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3分20秒小説『たましいのしょくざい』

「さあ、どんな食材になりたいか言ってみろ」
「食材じゃないとダメなんですか?」
「そうだ!」
 …………
「間違ってたらごめんなさい。死神的な方ですよね?」
「そうだ」
「死神のセリフって、もっとこう『地獄行きだ!』とかそんなんじゃないんですか?」
「そうだお前は地獄行きだ。だがその前に罰を受けてもらう。生前、手当たり次第に食べ物を食い散らかしてきた罰として、お前は食材になるのだ」
「言ってる意味がよく分りません」
「食材になって身をもって粗末にされる辛さを味わえということだ」
「はぁ、なんかピンと来ないんですが――」
「上が決めたことだ。俺は刑を執行しに来ただけだ。とやかく言わずに素直に従え」
「分かりました。で、その執行とやらはVRで行うんですか?被るやつどこです?」
「遊びじゃない!さっさとなりたい食材を選べ」
「選ばしてはくれるんですね?」
「ああ」
「じゃあ、カニクリームコロッケでお願いします」
「駄目だ。それは料理だ。食材を選べ」
「どう違うんですか?」
「だー!分からんのか?例えば小麦粉とか人参とかそういったのが食材だ、カニクリームコロッケは料理の名前だろーが!」
「ああ、なるほど、じゃあカニクリームコロッケは選べない?」
「そうだ、食材じゃないから」
「分かりました、ではカニクリームでお願いします」
「馬鹿馬鹿馬鹿!食材だっつってるだろ!カニクリームってなんだ?そんなものが畑で採れるか?海泳いでるか?ええ?」
「はあ」
「どうしてもカニクリームコロッケになりたいんなら、カニ、もしくはクリーム――じゃない、クリームの原材料の強力粉、バター、牛乳、塩のどれかを選べ」
「ちょっと待ってください!例えばですけど、僕が強力粉になったとしてですね、カニクリームコロッケのクリームになれる保証はあるんですか?」
「そんなものはない!」
「ちょっとそれ納得できない!だってカニクリームコロッケになる覚悟で強力粉を選んだのに、気がついたら讃岐うどんにされているなんて、あまりにも理不尽じゃないないですかっ!」
「理不尽?」
「ええ、選ばしてくれるっていうのなら最終的に何の料理になるのかが担保されていないと意味ないですよ。そんなのただの自己満足でしょ?」
「自己満足?!」
「”選ばしてやる”なんて言って寛容な振りして結局”俺は慈悲深い死神だぜ”っていうアピールをしたいだけでしょ?だって僕にとってその選択はまったく意味がないんですから――違いますか?」
「……すげぇ喋るなお前。もう、めんどくさい。刑の執行を先延ばしにするよう申請してくる」
「あ、ちょっと待って、逃げるんですか?ちゃんと僕をカニクリームコロッケにしてください!ザクザクの衣、噛むと口の中にコクのあるホワイトクリームと海老の甘味が混然となって舌に絡みつき、味覚を超え悦楽と言っても過言ではないあの――」
「……怖ぇよお前。もうなりたがってんじゃん。消えるわ」
 死神を名乗る者は、軽侮とも怯えとも分からぬ表情を残像させ、透明になって消え失せた。
「卑怯者めー!どうしてくれんだよこの気持ち!」

**********

 10分後――
「あいつのせいだ」
 冷食コーナーでつぶやく僕。

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