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人は、何歳からでも輝ける~フランス最高の王妃アンヌ(前編)~  京大歴女のまったり歴史講座③

フランスの王妃さまと聞いて、みなさんがまっさきに思い浮かべるのはマリー=アントワネットでしょうか。

フランス革命でギロチンに送られたアントワネットの波乱の人生は、たくさんの物語の題材となり、今もなお多くの人を惹きつけます。

しかし、本日ご紹介するのは、かの有名なマリー=アントワネットではありません。

マリー=アントワネットより3代前の王妃さま・アンヌ=ドートリッシュです。

彼女はルイ13世の王妃であり、ヴェルサイユ宮殿を造営したルイ14世のお母さんに当たります。

「三銃士」のストーリーをご存知ですか?

奪われた王妃の首飾りを取り返すため、主人公ダルタニアンと三銃士が奮闘する物語。

あの時登場する美しい王妃こそが、今日の主人公アンヌ=ドートリッシュです。

こうしたエピソードにも関わらず、アンヌ=ドートリッシュ(以下アンヌ)の存在は、歴史の中で忘れ去られてしまいがちです。

そんな王妃・アンヌのことを、みなさんにもっと知って欲しいのは

「人は何歳になってからも輝ける」

彼女の人生そのものが、そんなメッセージを示しているように感じられるからです。

夫に苛められ、実家と嫁ぎ先が戦争をはじめ、ずっとつらい人生を送ってきたアンヌ。人知れず涙を流した経験も、一度や二度ではなかったでしょう。

しかし、37歳ではじめて息子を授かってから、彼女の人生は大きく変わります。

不幸せを嘆いていた、か弱い王妃から、毅然とした母親・統治者へ。

驚くほどの成長を遂げた彼女の生きざまは、きっと多くの人の心に響くものがあるはずです。

それではゆっくりと、彼女の人生を辿っていきましょう。

○不幸せな王妃さま

アンヌのふるさとはスペイン。

スペイン=ハプスブルク家の王女として生まれた彼女は、つややかな肌と青い目を持つ絶世にの美女でした。

現代のSNSでは、写真に加工を加えて「盛る」のが日常的ですよね?

当時、王族の肖像画は、実際より美しく「盛って」描くのが当たり前でしたが、アンヌの場合は「修正」がいっさい必要なかったとか。

「17世紀で最も美しい王妃」という褒め言葉が残っています。

そんなアンヌは、14歳でお隣フランスの国王・ルイ13世に嫁ぎます。
(ルイ13世は、父親を暗殺で失い、8歳から既に国王の座にありました。)

しかし、同い年の夫・ルイ13世は、アンヌをやさしくいたわってくれる夫ではありませんでした。

気難しい性格で、おまけに女嫌いだったのです。

高圧的な母・マリーに育てられたルイは、女性に嫌悪感を持っており、やがて男の愛人をつくり、彼のもとに入りびたりに。

一方で、スペイン人嫌いのルイは、実家からついてきたアンヌのお付きをほとんど帰国させてしまいます。

フランス語がまだうまく話せなかったアンヌは、慣れない宮廷でさぞ寂しい思いをしたことでしょう。

実家・スペインに送る手紙に、彼女はこう綴ります。

「私は世界じゅうで、最も不幸せな女になってしまいました」と。

それでもルイ13世は、跡継ぎを作るため時折寝室に来てくれましたが、アンヌが二度流産をすると、大激怒。

宮廷行事への出席禁止など、公然とアンヌを無視するようになります。

父親が危篤になった時、スペインの実家に帰りたいと言ったアンヌを、ルイ13世は許しませんでした。

幼い頃自分をかわいがってくれた父の葬儀にも立ち会えず、悲しむ王妃。

「仮面夫婦」となった二人の溝は、ますます深まっていきます。

そんなときに起きたのが、戦争。

既にヨーロッパ各国を巻き込んでいた三十年戦争にフランスが参戦。アンヌの実家・スペインと敵味方となりました(三十年戦争の詳細は、本記事では割愛します)。

夫に無視され、夫の愛人に我が物顔をされ、ずっとつらい日々を送って来た彼女が、実家の勝利を願ったのは無理もないことでしょう。

結婚以来、アンヌは実家のスペイン王室とずっと手紙のやりとりをしていましたが、その手紙の中に、フランス軍の機密情報を忍ばせてしまったのです。

この手紙は押収され、アンヌはスパイ容疑で尋問にかけられることになりました。

この時王妃の手紙を押収し、取り調べをしたのが時の宰相・リシュリュー。

そもそも、この戦争への参入は、リシュリューが、アンヌの実家・ハプスブルク家の力を削ぐために目論んだものでした。

そんなリシュリューはかねてよりスペイン出身の王妃に疑いの目を向け、身辺を監視し、調べさせていたのです。

取り調べを受けたアンヌは、涙ながらに、夫・ルイ13世と、宰相リシュリューの前で許しを乞わせられます。

夫・ルイのアンヌへの嫌がらせはエスカレートし、アンヌの実家・スペインが敗れた知らせをわざわざ嬉しそうに伝えに来たり、眼の前で愛人と戯れて見せたこともあったとか。

信じがたい屈辱、針のむしろのような宮廷…。

この時のアンヌは、まさに人生のどん底にいました。

では彼女は、いかにして運命を好転させ、後半生の幸せを掴んだのか?

続きは明日の記事でお会いしましょう。


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