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気付いた時にはおちていた魔性の忍者「モクマ・エンドウ」~「バディミッションBOND」プレイ感想【ネタバレ有】

 つい先日友人からおすすめされた「バディミッションBOND」。事前に仕入れていた情報が「バディもの」「ヒーロー」「ミステリー」「村田先生」など、あまりに好みなものばかりだったため、事前の期待値はいやが上にも上がってしまったが、蓋を開けてみればその期待を軽く超えるかなりの良作だった。

 ヒーローとバディをテーマとしたアツいストーリー展開、そのストーリーにマッチしたハイクオリティのビジュアル、雰囲気を盛り上げる魅力的なBGMの数々。各々の要素が高い水準でまとまっているが、一番の魅力は何と言っても、豊富なサブストーリーによるキャラクターのきめ細やかな描写だろう。

 本作ではメインストーリーの他に、特定の条件を満たすと徐々に追加されていくサブストーリーが二つある。そのうちの一つが、バックグラウンドも価値観も全てがバラバラなメイン4人を、なんと総当たりの6組、81話で語るバディエピソード。もう一つが、魅力たっぷりなサブキャラクター達やストーリーの舞台裏などを語り、本筋のストーリーに深みを持たせるサイドエピソードである。

 こういったサブストーリーは、通常であればただのおまけ要素になりがちだが、本作においては非常にボリュームもあり、むしろ大きなセールスポイントになっている。特にバディエピソードでは、足りない部分を補い合うパズルのような4人の関係性が余すことなく語られることで、作品への没入感をより深めることに成功している。

 補足部分をサブストーリーに小出ししている分、メインストーリーは本筋に必要な部分をすっきりまとめており、メインストーリーのみを追いたい人に対しても配慮されている。その他のパートもテンポ良くサクサク進むため、ストレスなくプレイできるだろう。

 無理やりケチをつけるとすれば、過去のミッションを「捜査」「潜入」「章末」などの区切りから再生できれば尚よかったと思うが、気になったのはそれ位である。自信をもって万人にお勧めできる良ADVだ。

 ……と、ここまでは真面目に書いてみたが、この作品の特徴であるキャラクターのきめ細やかな描写により、まんまとおちてしまったキャラクターが一人いる。「モクマ・エンドウ」――作中で分かっているだけで二人の初恋を奪い、二人の人生を狂わせた魔性の忍者さんである。

 普通の感想は他の方が素晴らしい記事をたくさんあげているため、当記事では脳筋系ムキムキに目がない人間をも虜にする、この中年忍者さんの魅力をPRしようと思う。以下は主にモクマとチェズレイ関連のネタバレ全開のためご注意を。

利他主義の申し子 モクマ


歪んだ優しさ

 子供たちのヒーロー「ニンジャジャン」の中の人であるモクマ。ゆるくておちゃめなムードメーカーである彼の特徴として、危なっかしいまでの利他主義的な性格と徹底的な逃避癖がある。

 アーロンとモクマのバディエピソードで、モクマは偶然通りすがった酔っ払いから濡れ衣を着せられる。しかし酔っ払いへの同情と揉め事を回避しようとする思惑から、彼は弁明もせずそのまま罪を被ろうとする。その方が、自分にとっても相手にとっても平和的である、と。

 幼少期にもこれとよく似たエピソードがある。後述するフウガから嫌がらせを受けていることをその父から言い当てられるも、彼はそれを否定してフウガを庇う。また、フウガが手裏剣の的を壊した際には、自らが壊したと進んで申し出るのだ(これについては、フウガの行動には自分への嫉妬があるからという理由も含まれるだろうが)。これらのエピソードは、元来より変わらないモクマの利他主義的な性格と逃避癖を象徴する話だろう。

 モクマは言う。「他人を優先するのは優しいからじゃない、その方が楽だから」と。確かに彼は他人の感情を推察し、過剰なまでに気遣う傾向がある一方で、自分の感情についてはどこか他人事のような節がある。無理しているわけではなく、他人を優先して面倒事を回避する方が楽なのは本音なのだろう。この呆れる程の平和主義は、人を強く惹きつける一方で、時に人を酷く傷つけ、苛立たせることもある。

 そして、こういった人間が、故意ではないにせよ他人を死に至らしめた場合、どうなるか。

主殺し

 チェズレイによって割と序盤からネタばらしをされていたが、モクマは20年前に、主君であるタンバを殺している。タンバの息子であるフウガが行った非道に激昂したモクマは、フウガに対し殺意を込めて技を放ったが、タンバがそれを庇ったことで、意図せず彼を死に至らしめることになったのだ。

 里を出たモクマは、外で法の裁きを受けることもできず、マイカに戻る事もできなかった。主殺しの報いを受けて死のうにも、その主からはそれを見越したように後追いを禁じられていた。

 もし彼に逃避癖がなければ、マイカに戻って裁きを受けたかもしれない。もし彼に忠誠心がなければ、主の言葉を無視して自害していたかもしれない。もし彼に義侠心がなければ、全てを過去にして楽に生きられたかもしれない。しかし、全てを持っていた彼にはそのどれもできない。がんじがらめになった彼が出した結論は、「人を守った結果として訪れる死」という、条件付きの死を待つことだった。

 内面ではこんな重いものを抱えたモクマがつけた「親しみやすいキャラクター」という仮面は、最初こそ、寡黙な彼が人との衝突を避けるために選んだものだったのかもしれない。しかし、深い関係にならないように予防線を張りながらも、行く先々で出会った人達との刹那的な繋がりを楽しんでいる。そんな彼の本質は、元から持っていたものなのか、嘘から出た実なのかは分からないが、今の見せかけの姿とそう大差ないのだろう。そうでなければ、死と隣合わせの仕事につくでもなく、20年で様々な仕事を転々とし、現在では子供から大人気のヒーローを演じるショーマンにまでなっていることの説明はつかないだろう。

 フレンドリーでおちゃめな元忍者がその実、人との関わりの中で孤独を癒やしながら、20年もの間死に場所を求めて放浪している主殺しだった。そのギャップがあまりに悲しく、強烈に惹かれたのを覚えている。里から逃げ、人から逃げ、酒に逃げ……。それでも自分を騙して楽になることだけは決して出来なかった。そのあまりに長い20年を思うと、なんとも形容し難い気持ちになる。

 しかし、そんな複雑な事情を抱えた逃げ足の早い忍者さんも、一度目を付けたら最後、地獄の果まででも追いかける蠍座の男に目をつけられてしまったのが運の尽きだった。

執着の権化 チェズレイ


狐と狸の化かし合い

 モクマを語る上でこの人物は外せないだろう。割と裏表のない仮面の詐欺師チェズレイである。

 「マフィアのドンの息子」という驚愕のバックグラウンドを持ち、人心掌握に長けたチェズレイにとって、殆どの他人は「掌で操るもの」。そんな策略家である彼の作戦を、2度に渡って台無しにしたモクマが癪に障ったのは至極当然だろう。嫌悪感を募らせながらも、時に敵わない宿敵を重ね、時に死を望む母を重ね、次第に執着心を強めながら、彼はモクマの本性を暴こうとする。

 モクマが年季の入った「逃避のプロ」であるならば、チェズレイは「追及のプロ」。生まれついてのストーカーといっていい(ファンの方、全力でごめんなさい)。その追い詰め方は、知的犯罪の達人だけあり、かなり狡猾でたちが悪い。意味深な言葉で揺さぶったかと思えば、ストレートに強い言葉を浴びせ、酷い時には催眠さえ駆使してチェズレイは全力でモクマの古傷を抉っていく。何なら物理的にも抉る。そのやり口は、あの人当たりの良いモクマに「最初は本当に苦手だった」と言われるほどである(普通の人ならば多分接触禁止令を出されるレベル)

 しかし、相手がチェズレイとはいえ、曲がりなりにも元忍者。嫌ならば作戦中とかでない限り、煙幕でも使って物理的に逃げればいいのである。しかし、追及を躱しながらも逃げる事をしないのは、チェズレイが「人を守った結果として訪れる死」を与えてくれるのではないか、という歪な期待からだろう。

 モクマはのらりくらりと追及をかわしたかと思えば、散々えぐられた直後にもかかわらず、チェズレイに寄り添う言葉をかけたりもする。チェズレイが殺人者たるのかその本質を探る意図も少しはあるのかもしれないが、基本的には彼の優しさと年長者故の余裕からだろう。それがチェズレイの濁りを強め、追及を激しくしているのは皮肉としか言いようがないが……。

 そんな二人の歪な化かし合いに決着がつくのがミッション11。20年来の帰郷を果たしたモクマは、フウガと決着をつけて死ぬ覚悟をするが、もちろんチェズレイがそんなことを許すはずがない。チェズレイはモクマの根底にずっとあった覚悟を、体を張りながらも半ば強引に引きずり出すことに成功する。モクマの生き方を変えられたのは、チェズレイのすさまじい執念が実を結んだ結果と言っていいだろう。屈指の名曲「運命の輪郭」をバックに描かれる二人の対峙は鳥肌もの。今でも狂ったようにリピートさせられるほど魅力にあふれている。

互いの生き方を変えた出会い

 チェズレイがモクマの生き方を変えた点にばかり注目したが、モクマもチェズレイの生き方を変えている。彼らは、お互いがお互いの今後にとって必要だった言葉を与え、引き出し、過去の呪縛から解き放ったのだ。

 ミッション9の章頭で、チェズレイ自身でさえ否定し、報われないものと諦めていた自身と母の「濁り」を、あろうことかその濁りの対象であるモクマ自身が肯定した。この出来事はチェズレイの中で、モクマの存在が宿敵ファントムを超えることになったキー(実際に超えたのはもう少し後だろうが)になったのと同時に、チェズレイ自身の今後を変えるきっかけにもなったように思う。

 チェズレイは感情の描写が他三人と比べると少なく、何を考えているのかいまいち見えてこないように描かれている。しかし、モクマとの関わりを経て明らかに変わってきているのが作中見て取れ、最終的には、ひたすらチェズレイからモクマの話を聞かされていた被害者のアーロンに、鳥肌を立たせるほど毒のない顔をするようになる。モクマとチェズレイのバディエピソード12、13などでは、チェズレイもちゃんと人だったんだな…としんみりしてしまうほど感情が分かりやすい。初期と比べれば同じ人なのか疑わしいほどである。

 二人の関係の変化に伴って、最初は「モクマを殺すまでは他の下衆を殺さない」だった約束が、お互いを生かすための約束になり、最終的には約束の期限を「お互いが死ぬまで」にすることで、生涯共にいることを約束した。いつかモクマがチェズレイに言った「今後の幸せのため」に、生涯共にいることを二人で選んだのだろう。

 

フウガの忠告


 そんな紆余曲折を経て強固な絆を得た二人だが、先行きに不安がないわけではない。チェズレイは、モクマの因縁の相手であるフウガから、意味深な言葉を投げ掛けられている。

 ちなみにフウガとは上記で何度か名前を出しているが、里長であるタンバの息子であり、モクマに激しい劣等感と嫉妬心を抱く男である。とんでもない事をやらかしているため一切同情の余地はないものの、モクマの歪んだ優しさに一番傷つけられたのは間違いなくこの人物だろう。アーロンとのバディエピソードでモクマに躱され続ける様を見ると、最後の台詞も相まって悲しいものがある。

 彼との関係や因縁の決着については本編をご確認いただくとして、当記事で触れたいのが、サイドエピソード「幻像狂想曲」に出てくる彼である。

 このエピソードは、チェズレイが自己催眠下で主に彼の被害者たち及び宿敵と言葉をかわすというもの。その中に、ほぼ接点のないフウガが突然出てくる。お互い似通った部分もあったと話した後に、フウガは警告する。

 よいか モクマが貴様の手に負えるなどと思わぬことだ
 貴様も、いつか道を誤りモクマの刃にかかる日が来るぞ

 これがフウガの言い残した事であれば「負け惜しみかな?」で終わるのだが、実際には自己催眠下であるため、あくまでチェズレイの意識が言わせた言葉である。つまり、自分で意識しているかは別として、チェズレイにはいつか自分が道を誤るという予感がある。もしくは、そのようになりたいorなりたくないという思があるのだろう。

 チェズレイは元々下衆であれば命を奪っても良いという価値観であり、催眠という手法ゆえそれ程目立たないが、作中でもモクマと約束するまでは割と殺しまくっている。そしてその価値観に特段変化はないことがアーロンとのバディエピソードで分かる。それは現状、「道を誤る」抑止力がモクマとの約束のみであることに他ならない。とはいえEDやバディエピソード13を見るに、現時点でのチェズレイはその約束を死んでも守るだろうことが予想されるが……。

 この生粋の犯罪者であり、何処までいっても闇社会の人間である点が、チェズレイが他3人と一線を画す部分だろう。そしてその部分こそが不安を煽る部分でもある。今後発売予定のドラマCD「ヴィンウェイより愛をこめて」が、このフラグ回収にならないかだけが目下の不安である。(一番の懸念「チェズレイからモクマの記憶が失われて大暴れ」がないのが救いだ)


久々に童心に帰れたADV


 非常に長くなってしまったが、きっとここまで読んでいただいた人はモクマ好きの同士かよほどの暇人だろう(嘘ですごめんなさい愛してます)。

 かなりの余談だが、私は年をとったためか、ストーリー重視系の若人向けゲームには胸やけを起こしてしまう病を発症している。大好きだったにもかかわらず、なぜか体が受け付けなくなっている。まるで揚げ物のようだ……。

 しかし、バディミッションBONDは、ミステリー要素を含むADVであることが幸いしてか、ストーリーテリングの上手さか(そもそも若人向けではないのかもしれないが)童心に帰ってストーリーに没頭することができた。それだけでなく、この年になって新しいタイプのキャラクターにおとしてくるとは、なんと恐ろしいゲームだろうか。

 もし未プレイの方がいれば、ぜひともプレイしてその恐ろしさを体感して欲しい。そして既プレイの方には、忍者さんの魅力を再確認できる機会となれたら幸いである。


終わりに

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。割と決めつけで書いている部分もあるため、これは違うんじゃないか等のご意見は大歓迎です。ぜひこっそり教えて頂けると嬉しいです。

#ネタバレ #ゲームレビュー   #バディミッションBOND

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