Amadeus Himmelstand

mad humanist, Philo-philosoph, 出不精でデブ性, 神…

Amadeus Himmelstand

mad humanist, Philo-philosoph, 出不精でデブ性, 神出鬼没の給料ドロボウ, 没落士族の皮を被った学者くずれ, 薩摩隼人のクォーター, 多摩川辺境伯, おっぱい聖人

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罪も愛も顧みず春は逝く~「許さない」という愛~(『Fate FH』主題歌より)

8月15日、劇場版『Fate/stay night Heaven’s Feel(以下 HF)』の最終章が、ようやく公開された。 ようやく、である。 もともと春に公開予定だったところが、コロナ騒動で延期になり、桜もとうに散った真夏の炎天下、ようやくの上映だ。 しかし待った甲斐のある、凄まじい映画だった。 そして、主人公達みんなが「幸せ」になれる、いいストーリーだった。 もちろん、桜も含めて。 映画自体については、僕自身まだ消化しきれていないところがあって、また「ネタバ

    • Round Midnight~もし僕らのことばがウィスキーであったなら~

      「アイラウィスキーが飲みたい」 質の悪い夏風邪で寝込んでいる間、僕はずっと考えていた。 忙しいけれど変わり映えのしないルーティンワークの日々から離れてベッドに縛りつけられていると、いろいろと考え込んでしまう。ジャズの名盤を聞きながら、うまいウィスキーをくゆらせて思索に耽りたかった。 そういうわけで、「詩的で寡黙な気分」で酔いたくなった。 具合がいい時には本を読んだり音楽を聴いたりしていたので、思索的な気分が強まっていたのもある。昔買って読めなかった『万延元年のフットボー

      • 「キスがどれも終わることがなければいいのに」“I wish that every kiss was never ending...”(“Wouldn't it be nice?”)

        フジーリの絶賛するように、「素敵じゃないか(Wouldn't It Be Nice)」はまさに名曲中の名曲だ。 いわゆる「ビーチ・ボーイズ」っぽいスーパー・イノセントで若々しいイカしたナンバーであり、全体的にすごく清々しい。アレンジも素晴らしく、完成度の高い作品だ。 そして何より、『ペット・サウンズ』というアルバムの「序曲」として、これ以上ふさわしい曲は他にないと思う(「キャロライン・ノー」から記事を書いてしまった手前、こんなことは言いにくいけれど…) オペラの序曲がオペラ

        • 「美しいものが死んでいくのを見るのはとてもつらい」“It's so sad to watch a sweet thing die...”(“Caroline, No”)

          いろいろなところで言われるように、『ペット・サウンズ』はトータル・アルバムだ。収録曲を個別にピックアップしてももちろん名曲揃いだけれど、アルバム全体として、通して聴いた時にその真価を体感できるよう構成された名盤だ。 曲の順番も、オリジナル通りでなければならない。 ガールフレンドとの明るい将来を夢想する『素敵じゃないか(Wouldn't it be nice?)』から始まって、懺悔と贖罪(『僕を信じて(You still believe in me)』)、夜明けへの不安(『し

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        罪も愛も顧みず春は逝く~「許さない」という愛~(『Fate FH』主題歌より)

          The Nearest Faraway Place~僕の『ペット・サウンズ』と、僕の青春~

          ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ(1966)』を僕が初めて聞いたのは、大学院を去って会社員になった頃だから、もう「いい大人」になっていたはずだ。(今だって「いい大人」をやれているか自信はないけれど…) それでもこのアルバムを聞く度に思い出すのはその頃ではなくて大学時代のことだ。それも特に、ドイツから帰ってきた直後の修士二年の頃、論文を書き上げるなり、就職か博士への進学か決断するなりして「大人」にならなければならない時期、いわば「青春」の終わり際のことだ。 思い浮かぶのは

          The Nearest Faraway Place~僕の『ペット・サウンズ』と、僕の青春~

          i suppose it's a bit too early for a gimlet

          今の会社に募集した時の履歴書に、「趣味 バー巡り」と書いたらしくて、10年近く前のことなのにいまだにイジられている。 大学の研究職を辞めたばかりで少々自暴自棄だったから、ちょっと印象に残るようなことをと思って書いたらしいのだけれど、昔過ぎて正直記憶が曖昧だ。 実際問題いまでも「ちゃんとした」社会人がやれている自覚はまったくなくて、一番飲み歩いていた頃は会社にいる時間より酒場にいる時間が長いような1日を過ごしたこともあったのだから、まぁそういう性なのかもしれない。 とはいえ普

          i suppose it's a bit too early for a gimlet

          猫には9つの命がある

          家飲みはあまりしない主義だけれど、どうしても飲まなくてはならない夜もある。 隠してあったボウモアをグラスに注ぎ、コーヒーの用意をする。本当はビル・エヴァンスの『ポートレイト・イン・ジャズ』が聞きたかったけれど、CDがどうしても見つからない。お湯が沸く前にと急ぎ、とりあえずインターネットで探して流すことにする。 すべての準備が調ったらベッドに座り、照明を暗くする。ウイスキーを口に含んで眼をつむり、「枯葉」というよりはクリスタルの破片により近しく思えるほど鋭く硬質なピアノリフが僕

          猫には9つの命がある

          春の夢

          今年の3月は、なんとも難しい気候だった。 春の長雨で寒い日が続くと思ったら暑い日が来て、また雨続きになって冬のコートを着込み始めたらまた夏日になり、そして雨と風の強い日になる。 桜の開花も、暖冬で早まるかと思えば長雨のせいで寒くなって遅れ、おかげで家庭菜園のジャガイモを植えるタイミングが迷走している… (植え付けの時期の目安で、よく桜の開花と言われるのを忠実に守っているのだ。もうひとつの目安の菜の花はもう咲き始めているけれど…) こういう気候だからか、シューベルトの『冬の旅

          「コジ・ファン・トゥッテ」

          「Così fan tutte! (女はみんなこうするもんさ)」 有楽町のガード下のドイツ料理屋でビールを煽りながら、僕は苛立って呟いた。 久しぶりのヴァイツェンの甘ったるい香りが、渇ききった口腔にまとわりつき、息が詰まる心地がした。 立て続けに、それも別の相手からすっぽかされるのはあまり気持ちのいい話ではない。 まして直前まで乗り気な素振りを見せていたのだからなおさらだ。 もっとも平気な顔で別々の女性に声をかけていた僕自身もとんだドン・ファン(=「ドン・ジョバンニ」)で、

          「コジ・ファン・トゥッテ」

          Relaxin'

          「マイルスが聴きたい。」 バーでこういうリクエストをしたのは、随分久しぶりだった。 古い洋楽をレコードでかけているシガーバーで、酒と葉巻をくゆらすうちにそんな気分になった。来たのはまだ二回目だったけれど、なんとなく、こういうリクエストを受けてくれそうな気がした。 『リラクシン(Relaxin')』。 奇しくも、学生の頃初めて行ったジャズバーでかけてもらった名盤。 学校のチャイムのメロディーで始まる一曲目(『if I Were A Bell』)が、デートの下見で背伸びしてい

          Her voice is full of....

          別れのハグを拒まれた時、フィリップ・マーロウの台詞が頭をよぎった。彼女を残して駅に降りる。振り返って見た電車の中の彼女は、下を向いていた。 8ヶ月。 彼女が僕の街を離れてから過ぎた時間。 それは短いようで長く、僕ら二人をひどくよそよそしい場所に連れてきてしまったのだな。 越えて来たばかりの多摩川、夜闇のせいで暗く淀んで見える懐かしい川を眺める駅のホームに、吹きつける冷たい風。 彦星と織姫は、天の川に阻まれたとしても、年に一度の機会を逃さず、愛を育むことができた。 しかし僕

          Her voice is full of....

          神君「白兎」の行く年

          いつの間にか、2023年が終わっていた。 季節外れの「小春日和」と冬本番の寒空が交互に来るせいか今一つけじめがつかないまま、正月休みすら終わろうとしている。 そういえば、去年は年男だった。 前回がちょうどドイツにいた頃で、日本で卯年を丸々過ごすのが24年振りだったのだけれど、意識していたのは1月の前半までで、それからは日々の忙しさに駆り立てられ、気が付いたら年の瀬まで追いやられていた。 大河ドラマがなかったら、卯年であることすら忘れていたかもしれない。 去年(2023年)

          神君「白兎」の行く年

          「神は死んだ」後の『キングダム・オブ・ヘブン』

          19世紀の歴史家ブルックハルトに「玉座に位した最初の近代的人間」と称された神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世率いる第6次十字軍はかくして、大きな戦闘もなしに、外交交渉のみで聖都エルサレムのキリスト教徒側への奪還に成功する。 1229年2月11日。現代より約800年前、「暗黒の中世」と言われる時代の話だ。 2023年12月現在、未だに戦禍の絶えないパレスチナの現状を思うと、まさに「世界の脅威(stupor mundi)」と言わざるを得ない。 キリスト教、イスラエル教それぞれの俗

          「神は死んだ」後の『キングダム・オブ・ヘブン』

          魅惑の女神

          上野で飲み歩いたのは、初めてだったかもしれない。 美術館閉館直後はまだ開いている店が少なくて、駅前のバルで休憩がてらカヴァ(スペインのスパークリングワイン)を引っ掛けてから飲み屋街に移動し、ラム肉を食べさせるスペインバルで赤ワインのカラフェをひとつ空けた。 腹が満ちたところでバーに移り、食後酒と葉巻をくゆらせる。ローズマリーオレンジギムレットが羊の脂の香りを和らげ、コーヒーの香るカクテル「エル・ラギート」とアイラウイスキーがキューバ葉巻のアーシーな煙と絡み合う。口の中に広がる

          Alcohol is like love. The first kiss is magic, the second is intimate, the third is routine. After that…

          新橋で飲んでいたのに、気が付いたら宇都宮の駅にいた。 23時43分。35歳最後の夜が終わろうとしていた。 慌ててタクシーに飛び乗った36歳の僕は、財布に残った領収書、35歳最後の夜遊びのツケを見て絶句する。 2軒目の途中までは覚えているが、3軒目のシガーバーはどうにも記憶にない。領収書の金額と時間からすると、よく頼むギムレットかドライマティーニを一杯と葉巻を一本注文して、一時間もしないで店を出たようだ。21時38分のことだ。その後間違った電車に飛び乗った上寝過ごして、終着駅ま

          Alcohol is like love. The first kiss is magic, the second is intimate, the third is routine. After that…

          ポートレイト・イン・ジャズ(マイルス・デイヴィスと村上春樹)

          マイルス・デイヴィスの音楽について(「長年にわたってそのまわりに付着してしまっている」、「様々な記憶」(前掲書p7)も含め)書かれた最も素晴らしい文章のひとつは、このように始まる。 流石の村上春樹、イラストレイターの和田の言葉を借りれば、「楽曲解説ではなく、ジャズを聴く気分やジャズが持っている力をこんなに適格に文章にできる人を、ほかに知らない(前掲書p346)」 語り手の青年(村上自身の「ずいぶん昔の話(前掲書p107)」)は、道に迷っている。進むべき道を求めて街をさまよう

          ポートレイト・イン・ジャズ(マイルス・デイヴィスと村上春樹)