2分20秒小説『キューピットアーミー』

「恋に落ちろ!このゲス野郎」
 雑言とともに矢が飛んで来た。
「危っ!」
 なんとか躱した。
「チッ」
「何なんですかあなたは?」
「見りゃ分かるだろ?キューピットだ」
「確かにそんな風な見た目でけど、ともかく矢で射るのはやめてください」
「どうしてだ?」
「いや、だって痛いでしょ」
「ちょっとだけな。でも死にはしない」
「痛いの嫌なんです」
「生意気言うなっ!」
「危ないって!」
 とっさに掴んだ座布団に矢が刺さる。
「馬鹿っ!間抜け!ヒョーロク玉!イカチンコ!避けるなって!」
「なんすかその『イカチンコ』って」
「大人しく射られたら教えてやる」
「嫌だ」
 僕は、ベランダに飛び出すと、スリッパを履いて外に逃げる。
「しまった!おい、ベランダから逃げたぞ。回り込め!」
 パジャマのまま町内を走る。振り向くと、3匹?のキューピットが空を飛び追い掛けてくる。
「逃げんな!ぶっ殺すぞテメー!」
(なんて物騒な奴らだ!)
 角を曲がり、ビルとビルの間、狭い路地に身を隠す。
(行ったか?)
 やり過ごせたようだ。安堵して表通りに出ようとした瞬間、スリッパの5cm先に矢が刺さる。見上げるとビルの上から、スコープ付きの武器で狙っているのが一匹。
「スナイパーもいるのか?!」
 脱兎のダッシュで再び逃げる。
「逃がすかー!このヘナチン野郎」
「うわー、まだ追い掛けてきてる」
 振り向いたまま加速した途端――

 ドガッ

「あっ!」
 誰かにぶつかってしまった。
「すいません、その、急いでいたもので。お怪我はありませんか?」
「いいえ、大丈夫です、貴方の方こそ大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です」
「どうしてパジャマなんですか?」
「いや、そのどう説明したらいいか……とにかく追われてるんです」
「あの――良かったら、家に来ますか?すぐそこのアパートなんですけど」
「匿ってもらえるんですか?」
「はい、ただ事じゃなさそうなので」
(なんて親切な女性なんだ。それに――とても可愛い)

 一部始終を見ていたキューピットたち、舌打ちして引き返していく。
「撃ち損ねたなぁ。新しい弓の威力、試したかったのに」

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