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早朝の歓喜とその共有

ライプツィヒで発生した白いネットのふぁさりとした揺れが大きな意味を持ったとき、時計の針は間もなく約束の時間を指そうとしていた。青い服を着た男たちは雄叫びを上げ、白と赤の市松模様は緑の地面に突っ伏し、遠く日本の地では、日も昇らぬうちから画面を見つめ続けた部屋着の者たちが、今口から出たばかりの感動詞をそのままタイプした——。

サッカーの欧州選手権がドイツで開催されている。日本時間の今朝、イタリア代表は終了間際の劇的なゴールでクロアチア代表に追いつき、決勝トーナメントへの進出を決めた。

noteのオンラインコミュニティであるHOSO F.C.には、日常的にイタリア国内のサッカーを観ている方々が多く所属しており、当然、国際試合においても同国を応援することになる。そのイタリア代表が臨む全試合において、運営者である細江克弥さんによるライブ配信の形式を持ったオンライン観戦会が実施されている。

ブーツの形をした国のプロサッカーリーグであるセリエAを日本で中継する場合においては唯一と言える現役の解説者による、戦術的、技術的な、あるいは精神面にも触れた分析や意見を聞けることは、ひとつの試合を観る上での解像度をぐんと上げてくれる。

そして何より、その苛立ちや喜び、興奮を分かち合えることが楽しい。画面の中で細江さんが見せる試合への反応は、共に観戦するぼくらを代表しているかのようだ。選手たちの選択するプレイのひとつひとつを讃え、失点を悔しがり、監督の起用を不安がり、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

YouTubeライブ上のチャットはあまり激しく動かない。時々ぽつりぽつりと試合内容に関する気づきなどが投稿される。試合が大きく動くと——あるいは動きそうになると——、チャットも活発になる。みんな心が動くそばから指先を細かく動かして文字を入力しているのだと思うと滑稽である。

「うおー!」
「やった!」
「きたー!」

ぼくも、ゴールを決めた選手の名前に感嘆符をいくつか添えてエンターキーを叩いた。このような情報量のほぼ皆無に等しいテキストの交換で、観戦体験を共有した気分になれるのだから不思議なものだ。

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