散文詩『陽が差して敬啓。』
ボールペンの金属球は、酸化アルミニウムという素材で出来ているらしい。刺さるくらい見つめ、紙に着地させる火星の表土。
金属球が紙に押し付けられる。この段階ではまだ乾いている。誰かの眼球のように。ペン先が水平に動く。転がる。
細透明なプラカートリッジ、半透明に透けて見える――が、金属球の表面にインキを受け渡す。
銀色に見えるが黒く濡れている。誰かの眼球のように。転がる。紙に線が現れる。カーチェイスの轍のように急に曲がったり、またひたすに直進したり、何かから逃げているのか?
文字だ
目に見える文字だ
そいつが目に見えないもの
内なるもの
紙の上に置き去りにした
仕方なくタイトルを付す
『陽が差して敬啓』
僕も知らなかったことがたくさんそこに現れてきて、これを誰かに見せることもできるわけで、ボールが回転するメカニクスが、人を殺し、また生かし、涙も笑顔も、光も小便もヌイグルミも絶望も文字という記号に収束させてしまえば、三次元からは消え、いや、三次元に現れ、僕の指に透けて見える管は血を収めたカートリッジなわけで、それがいつのまにボールペンに繋がったのだろうか?
でないとmmでしかない酸化アルミニウムの球が、僕の心を魂を焦燥渇望恋慕冷淡激怒を知りうるわけがないわけで、あの小さな球が、今、貴方の眼球に重なってる。
今、貴方の眼球に重なっている。嬉しくも恥ずかしくも。
敬啓。
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