30秒小説『誕生日プレゼント』
アパートから少し離れた場所に駐車場がある。毎朝そこまで歩く。途中にどぶ川がある。濃紺というか群青というか、ともかく色濃い寒色をしている。水位は低く水は止まったまま殆ど流れていない。晴れた日には洗剤のあぶくが無用な虹を宿し、弾けることなく太ペンで描かれたような輪郭を何時までも保っている。
自転車のタイヤが突き出ている。2本。1本は全体を露見させているが、もう1本は半分しか見えていない。
「あの逆さまになった自転車に誰も乗っていないという確証はない」
「あの逆さまになった自転車に誰も乗っていないという確証はない」
「あの逆さまになった自転車に誰も乗っていないという確証はない」
ないはずだ。僕だけじゃなく、誰にも。同様に通り過ぐ、同様に視界の端にあれを認めたまま何処かへ向かう大勢にも、何の確証もないんだ。
ちき
タイヤが回った。誰が漕いだ?僕の知っている人?誰かの子供?それとも……小さい頃引っ越した僕?見たことのないペヤングのフタ。ゴールへ向かうサッカーボール。足の入っていない長靴。
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