人狼会レポート(後編)

前回の記事「人狼会レポート(前編)」の続きです。

ゲーム④

「ボディーガード」。

サバゲーマーの心をくすぐるこんな名前の役職が、「人狼」ゲームにはある。

「夜」のフェイズに、今夜どの参加者を「人狼」から守るか指名する。するとその晩「人狼」がガード対象者を食べに来ても、襲撃は成功せず、犠牲者を出さずに朝を迎えることができる。
この能力を使って「予言者」「独裁者」など有益な能力を持つ役職をガードできると「人狼」との戦いを有利に運ぶことができるという、重要なサポーターだ。
私は可愛い女子が参加してると、ゲームそっちのけで守ってしまうこともあるが。

ちなみに、「ボディーガード」は自分自身をガードすることはできない。また、「人狼」からの襲撃からは守れても、追放会議の判決からは守ることはできない。
また、「ボディーガード」は自分の推理で役職持ちと思われる参加者をガードするが、ガード対象が「人狼」だったというブラックジョークな展開もある(私も「人狼」だった時、守ってもらっていたことがあったらしい。その逆もあった)

さらに、ガード対象は自分がそもそも守られているのか、誰から守られているかゲーム中はわからない。「ボディーガード」も、ガードが成功したのかわからない場合がある。
今回はあまり活躍しなかったので詳述しないが、「妖狐」という第三勢力を混ぜる場合がある。これは「人狼」の襲撃では死なず、「昼」の追放会議か「夜」に「予言者」に占われた場合しか退治されない。
とすると、例えば「夜」のフェイズで犠牲者が出なかった場合、「ボディーガード」のガード対象を「人狼」が襲撃し、ガード成功したということか、「人狼」が襲ったのが「妖狐」だったのかははっきりしないことになる。

ややこしい。

あるゲームで「ボディーガード」になった。
残念ながら参加者は男ばかりなので、女の子をスマートにガードするみたいな洒落た真似はできない。
おいしくないな、と若干くさりながら会議に参加する。

元々知り合い同士だからということもあるが、ゲームを重ねると、会議の中での各参加者の役割分担みたいなものが固まってくる。
議論の司会進行役というか、牽引するのはH氏かS氏、もしくはM氏(GMでないとき)。I氏は要所要所で的確なコメントを入れ皆に情報共有する。初参加のT氏、K氏は様子を伺いながら、気になった点をコメントしてくれる。今思えば、経験者の方で上手く話を振るなど、参加しやすい工夫はしても良かったかもしれないが、二人とも知り合いの様子が普段と違うなど、よく観察してコメントしていたので取り越し苦労だったかもしれない。
ちなみに私は、思い付いたことを好き勝手しゃべるだけである。いい意味での「荒らし」と、誉められてるのか貶されてるのかわからない言われ方をする所以だ。

このような役割分担で話が進むので、H氏とS氏の発言数がどうしても多くなる。それはしかし、疑惑を招くきっかけも、それだけ多くなるということだ。
このゲームでのH氏は、市民側がチームとして勝利するための戦略(「ボディーガード」が「予言者」を守る間、「予言者」が「人狼」を探し、告発するetc.)についていつも以上に強調しているように思われた。
自分が「予言者」だから「ボディーガード」に守らせようとしているのか、「ボディーガード」に自分を守らせて、ガードが消えた他の参加者を食べようとしているのか。「何を」言ったかと同じくらい、「何故」言ったかを考えなくてはならない。
S氏は一見すると変わりがなかったが、何となく他の参加者の様子の変化への言及が多いようにも見えた。よくわからん。

結局皆警戒して不用意な発言をせず、多数決の票数も随分割れた。そしてS氏とH氏が生き残ったまま、「夜」のフェイズが来た。
「人狼」はまだ、生きているのだ。

さぁ、誰を守るか。
誰が「味方」で、誰が「敵」なのか。
二人の性格を考えた。あとは、完全なフィーリング。
私はこの「夜」、H氏をガードすることにした。

何となくだが、S氏は議論を右へ左へと振り動かし、乱そうとしている気がした。本当に、何となくだが。

店でよく飲むのでH氏とは顔を合わせる機会が多いが、彼は自分の主張を通したい時はあまりキョロキョロ顔を動かさない印象がある。だが会議の時の彼は参加者一人一人の顔を交互に見合せながら話していた。主張を通したいというよりは、意見を聞きたいとか同意を求めたい感じだった。
少なくとも、「人狼」であることを伏せて「市民」だと言い張る感じではなかった。
そう言えば、役職持ちだとカミングアウトしてたっけ。あれはハッタリではなく、本当だったのか。

ということで、H氏をガード対象に選び、朝が来るのを待った。
夜が明けるとGMより、昨夜の犠牲者の報告が入る。

犠牲者は、ゼロ。

今回のゲームには「妖狐」も「タフガイ」もいない。とすると考えられるケースはひとつしかない。

「人狼」がH氏を襲撃し、私のガードが成功した。つまりH氏は「人狼」ではない。

となれば「人狼」は…

この日の追放会議は満場一致でS氏を選んだ。
「人狼」は、退治された。

しかし、S氏「人狼」多いな…

ゲーム⑤

ゲームに慣れてくると、皆本当に口が固くなる。

経験則から、「人狼」を当てた「予言者」はカミングアウトして告発しても疑われ辛いだろうとは分かる。「ボディーガード」が混ざっていて、まだ生きていると確信が持てるなら、役職持ちだとほのめかすのもいいだろう。しかし情報が与えられないままゲームが進み、犠牲者が増えていくと、どの役職が生き残っているか、隣の参加者は「何」なのか、疑心暗鬼にならざるを得ない。
また、6人という小人数ではいくら上手く嘘をついてもどこかでバレるし、みんな覚えているから下手な嘘はつきづらい。

結局無駄口を叩かず、嘘もつかずが無難ではあるが、それではゲームは一向に進まない。
会議の場で誰が誰に投票したかは実は大きな手がかりだが、慣れてなかったり酒が進んできたりすると覚えるのは簡単ではない(私など全然覚えられなくて、この再現記事を書くのに随分苦労している)

あのゲームでも、議論は一向に進まなかった。

市民達は恐怖に震え、暗中模索の議論の果てに毎日一人ずつ「魔女狩り」ならぬ「人狼狩り」をする。
「予言者」は死んでしまったのか名乗りでてはくれず、誰も確信を持って投票ができないから、毎回票は割れ勝ちで、弁明も再投票も、いきおい直感的判断にならざるを得ない。
かくいう私も一度H氏と同数の票を得て、危うく「吊るされる」ところだった。(再投票でわずかにH氏の票が多く、なんとか難を逃れた)

毎晩「人狼」によって一人喰われ、毎日の不毛な「人狼狩り」で一人減っていき、三日目に生き残ったのはたった二人だった。

一人の「市民」と、一匹の「人狼」。

そして、誰もいなくなった。

かつて「村」と呼ばれた場所は朽ち果て廃墟となり、やがて砂漠に飲み込まれる。
荒野に残ったのは、夜空に浮かぶ満月に吠える、一匹の狼だった。

「人狼」は、私自身だったのだ。

ちなみにこのゲームは、「ボディーガード」だったH氏が途中まで私をガードしたり、私の正体を見破った「予言者」S氏が同じ夜に私に食べられたり、夜の闇に紛れて(何なら「人狼」自身すら知らないところで)随分と波乱万丈だったらしい。
僕らはこのゲームを遊んでいるつもりで、ゲームに「遊ばれて」いるのかもしれない。

以上、覚えている範囲で記述してみた。
いかんせんどうしても「私」目線中心になってしまって、偏りがあるというか、プレイ中の濃密で厚みのある駆け引きが薄平べったくなってしまったが、あの最中の「熱気」みたいなものが少しでも残っていれば幸いだ。

次回のゲーム大会では、「人狼」だけでなく、「DIXIT」知り合いから最近もらった「MAFIA DE CUBA」もプレイしたい。

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