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2分50秒小説『Y氏の正体【誇張し過ぎた星新一】』

 Y氏はスパイ。「独裁者Nを失脚させるスキャンダルを探れ」という指令を受け、S国に潜入している。表向きはG国の大使と身分を偽装して。
 今夜、Nの邸宅で各国の大使を集めたパーティー開かれる。Y氏は妻役のTを連れ、Nの邸宅へ向かう。TもG国の諜報機関に属するスパイだ。
 門扉の前で、武装した警備兵に車を止められる。身分証を見せ、身体検査を受け、やっと敷地の中に入れた。物々しい警備だ。通常の手段では忍び込むのは不可能。今夜がNの邸宅に侵入する最初で最後のチャンスかもしれない。

 頃合いを見計らい、Y氏はTに「計画を実行する。何か異変があれば連絡しろ」と言い残し、WCに行く。
 個室に入ると、D博士の開発した圧縮服を財布から取り出し、使用人に変装した。
 廊下を歩き、書斎に向かう。幸いにして、L国大使夫人のKとすれ違っただけで、他には誰とも会わずに、書斎に辿り着くことが出来た。書斎の扉を密かに入手した鍵で開ける。カチリ。ここまでは予定通り。
 
 書斎を見渡す。壁際にある本棚に近付く。情報ではこの向こうに隠し部屋があり、そこにNを失脚させるような機密情報が隠されている。
 本棚に置かれたNが崇拝するW国の政治学者Rの自伝を手前に引き出そうとした瞬間。
「何をしている?」
 背後から声。驚いて振り返ってみるとそこ立っているのはN。
「あのー、お部屋をお片づけを」
「苦しい言い訳はよせ。使用人?大使?いや違う、お前の正体は『Z』、伝説のスパイ『Z』だ」
「FK!」
 懐に手を入れ、Gを出そうとした瞬間、Y氏は、Nの横に立つ人影に気付く。
「T、どうしてこんな所に?」
「実は私、Nの情婦なの」
「まさか、UはWスパイだったのか?」
「そういうことだ」
 不適に笑うN、黒光りするGをY氏のPに向けてFする。
「やめろー」
 D末魔のZ叫を残しY氏はDされた。
「これで、邪魔者は片付いた」
 NがTの腰に手を回し、Kをしようとしたその瞬間、部屋に響く笑い声。そしてゆっくりと立ち上がるY氏。
「なにー、確かにDした筈だ」
 驚愕するNに向け、Lサイズのシャツの胸をはだける。鋼鉄の体が露わになる。
「まさか!『Z』の正体はロボットだったのか?」
「違うわ」
 Tが囁く。
「私が『Z』」
「なにー?!」
 表向きはG国の大使、その正体は凄腕のスパイ『Z』だと思われていたY氏の妻だが、実はNの情婦かつS国に所属するWスパイだとNが認識しいたTこそが、実は謎の凄腕スパイ、『Z』の正体だった。
「『Y』は男ではないのか?!」
「何言ってるの?私が女だってことは、ベッドでさんざん確かめたでしょ?」
 『Z』は、AからGを取り出すとNのXにTを向けDした。
「無事に……ここから脱出できると……思うなよ」
 Nが最後のセリフを吐き終わらないうちに、廊下から聞こえる無数の足音、揺れて鳴る銃器の金属音、絶体絶命。
「ご心配なく」
 まさかのどんでん返し。 
 『Z』はBをして無事に脱出した。

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