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1分20秒小説『駅』

「すいません」
「はい、どうされました?」
「切符を落としてしまって」
「どちらの駅で乗られましたか?」
「切符に書いてあったと思うのですが……」
 数分後、警察が二人。

「取りあえず何か身元を証見できる物を見せて」
「財布ごとすべて落としてしまって……」
「お名前は?住所は?お勤め先は?」
「財布を落としたんです」
「うん。それは分かったんで、お名前を聞かせて下さい」
「身分証に記載されていたはずなのですが」
 たまに日本語で流れるアナウンス。鳩がレールの横を歩いている。通り過ぎる群衆、顔は有るけど表情が剥がれている。
 煙草香水、点字ブロック叩くスーツケース、誰かのポケットで歌い出すスマホ、電光掲示板がお気持ちを表明している。
「もう一度聞きます。お名前は?」
「落としたものが届いていないか調べて下さい」
 駅員が近寄って来た。
「遺失物係に確認したところ、そちらにご本人が届けられてました」
「あーそーですか。じゃあ君、もういいよ」
「もういい?」
「君はもうここに居ないから、いいよ」
「……はい」
 置き去りにされ。
 たまに日本語で流れるアナウンス。鳩がレールの横を歩いている。通り過ぎる群衆、顔は有るけど表情が剥がれている。
 煙草香水、点字ブロック叩くスーツケース、誰かのポケットで歌い出すスマホ、電光掲示板がお気持ちを表明している。

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