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島の新しい事業を島民のみなさんに知ってもらい 応援に繋げるために

AMAホールディングス株式会社の田中早由里です。
海士町未来共創基金」「わがとこバスツアー」2つの事業に携わっています。

AMAホールディングス株式会社(以下、AMAホールディングス)のある島根県隠岐郡海士町(あまちょう)は、本土から北に60km離れた人口2,300人の小さな島です。
少子高齢化、産業の衰退など、課題先進国と言われているこの島ですが、行政や島内外の方々の努力もあり、新しい取り組みがどんどん増えています。

新しい取り組みが増えるにつれ、町は急激に変化しています。

しかし、島民には「今」海士町で何が起こっているのか、知る機会がなかなかありません。
都会にいる息子に「海士町、テレビに出てたね〜。あれって何?」と聞かれても答えられない。
自分が住んでいる島なのに、知らない事が増えていくのです。

海士町の目指す「みんなでしゃばる」まちづくり(しゃばる:方言で「強く引っ張る」という意味)を実現するためには、新しい取り組みを行う側・周りで受け入れる側が、お互いを知る必要があります。
知ることが「応援」につながる。

今回は、そんな「応援」を創るために生まれた企画、「わがとこバスツアー」を紹介したいと思います。

わがとこバスツアーとは
バスで移動しながら、新しい取り組みをしている場所や事業所を半日ほどで3・4か所巡る。遠足のようなツアー。
「わがとこ」とは、我らの町という意味

創りたいのは「応援ループ」

私は、新しい事業を生み出すしくみ「海士町未来共創基金」の事務局の担当もしています。島の産業と雇用を生み出すための新事業に投資をして、新事業の立ち上げを支援するというプロジェクトです。

新しい事業を生み出すだけではなく、生み出した後も責任を持ちたい。
起業家は人生をかけて海士町のために立ち上がっている。その方たちの応援をしたいと常々思っています。

ビジネスを続けていくためには、「理解」と「応援」が必要です。
特に「応援」は起業家にとって大きなモチベーションになり、しいては持続可能なビジネスにもつながります。実際に手足を動かさなくても「応援」は機動力になります。
また、事業立ち上げ後、島の人の「理解」なくては成り立ちません。

島民から応援されることで、新しい取り組みや事業は発展し、さらに島が良くなっていく。そして島から、さらに新しいエネルギーが生まれてくる。

それが「応援ループ」です。

もともと、海士町には「おすそ分け文化」というものがあります。野菜をあげたり、お手伝いをしたり。助け合ったり。
「応援」という「おすそ分け」をすることで、エネルギーが生まれ、共創しながら仲間と共に生きていく。そんな島を目指したいのです。

みんなで創るからこそ「面白い」そう思ってもらいたい。

バスツアーで出会えるあたたかい光景

バスツアーを運営していると、あたたかい光景に出会うことがあります。

海士町のグランピング事業を訪問したとき、立ちあげから関わっていた事業所のメンバーがこんなことを語り出しました。

「私は海士町が大好きだから、海士町でこのグランピングの仕事をしたいと上司に泣きながら訴えました。
そのくらいこの仕事に熱量をもっています。
海士町のよさをもっともっと島外の人にも知ってもらいたい。だから全力でお客様へのおもてなしをしています。
海士町をもっともっといい町にしたいだけなんです。」

その瞬間、参加者の方が優しい目になりました。
頑張っている人の顔を見て話を聞き、見学者から応援者に変わった瞬間でした。

「海士町のために、こんなに頑張ってくれている人がいるなんて。。おれらもまだまだ頑張らないかん。」
そう発言したのは、80歳を超えた参加者の方でした。

受け入れる事業所側も、参加者も互いに影響され、感化されるのがこのバスツアーです。
そしてこのやりとりは、応援ループが回り始める瞬間でもあります。

「想いを伝えやすい」「想いを受け入れやすい」雰囲気をつくるために

わがとこバスツアーでは、「想い」を伝えあうことを大切にしています。
事業者は想いを発し、参加者は思いを受け止める。

双方のいい状態があってこそ「応援」につながります。

そのため、バスツアーの前には、事業所を訪問し、事業所の方の想いを聞くことから始めます。仕事への想い、気付いていなかった気持ちなどを聞き、引き出すのです。
その想いは、ツアーの当日には、心から出る言葉として語られます。

そして参加者へのフォローも必要です。聞きやすい・質問しやすい雰囲気づくりを心掛けています。
難しい言葉は使わない、参加者によって話すスピードを変える、自分から話かけるなど。

まずは、スタッフ側が参加者へ心を開くこと。それが大事だと私は感じています。

無関心が関心に変わる、画期的な仕組み

このバスツアーは、地方創生で有名な徳島県の神山町でも実施されている企画です。

住民の方にとっては、新しい事業所を訪れるきっかけがない。
事業を立ち上げた方にとっても、住民の方との接点の持ち方が分からない。

新しい取り組みを住民にどのようにして届けるとよいのかを研究した結果、みんなでバスに乗って事業所を訪問するこの企画がベストだと分かったのです。

このツアーは、複数人・集団でのお申込みを基本的なルールとしています。
新しい事業や取り組みへの関心の高い方が、「このツアー面白そう!」といって集団に声をかけます。それを発端に、関心の薄かった方・知らなかった方にもツアーに参加していただける。
そうすることで、町全体に関心の輪が広がっていきます。

「海沿いに新しい施設ができたらしい。一緒に見に行こう!」
一人が誘うことで、ツアーの企画がまとまり、他の方も巻き込まれる形でツアーに参加することになります。

最初は「ただバスに乗って海士町を巡ると聞いたので、来ただけです。」といった声もお聞きします。
が、いざツアーが終わると「来てよかった!新しい建物が出来たのは知っていたけど、今回のツアーでどんな事業なのか分かった。自分一人では来れないから来てよかった。」という声に変わるのです。

バスという小さな箱と、島民と一体となる時間

バスツアーが終わりに近づくと、私は、運営スタッフと参加者がずっと友達だったような感覚になります。

バスの中は、島民と運営スタッフだけ。バスが停まらない限り、バスという箱の中で同じ時間を過ごすことになります。
「今、この空間の中にいる方たちと正面向かって繋がることを大切にしよう。」
そう思う環境でもあるのです。
その思いからか、最初は緊張感のあったバス社内はだんだんと和やかになり、だんたんと会話が弾んできます。

そして、最後には「おわりの会」を実施しています。今日感じたことをお互いに語る時間です。

「知らない事ばかりで勉強になった」
「応援したいと思った」
「今度からひとりで訪ねることできそう」
「ぜひ頑張って欲しい」
「みんな頑張ってる。私も頑張らなきゃ」

普段は出てこない島民の方の心の声・考え・想いが溢れ出るのがこのバスツアーの魅力です。

わがとこバスツアーを通して、私自身、島民の方と仲良くなりました。
参加者、事業者、主催者、どの立場であっても、次に町で会ったときに声をかけ合うような関係性が広がっています。

たかがバスツアー。されどバスツアー。やっぱりバスツアー。

バスツアーっていつの時代からあるんでしょうか。

テクノロジーが発展し、情報の伝達手法も増えた時代ですが、バスツアーはなくならない。
そこには人が集団で楽しみたい、誰かと一緒にいたいという欲求があるからではないでしょうか。

やはり最後に戻ってくるのは、人と人との関係性だと思っています。
この関係性がいい距離感で存在するのが「わがとこバスツアー」なのです。

ただバスにみんなで乗る。そして話す。そして聞く。
やっていることはすごくシンプルです。

ですが、このようなアナログな手法が地域を変える一助となっていることを考えると「たかがバスツアー」ではなく、「やっぱりバスツアー」だと思うのです。

「人と人をつなぐ」事は難しくもありますが、それができた瞬間、幸せな気持ちになります。
都会では遠くなりがちな人と人との距離感をこの仕事では近くに感じることができます。

誰かを思い、思いやり合うことは、人生を豊かにしてくれる。
そんな瞬間に多く出会えるのがこの仕事の魅力でもありやりがいでもあります。

今後はこの応援ループを見える化し、強化できるような仕組みをつくっていく予定です。


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