LeSS版スクラムガイドを読んだ感想や論点など

こんにちは。天野です。

1週間ほど前にLeSS版スクラムガイドである Scrum Guide (LeSS version) がリリースされました。LeSSの考案者である Bas Vodde さんがLinkedInで公開しました。

公開後は色々な議論も起きているようですが、変更点のまとめ・読んでみた感想・現在の論点などを整理します。


変更点のまとめ

ガイドの最後に変更点のまとめの記載があります。

This update to the Scrum Guide has the Scrum Guide 2020 as a basis, yet some parts have been taken from the Scrum Guide 2017 instead. The larger changes are:

* Re-introduced product instead of “work for complex problem.”
* Removed the Scrum Team concept.
* Renamed Developers to Team.
* Removed Sprint out of Events and made it a separate thing.
* Renamed Product Goal to Product Vision.
* Removed “creating and communicating Product Backlog Items” from Backlog Management in the Product Owner section.
* Removed Topic 1/2/3 terminology and just called it why/what/how.
* Added Product Backlog Refinement to the Scrum Events, yet mentioned that it can be done as an activity rather than an event.
* Removed the language of commitment to artifacts.
* Moved Sprint Goal in one place, inside Sprint Planning.
* Introduced Definition of Done, not as commitment but as an agreement.

https://less.works/less/scrum-guide#summary-of-updates-in-less-version

2020年版をベースにして、いくつかのパートは2017年版を使っているそうです。変更点の箇条書きをざっと日本語にしておきます。

1. "複雑な問題に対する仕事"ではなく、プロダクトを再導入した。
2. スクラムチームの概念を削除。
3. DevelopersをTeamに改名。
4. イベントからスプリントを削除し、別のものにした。
5. プロダクトゴールをプロダクトビジョンに改名。
6. Product OwnerセクションのBacklog Managementから "プロダクトバックログアイテムの作成と伝達 "を削除。
7. トピック1/2/3の用語を削除し、単にwhy/what/howとした。
8. スクラムイベントにプロダクトバックログリファインメントを追加したが、イベントではなくアクティビティとして行うこともできると言及。
9. 作成物へのコミットメントという言葉を削除。
10. スプリントゴールをスプリントプランニング内の1つの場所に移動。
11. コミットメントではなく、合意としてのDoneの定義を導入。

変更点の詳細や気づいこと

ガイド内の文章の差分を気づいた範囲でまとめます。

"複雑な問題に対する仕事"ではなく、プロダクトを再導入した

Scrum Definitionの記載が変わっています。差分を強調するため太字にしています。

Scrum is a lightweight framework that helps people, teams and organizations generate value through adaptive solutions for complex problems.
(中略)
1. A Product Owner orders the work for a complex problem into a Product Backlog.

https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-US.pdf

Scrum is a lightweight framework that helps organizations to productively and creatively deliver a product of the highest possible value that addresses complex adaptive problems.
(中略)
1. A Product Owner orders the ideas for incrementally creating a product.

https://less.works/less/scrum-guide#summary-of-updates-in-less-version

イベントからスプリントを削除し、別のものにした

スクラムイベントからスプリントが削除され、ガイド上ではScrum Eventsの中の "The Sprint"の項目がなくなっています。

プロダクトゴールをプロダクトビジョンに改名

全体的に「プロダクトゴール」の代わりに「プロダクトビジョン」の言葉が使われています。初期のスクラムにはプロダクトバックログの元にビジョンがあるので、これを想定していそうに思いました。

https://guntherverheyen.com/wp-content/uploads/2023/10/Scrum-A-Brief-History-of-a-Long-Lived-Hype-v1.4-Sep-2023-Paper.pdf

自分の感覚ではプロダクトゴールは1-3ヶ月程度の目標と認識しており、プロダクトビジョンはプロダクトゴールよりも大きく抽象度の高い概念に感じます。

詳細な順に、スプリントゴール→プロダクトゴール→プロダクトビジョン、というイメージです。

Product OwnerセクションのBacklog Managementから "プロダクトバックログアイテムの作成と伝達 "を削除

ここはよく分からなかったのでガイドを読んでみました。Product Ownerの記述の太字部分が変わっています。

The Product Owner is also accountable for effective Product Backlog management, which includes:
* Developing and explicitly communicating the Product Goal;
* Creating and clearly communicating Product Backlog items;
* Ordering Product Backlog items; and,
* Ensuring that the Product Backlog is transparent, visible and understood.

https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-US.pdf

The Product Owner is also accountable for effective Product Backlog management, which includes:
* Developing and explicitly communicating the Product Vision;
* Adding Product Backlog items and clearly communicating how they achieve the Product Vision;
* Ordering Product Backlog items; and,
* Ensuring that the Product Backlog is transparent, and understood.

https://less.works/less/scrum-guide#summary-of-updates-in-less-version

理解に自信がないのですが、PBIの詳細を話すのではなく、PBIがどのようにプロダクトビジョンの達成に貢献するのか話せと強調したかったのでしょうか?

トピック1/2/3の用語を削除し、単にwhy/what/howとした

これはスプリントプランニングの話ですね。オリジナルのスクラムガイドから下記の "Topic One/Two/Three:" が削除されています。

Topic One: Why is this Sprint valuable?
Topic Two: What can be Done this Sprint?
Topic Three: How will the chosen work get done?

スクラムイベントにプロダクトバックログリファインメントを追加したが、イベントではなくアクティビティとして行うこともできると言及

Scrum Events の中に Product Backlog Refinement という項目が追加されています。

追加された項目のDeepL翻訳したものを添付しておきます。

プロダクトバックログリファインメント

プロダクトバックログのリファインメントの目的は、プロダクトバックログを適切に維持し、スプリントプランニングに備え、プロダクトビジョンと整合させることです。プロダクトバックログのリファインは、継続的な活動として、スプリントプランニングの一部として、またはスプリント中の別のイベントとして行われます。

プロダクトバックログのリファインメントでは、プロダクトオーナーがプロダクトビジョンを強化します。チームとプロダクトオーナーは、必要に応じて主要な利害関係者とともに、(1)次のスプリントで選択される可能性が高いプロダクトバックログ項目を明確にし、(2)大きすぎて比較的すぐに検討されるプロダクトバックログ項目を分割し、(3)必要に応じて新しいプロダクトバックログ項目のサイズを見積もり、または既存のものを再見積もりします。

プロダクトバックログのリファインは通常、スプリントの最大10%で行われる。

https://less.works/less/scrum-guide#product-backlog-refinement

スクラムイベントからスプリントが削除されてリファインメントが追加されたので、イベント数は5個のままですが、Inspection(検査)の項目で元はfive eventsと言及されていたものがfour eventsに変わっていることに気づきました。

Inspection

The progress and process must be inspected frequently and diligently to discover potential improvements and new opportunities to increase value delivery, adaptiveness, effectiveness, and work satisfaction. To help with inspection, Scrum provides cadence in the form of its four events.

https://less.works/less/scrum-guide#inspection

ケイデンスを提供するイベントはリファインメント以外の4つということのようです。

作成物へのコミットメントという言葉を削除

2020年版の大きい変更点といえばこれだと思いますが、作成物への3つのコミットメント(プロダクトゴール→プロダクトバックログ、スプリントゴール→スプリントバックログ、完成の定義→インクリメント)が削除されました。

スプリントゴールや完成の定義のような概念そのものが削除されたわけではなく、「作成物に対するコミットメント」という表現をやめたようです。

完成の定義は「プロダクトオーナーとチーム間の合意」と説明されています。

その他の細かい気づき

その他ガイドを読んでの細かい気づきです。

  • "Scrum is founded on empiricism and lean thinking." からlean thinking(リーン思考)がなくなっている

    • ガイド内に「リーン思考」に関する記述がないと思ってたので違和感ない

    • 改めて考えてみたらリーン思考って何だろう。フロー重視の考え方だよ、くらいに捉えていた

  • roleが復活した

    • 2020年版ではroleの代わりにaccountability(責任)を使うようになったが、roleという言葉が復活している

    • 個人的にはrole(役割)と言えた方が便利な時もあるのでガイド内でroleと言ってもらった方がありがたい

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ありがとうございます。書籍代に使ったり、僕の周りの人が少し幸せになる使い道を考えたいと思います。