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BFH考:| 2



やあ、あまぎつねである。
皆さんお元気であろうか。
西日本ではまだ暑さが残っているようだが、マウスピースの試奏のために明日から出張する予定である。がんばる。



さて前回(BFH考:|1)の記事では主にBFHにおける設計上の希望を書いた。今回は使用用途における希望を述べたい。
これらはまさしく「希望」である。予定やら要求とは少しニュアンスが違うことを一応念強調しておこうと思う。
またもや文字ばかりの記事になるがご容赦願いたい。
思考の書き留めだ。メモのようなものである。

 


将来的にBFHが完成、実用化したとしてどのようなシチュエーションで使用されるのか。




○まずはホルンアンサンブルだろう。

トロンボーンアンサンブルやトランペットアンサンブルとホルンアンサンブルの音源を比較した事があるだろうか。
分析から入っていこう。


トロンボーンアンサンブルはホルンのそれよりも色々なスタイルがあるので一概には纏めきれないが、アルトトロンボーンやソプラノトロンボーンを使用しない限り音域は3オクターブ半ほどである。
そしてバストロンボーンはベースパートとして独立した楽譜が多いという特徴がある。和音の根音であったり、ベースパートとしての旋律をもったりすることも多く、非常に良く聴き映えする。

https://youtu.be/oDt3Wtz6RIg



またバストランペットなどの特殊管を使うトランペットアンサンブルで使われる音域は3オクターブと少し。
対してこちらはバストロンボーンのようなベースパートとはまた趣が違い、和音の根音を担当することはあってもベースパートとしての旋律を得たりすることは少ない。あまり目立たずに音楽を支えることに徹するイメージが強い。
そして実際はバストランペットを使う曲自体多いとは言えず、どちらかと言えばフュルーゲルホルン等を使うのがごく一般的である。音域が狭い分、柔らかい音色の方が旋律との差別化が上手くいくのだろう。

https://youtu.be/NtIFoKOZbJc



そして従来のホルンアンサンブルはと言うと、最大で約4オクターブを使用している。
とはいえバストロンボーンほど決定的に際立つベースパートの楽譜は多くは無い。よく見られるのは、8重奏であれば7thと8thが2本で再現し成立するような形だったりする。
バストロンボーンのような楽譜が全く無い訳では無い。ただ傾向としては比較的少ないということを言いたい。ワルツィングマチルダの様な曲は現在の段階では稀有である。
そういった意味では、トロンボーンアンサンブルとトランペットアンサンブルの中間のような性質のベースパートを担っていると言えるかもしれない。

https://youtu.be/ZO_9Sti1Ty8



また少々傾向が異なるがバリチューバアンサンブルも挙げておこう。ベース担当はコントラバスチューバ、つまり主にC basso管やB♭basso管のチューバだが、アンサンブル形式が比較的新しいためスタイルも多く一概にこれといった例を定めるのは少し難しい。ただ特異なベースパートでは無く金五や金十、その他のアンサンブル形式と大差が無いような印象は受ける。多少メロディックで、音域は低い方にまとまっているかもしれない。

https://youtu.be/f28TFN1JsHg




と、このようにそれぞれ、書かれる/求められるベースパートに違いがある。



これは何故かというところを掘り下げてみると、それぞれの楽器における低音の演奏能力の違いが根本的な点なのではと考えることが出来る。


そもそもバストランペットの開発は低音に特化する方向性のニュアンスでは無く、ワーグナー等の作曲家がより重厚な音色を欲しがったためにこの楽器になったという説が有力だ。トランペットでもトロンボーンでもない(当時では)新しい音色が求められたのである。アルトトランペットの境界が濃くないことも納得だ。
従って高い機動性や広い音域までサポートする目的はあまり意識されていないと言って良い。ロータリーモデルがあるとしても能力的にはほぼ、一般的なトランペットからの据え置きだろう。


対してバストロンボーンはチンバッソやコントラバストロンボーンとのルーツにも関わりがあり、オーケストラ内でもテナートロンボーンとは明確な差がある。楽譜でもテナーやテナーバス群とアンサンブルするだけでなく、チューバとツーマンセルを組んで低音域を演奏する場面はよく見かける(あくまで金管楽器だけに焦点を当てたお話だ)。
そして何よりバストランペットが特殊管扱いされているのとは違い、バストロンボーンはバストロンボーンとして独自の地位を確立しているということが存在の主張として大きい。

つまり独立した楽器として幅広い音色、音域、音量、トロンボーン属に準じた運動性を備えているのである。
   



また言わずもがな、チューバは低音域に特化することを目的に製作された楽器である。しかし比較的新しい楽器であることも要因となり、現代のソロ曲では細かいパッケージや高音域、特殊奏法の使用が目立つ。






分析が随分と長引いたが、改めてBFHが完成したらアンサンブルにおいて何が出来るか、求められるかを考えてみよう。



既存の4重奏以上のホルンアンサンブルのベースパートを演奏することは可能だろうか?
可能ではあるが問題がある。それは音色だ。



前回の記事で著した内容だとボアやベルが太く、一般的なダブルホルンに似てはいても違う音色になる可能性が高い。
これはテナートロンボーンとバストロンボーンの違いのようなものだ。

更にそれを問題足らしめるのは、「既存のダブルホルンを想定して書いた曲」のパートをBFHで演奏してしまう場合に当て嵌る。

逆に言えばトロンボーンアンサンブルのような楽譜、つまりベースパートを独立した楽器として書いた楽譜であればこの問題は発生しない。稀有であるが故に分かりやすいためこの曲を再び挙げるが、ワルツィングマチルダ等ではさほど違和感無くBFHでも4thを担当することが出来るだろう。


この問題の単純明快な解決策として、BFHをベースパートと設定したホルンアンサンブルの曲が書かれれば良いだけだ。
だけだ、と述べたはいいもののこれには多方面での力の働きかけが必要なのでそう簡単では無い…。
トロンボーンアンサンブルの楽譜を移調して演奏するのも1つの手かもしれない。少々苦しいが。
また既存のホルンアンサンブル曲でも8重奏の場合7thに細管タイプ、8thに太管タイプのBFHを使用するなどの工夫でバランスがとれるかもしれない。




上記の問題以外、幸いなことに他に目立った問題は今のところ見当たらない。


とりあえずメリットをみてみよう。


第一に、
使用出来る音域が半オクターブほど増え、低音域の増強が見込める。
今まで多数ホルンと1台のチューバで編成されていたような曲も、BFHの参入によりチューバ無しで成立するだろう。
音域が拡張するという事はより多くの曲をカバーでき、また表現豊かに再生できるという事だ。従来のサウンドから一変するに違いない。
考えてみて欲しい。デスカントをも使えば最大5オクターブ以上の音域を使った大規模なアンサンブルが可能だ。豪華である。



第二に、
BFHをメインにしたアンサンブルスタイルを得る事が出来る。
例としてバストロンボーン(ソロ役)とトロンボーンセクションのためのアンサンブル動画があるのだが、それを参照してもらえれば分かりやすいだろう。

https://youtu.be/TEXtt9nE1j8

これを応用してBFHにソロ役を務めさせ、他のホルンセクションに伴奏を担当させるのである。

このスタイルはBFHソロ曲でもあり、ホルンアンサンブル曲でもあるという両面を抑えたものである。
このように「特化」していることは同属楽器であっても区別化を生み、新たなスタイルを導入するに至るアドバンテージとなる。
ホルン3本とトロンボーン1本のための曲も存在しているのでそれをカバーするのも良いだろう。



と、アンサンブルにおいては大きく2つのメリットが生まれるだろうと考えられる。





一応第三に、
BFHのみでアンサンブルをするという案がある。
この場合バリチューバアンサンブルのカバーを行う。
が、あまり現実的では無いだろう。








○次に、オーケストラでの使用である。


あくまで特殊管の域を出る事は無いと予想しているが、オーケストラにおいてもある程度活躍の場があってもおかしくはない。

フレンチホルン、ヴァルドホルンという楽器は皆さんご存知のように木管楽器や弦楽器との相性は良好である。オーケストラ自体が弱奏の場面で木管群との掛け合いにBFHを使うのも新しいサウンドや世界観に繋がるかもしれない。
この事項は作曲家の意見を尊重したいので私の方からは余りにも恣意的な言及をするのは差し控えたい。

ただワーグナーチューバとはまた別の角度から、例えばコントラファゴットのような立ち位置を獲得できれば嬉しいと思う、とだけ…。


あと一応書き加えておくが吹奏楽ではまず使えないだろう。ホルンはただでさえ掻き消される。その楽器の低音域に居場所がある訳もなく。余程現代的な音楽であれば別だが、レアケース中のレアケースになることは自明の理である。期待しないでおく。



オーケストラでの使用はどうしても作曲家サイドからの要求が特に重要となってくる為、楽器特性がよく理解されてから扱われる事だろう。
採用まで長い時間が掛かることを覚悟している。

間違ってもワーグナーチューバの代用ということは起こらないと考えて良いはずである。







○最後に、ソロ曲。


最終的にオケバックのコンチェルトが作られればこの上なく嬉しいが、手始めにやるべきはチューバやバストロンボーンのソロ曲をカバーすることだ。

BFHの有用性を示す必要がある。
運動性、音色(音質)、音域、音量等において今までの楽器を超えるモノがあると、それを明らかにしなければならない。上記全てとは言わないが、オリジナリティを感じさせる特長をアピールすることが重要だ。

設計上BFHは4オクターブの演奏が可能なので、チューバやトロンボーンの曲をカバーすることに特段障害は無い。グリッサンドもホルンらしくやれば問題無いだろう。

あとはフレンチホルンのソロ曲を1オクターブ下げて演奏するのも良さそうだ。
チューバ奏者の中には、アニシモフのポエムやシューマンのアダージョとアレグロを原調から1オクターブ下げて録音している方もいる。またフランツシュトラウスのノクターンもエチュードとして利用する例がある。

少し特殊な例にはなるが、ターナーの低音ホルンのコンチェルトをそのまま原調で演奏し、従来のダブルホルンとの違いを鑑賞するのも面白いかもしれない。



といった訳で、最初のうちは曲に困ることは無い。課題はその後、BFHの為のソロ曲を作曲家様方に書いてもらえるように環境を整えていくのが重要なのである。






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ふう、長くなったがあまぎつねとして考えていることはひとまず以上だ。

私の代でどこまで出来るか分からない。
製作は出来ても普及までは辿り着けないかもしれない。
いくら優れた楽器を作れたとしても経営戦略がきちんと成されていなくては売れないのだ。広まらないのだ。その戦略には優れた奏者も必要になる。恐らく私では役不足だろう。



状況によっては第二、第三のあまぎつねに夢を託そう。








最後まで読んで下さった方へ感謝を。



それでは、また。



あまぎつねがお送り申した。









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