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なぜスクラムマスターを採用するのは難しいのか

こんにちは、天野 @ama_ch です。シニアスクラムマスターやスクラムマスター職能のマネージャーをしています。

この記事は、CYBOZU SUMMER BLOG FES '24 (Agile/Scrum Stage) DAY 3の記事です。

スクラムマスターの採用に苦心している組織は少なくありません。私自身、過去にスクラムマスターの採用活動を行いましたが、短期間で募集要項を取り下げた経験があります。そして最近、ようやくシニアスクラムマスターの募集を再開しました。

今回は、なぜスクラムマスターの採用が難しいのか、そしてどのようにこの課題に取り組むべきかについて考えてみたいと思います。

需要と供給のミスマッチ

Scrum Allianceの調査によると、スクラムマスターの採用市場では興味深い現象が起きています。多くの応募者がいるにもかかわらず、適切な候補者を見つけるのが困難なのです。この調査はグローバルなものですが、日本国内の状況もさほど変わらないように感じます。

このミスマッチの主な原因は、組織ごとに求められるスキルの組み合わせが異なることです。ある組織ではテクニカルスキルが重視される一方で、別の組織ではコーチングスキルが求められるかもしれません。そのため、一見多くの応募者がいても、特定の組織のニーズにぴったり合う候補者を見つけるのは容易ではありません。

また、スクラムマスターの役割が近年大きく変化していることも見逃せません。かつてはスクラムの実践やチームのファシリテーションが主な仕事でしたが、現在では組織全体のアジャイル変革を推進する戦略的な役割を担うことも増えています。この役割の進化と多様性も、適任者を見つけることを難しくしている要因の一つです。

経験豊富なスクラムマスターの希少性

スクラムマスターの認定資格を持つ人は多くいます。しかし、実践経験が豊富で、本当に効果的に振る舞えるスクラムマスターはごくわずかです。

前述の調査レポートの最後には、次のような重要な指摘がありました:

"So many people have Scrum Master certifications but have never leveled up their skills. I want you to understand what you’re doing and why. I want you to understand how to grow a team."
「多くの人がスクラムマスターの資格を持っていますが、自分のスキルを向上させたことがありません。あなたが何をしているのか、そしてなぜそれをしているのかを理解していることが大切です。チームをどのように成長させるかを理解していることが求められます。」

スクラムマスターとして成長するためには、まず現在の環境でしっかり実践し、レジュメに書けるような具体的な成果を積み重ねることが重要です。そのためには継続的な学びと自己研鑽が欠かせません。

しかし、私はこれをスクラムマスター個人の努力不足で片付けたくないと思います。業界全体として経験豊富なスクラムマスターが不足している状況で、採用に取り組む企業には何ができるでしょうか。

自社でスクラムマスターを育成することの重要性

これらの課題を踏まえると、外部から適切なスクラムマスターを採用することは非常に困難だと言えます。そこで重要になるのが、自社でスクラムマスターを育成することです。さらに言えば、社内からスクラムマスターが自然と生まれる環境を作ることが大切だと考えます。

具体的には以下のような取り組みが考えられます:

  1. チームを組織の基本単位とする
    機能横断的で自律的なチーム環境が、スクラムマスターの活動の基盤となります。組織全体がチームを基本単位として動く構造にすることで、スクラムマスターの活動がより効果的になります。

  2. スクラムマスターの役割に対する組織の期待を明確化する
    スクラムマスターが何をすべきか、どのような価値を提供することが期待されているのかを組織として明確にします。これにより、スクラムマスター自身も自分の役割をより深く理解できるようになります。

  3. 成長をサポートする仕組みの構築
    経験豊富なコーチによる継続的なメンタリング・コーチングや、スクラムマスター同士が学び合えるコミュニティを形成し、孤立せずに成長できる環境を整えます。外部の勉強会やカンファレンスへの参加も奨励し、多様な学びの機会を提供します。

これらの取り組みにより、時間はかかりますが、自社の文化や環境に適したスクラムマスターを育成することができます。また、スクラムマスターが活躍しやすい組織環境を整えることは、経験豊富なスクラムマスターにとっても魅力的な要素となり、結果的に採用力の向上にもつながります。

おわりに

スクラムマスターの採用が難しい理由は、需要と供給のミスマッチ、役割の進化と求められるスキルセットの多様性、そして経験豊富な人材の希少性にあります。

これらの課題に対処するには、時間と労力が必要になりますが、スクラムマスターが生まれ活躍できる環境づくりに取り組むことが重要です。そうすることで、やがて採用力の強化にもつながり、より優れたプロダクトと価値創出の実現が可能になると信じています。

みなさんの組織から素晴らしいスクラムマスターが生まれることを願っています。


ありがとうございます。書籍代に使ったり、僕の周りの人が少し幸せになる使い道を考えたいと思います。