヒナミを斬ってから、考え始めた

迅雷:……俺は

迅雷:TIを、ヒナミを斬った瞬間、頭の中が気持ち悪かった

迅雷:最適解じゃないと、俺の頭が否定してきた

迅雷:これでよかったのか、後悔を抱いた

バレット:……迅

ラオ:実に素晴らしい……

ラオ:後悔も抱けるなんて、君は優秀だ

迅雷:……

ラオ:君は僕が造った

ラオ:しかし政府は、君にヒナミを斬らせてしまった

ラオ:政府にとって都合のいい「迅雷」に成り果ててしまった

ラオ:だから、復讐をしようじゃないか

ラオ:君は政府に利用され、僕も政府から奪われた

ラオ:互いの利害は一致している

ラオ:壊されたなら、壊し返そう

ラオ:なぁ。「ハル」

迅雷:……俺は

迅雷:迅雷だ

ラオ:何?

迅雷:確かに俺は、「ハル」だった

迅雷:お前に改造され、政府の手によって、俺はヒナミを斬った

迅雷:ニテラと、アングイス…他の同胞の仇を討った俺は、後悔を抱いた。

迅雷:俺の中の「ハル」が、壊れてしまったかのように

迅雷:だが、カサドラに来て気づいた。ダルケス、疾風(はやて)…そしてバレットも、最適な選択をしてきたわけではないことに

迅雷:その道をたどり、構成された俺自身

迅雷:それが、迅雷だ

バレット:…迅

ラオ:…君は、激情を持っているはずだ

ラオ:その道を歩みながら、なぜそのような答えを出せる!

ラオ:君は一度、政府に壊された!!

ラオ:だから、今度は君がハルとして、「迅雷」の力を使い! 政府を壊す!

ラオ:それが君の最適解のはずだ!!

迅雷:俺の最適解は

迅雷:「ハル」を超える

迅雷:そして、ラオ。お前を斬る事だ

ラオ:…ククク

ラオ:ハハハハ!ハハハハハ!

ラオ:「ハル」を超えるか……面白いね、面白いよ迅雷君

ラオ:疾風も、それくらい笑わせてくれるサイボーグなら良かったものを

ラオ:もういい

ラオ:君は廃棄(はいき)だ

ラオ:ここで壊れてくれ

迅雷:戦闘モード起動

迅雷:敵戦闘パターン分析。過去データから算出(さんしゅつ)

迅雷:魔素(まそ)転換。雷神剣への電力エネルギー供給開始

迅雷:損傷率…80%

迅雷:これより、戦闘を開始する!

0:ラオは体から木の蔓(つる)を出し、迅雷へ攻撃を仕掛ける

迅雷:蔓(つる)の強度、俊敏さは、以前のTIを超えるか…!

ラオ:どうした? この程度でくたばるように作った覚えはないぞ、迅雷君

ラオ:さぁ、これで絞(し)め上げよう…!

迅雷:除去コード888(はち はち はち)

迅雷:雷回空転斬(らいかいくうてんざん)!

ラオ:ほう…電撃を一回転させて、周りの蔓(つる)を一気に斬るか…なら

バレット:ッ! 迅! 後ろだ!!

ラオ:TIの能力だけじゃないさ。僕の空間移動技術も、このように使える!

迅雷:最適解は既にすんでいる……! 攻撃パターンは分析済みだ!

迅雷:除去コード666!(ろく・ろく・ろく)

迅雷:紫電爆雷撃(しでんばくらいげき)!

ラオ:っ! …電気を収縮させて、爆発を起こすか……ただ、少しタイミングが遅かったな…一撃、頂いたよ!

迅雷:ぐ…あ…

バレット:迅!!

ラオ:全ての蔓(つる)を密集させ、君に叩き込もう…!

ラオ:これで終わりだ! 迅雷君!

ラオ:…っ!?

迅雷:チャージスロット、リミッター解除

迅雷:除去コード……111(いち いち いち)

迅雷:雷極刃覇衝(らいごくじんはしょう)!

ラオ:これは…あの時と同じ除去コード…!

ラオ:蔓(つる)を壁にして、ガードを!

迅雷:うおおおおああああッッ!!!

ラオ:が、があああっ!!

0:ラオの体と蔓が砕け、迅雷は剣を収めた

ラオ:…はは、はは…流石だよ、迅雷君

ラオ:雷神剣……僕が造った神器(じんぎ)の中でも、その力は圧倒的だ…

ラオ:…ここまで出力を上げられたのも…君の力…ということ…改めて、実感するよ…

迅雷:…お前が改造しなければ今の俺はいない

迅雷:…ニテラや、アングイスとも、出会うことはなった

迅雷:その点は……感謝しているよ、ラオ

ラオ:…君が、僕に感謝をするなど…はは

ラオ:やはり君は、最高傑作であり…面白い…サイボーグだ…な

0:ラオの体が砂のように消え去る

0:同時に、バレットを縛っていた蔓(つる)も消えた

バレット:蔓(つる)が消えた…終わった…のか

迅雷:大丈夫か、バレット

バレット:…助けられちまったな、迅

迅雷:元々協力関係のはずだぞ

バレット:ははっ。エスコート上手で

迅雷:…

バレット:迅は…その、元は、違う人間だったのか?

迅雷:いや。それも俺だ

バレット:?

迅雷:違う人間と認識することで、きっと俺は逃げていたのかもしれない

迅雷:お前を見て、そう考えた

バレット:…あたしも、逃げたいと思ったことは何度もあるさ

バレット:振り向きたくない過去に、囚われそうなときは、たくさんあった

バレット:…口の悪いマセガキがいたのさ

迅雷:…?

バレット:でも、そいつを守ることにはならなかった

バレット:もしあたしが、殺し狩りなんてやってなかったら

バレット:きっとあいつも、あたしと出会わずに、死ぬことなんて無かったと思う

バレット:…あんたと同じさ、あたしも

迅雷:…それでもお前は銃をにぎって、殺し狩りをしている

迅雷:過去を超えることが必要だと、俺はお前から分析した

バレット:そういう所は、サイボーグなんだね、あんた

0:迅雷はふと、湖を見た

迅雷:…俺は迅雷であり

迅雷:…ハルそのものでもある

迅雷:だから、その記憶も、俺は引き継ぐ

迅雷:笑顔のヒナミを守りたい決意も

迅雷:おびえるヒナミを抱きしめる強さも

迅雷:ヒナミを殺してしまった激情も

迅雷:喜びも、悲しみも、怒りも、全て

迅雷:俺が引き継ぐ

迅雷:それが

迅雷:俺の最適解だ

ダルケス:んもぅー!どれだけ多いのよ!

疾風:1体1体は単純…だが……数が多い…

ダルケス:今頃、他の殺し屋たちはどう思ってるのかしらねぇ!

ダルケス:殺しの日常に突然、こんな奴が現れるなんて思いもしないでしょうに!

疾風:カサドラの殺し屋は、魔物のようだと例えられていたわね

ダルケス:例えよ、例え。大昔は魔物も居たって聞いたけど、そんなのおとぎ話じゃない

疾風:窮地(きゅうち)においても焦りが見えない。経験者の特徴ね

ダルケス:あら、嬉しいわ

ダルケス:…!? 疾風(はやて)ちゃん!

疾風:…デクノボウが消えていく

ダルケス:…これってもしかして!

バレット:終わったさ

ダルケス:バレットちゃん! 無事だったのねぇ!

ダルケス:もう…私心配で夜も眠れないところだったわぁ

バレット:今更何言ってんだよ

ダルケス:だってこんな化物が出るだなんて思わないでしょうに~!

バレット:それは…ものすごく同感

迅雷:ラオは倒した

疾風:お疲れ様、迅雷

迅雷:問題はないと見た

疾風:ネムズの戦闘データが功をなした。迅雷のおかげ

迅雷:いや。そのデータは俺だけでつくられたものではない

迅雷:ニテラ、アングイス…他のアンドロイドの戦闘経験があったからだ

疾風:仲間思い…人間的ね、あなた

迅雷:お前もな

ダルケス:どうだった? 空の旅は

バレット:ここまで迅に運んでもらったよ

ダルケス:お姫様だっこで?

バレット:ケツ触った殺すって言っといた

迅雷:これが殺し狩りの脅威と、即座に分析した

バレット:…後で覚えとけよ、迅

バレット:はぁ…色々頭がパンクしそうだぜ

バレット:他の殺し屋は?

ダルケス:今頃、私達と同じように疲労困憊(ひろうこんぱい)じゃないかしら? すぐには襲われないわ

ダルケス:とりあえず、疲れたら一杯ってね

迅雷:一杯?

0:カフェ「サンクス」にて

ダルケス:はい、どうぞ

疾風:これは…コーヒー?

ダルケス:よく知ってるじゃないの

ダルケス:バレットちゃんはりんごジュースねぇ

バレット:いちいち言わなくてもいいっての!

ダルケス:はいはい。…にしても、カサドラもこれからどうなることやら

バレット:ラオが持ち込んだサイボーグ技術が、広がってるのか、そうでもないのか…わからんね

迅雷:この一件で、政府も黙秘(もくひ)はしないと推測した

疾風:ラオのサイボーグ技術…政府の介入、カサドラの勢力図も変わってくると推測するわ

バレット:…どこぞの変な兄弟に出くわさないことを祈るよ

迅雷:警戒度の高い人物がいるのか?

バレット:そう。カサドラにはまだまだイカれたやつがいるってね

ダルケス:モテモテだから、彼女

バレット:違う意味でな

迅雷:治安が悪いのは知っていたが、いざこう見るとすこぶる実感する

バレット:住んでみる? 

迅雷:俺の所属は政府だ。一度カツラギに…政府に報告する必要がある。それから考える

疾風:私は…まだ、答えは出ないわ。これから先、どうするか

ダルケス:まぁまぁ、先の事はあとにして、とりあえず飲みなさいな

疾風:…初めて飲むわね

迅雷:苦いぞ

疾風:えっ?

迅雷:でも、美味い

疾風:飲んだ経験があるの?

迅雷:よく知っているアンドロイドに、飲まされたさ

疾風:そう

ダルケス:迅雷ちゃんも平気みたいねぇ、流石クールなイケメンサイボーグ

ダルケス:コーヒーとりんごジュースじゃお付き合いは難しいかしらねぇ

バレット:何の話だよ

疾風:…りんごジュースも嫌いじゃない

疾風:甘いものは、基本的に無害

バレット:それ、同情のつもり?

疾風:ラオも時折、甘い飲み物を摂取していたから

バレット:なるへそ。研究者は甘いものが好みってか

迅雷:ラオが言っていたが…政府がTI暴走を仕向けていた事が本当なら、ネムズの土台も大きく崩れることになる。自分達の行いで、ネムズにも被害が生まれたわけだからな

迅雷:疾風(はやて)は何か知らないか?

疾風:ごめんなさい。政府のことについては、情報がない

疾風:ただ、私も政府については、調査をしたいとは考えている

ダルケス:とりあえず、今は急がずに、時にはゆっくりと考える事も、大事

ダルケス:人生、最初から突っ走ってたら、どこかで病んじゃうわ

バレット:時には休めってか

ダルケス:そうそう

迅雷:…俺は、焦っていた

迅雷:自分が何者か、どうすればいいか、ひたすらそれを追い求めて、走っていた

迅雷:結局、その答えを知ったところで、過去は変わらない

迅雷:過去を知って、それから未来をどう選択するか

迅雷:それが重要だと、分析した

バレット:それが、迅の…迅雷の最適解ってやつ?

迅雷:ああ

疾風:格好つけるのは人間のすることよ

バレット:わかる。迅、そういうところあるよな

迅雷:馬鹿にされるようにバレットが仕向けたと分析した

ダルケス:ふふ、迅雷ちゃん。今の表情、まさに「人間」らしいわよ

迅雷:…そうか

0:迅雷はコーヒーを飲む

迅雷:…悪くはない、感情だ

0:

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