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【詩】『ねえ』

年の暮れも近づく朝、君の呼びかけにふるえた。
君からの電話を取るときは、いつも顔が熱くなって、寒さを忘れる。
あいさつを交わす、ぼくも君も、今更な堅苦しさに、つられて笑う。
そこから感じる君の呼吸。吸うたびに張り詰めて、吐くたびにほころんだ。
その度に一歩ずつ、君が近づいてくるのが見えた。
でも、その顔は見えない。

ねえ、ぼくの中の君。
君は今、どんな顔をしてる?
どんな表情で、ぼくを見てる?
ねえ、君の中のぼく。
ぼくは今、どんな顔をすればいい?
どんな気持ちを伝えれば、君は喜ぶのかな?
考えてるうちに、会いたい気持ちが口から出てた。

ねえ、ぼくの中の君。
今年は会える時間が少なくなって、君のことを想う時間は増えたけど、
ぼくたちは、互いを遠くに感じることが増えたのかな。
君とぼくとは違う呼吸で生きている。
その違いが嬉しくて、でも、怖い。

君と待ち合わせをした日があったよね。
喧噪の中で、息苦しさに怯えるぼくの手を引いて、君は凛々しかったり、
慌てたり、その呼吸はバラバラで。
そんな君を不思議に思いながら、
この人並みの中で見失ってしまうのが怖くて、握る手に力がこもった。
だから、この時間は少しでいいと願ったんだ。
ぼくと呼吸の違う君を、見つけられなくなりそうだから。

ねえ、ぼくの中の君。
今年は人と人との距離が開いて、少し世界が広くなったけど、ぼくたちは、互いを近くに感じることが増えたのかな。
ぼくと君とは違う呼吸で生きている。
その違いが怖くて、でも、嬉しい。

君が逢いに来てくれた日があったよね。
家でご飯を作って、一緒にテレビを見ながら他愛ないことを話して、いつも気になる呼吸の違いが、どこかおかしくて。
ぼくはその間、独りのときの息苦しさを忘れられたんだ。
ずっとこの時が続けばいいと、願ったんだ。
君が、来年も一緒がいいねって言ってくれたから。

ぼくと君とは違う呼吸で生きている。
でも時々、同じになる。

ねえ、君の中の君。
君の呼吸が伝える気持ちを、信じてみてもいいかな?
ねえ、ぼくの中のぼく。
ぼくの呼吸が堰き止めているこの気持ちを、ぶつけてもいいのかな?

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