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4分10秒小説『ウォーリーを探せ!さもなくば……』

「見つけるまで、ここから出ることは出来ません。制限時間は76時間。時間内にターゲットを発見出来なかった場合は、現実世界にあるアナタの肉体は焼却されます」
 白い床がどこまでも続いている。見渡す限り。
「何を見つけろと言うんだ?」
「ウォーリーです」
「ウォーリー?」
「そう、ウォーリーです」
「あのウォーリー?『ウォーリーを探せ』の?」
「はい、画像をお見せします」
「必要ない。ウォーリーは床に描かれているのか?」
「お答えいたしかねます」
「オブジェクト化されている?それとも人格化されている?」
「お答えいたしかねます」
「何かヒントをくれ」
「準備が出来たらお知らせください」
「ヒントをくれと言ってるんだ!こんな広い空間で何の手掛かりも無しにウォーリーを見つけるのは不可能だ!」
「時間になりました。カウントを開始します」
 空に巨大な数字が現れる。
「では最後にヒントを一つ"数字はすべてを知っている"でご健闘を」
「くそっ!なんだよそのヒントは!?数字が……意味が分からない」
 見上げる。数字がどんどん減っていってる。
「あれが0になるまでに見つけろってことか?」
 しゃがみ込んで床を凝視する。
「せめて大きさだけでも教えてくれよ……もし仮にウォーリーの大きさが1cmだとしたら?絶対見つけることは出来ない……いや、床に描かれているとは限らない。どこかに立っているかもしれない……いや、移動しているかも……どうする?」
 決断する。
「床をすべてチェックしていたらタイムオーバーになるのは間違いない……とにかく歩こう」
 白い床、巨大な数字、それ以外何も無い世界、気が狂いそうだ。
「歩くしかない」


 70時間が経過した。数字を見上げ立ち止まる。
「無理だ。どこまで行っても白い床ばかりで何も無い。いや……ひょっとしたら見落としてしまったのかもしれない。くそっ!くそっ!このままじゃあ、現実世界にある体を処分されてしまう……おいっ!出てこい!ルールについて聞き忘れていたことがある」
「お呼びでしょうか?」
「もし失敗した場合、俺はどうなる?」
「現実世界の肉体は焼却処分されます」
「それは聞いた。今こうして仮想空間上に存在している俺の意識はどうなる?」
「mobキャラクターの人格を補完するためのデータとして売却されます」
「消えろ!」
「残り時間は、5時間35分23秒です」
「消えろ!」

 白い床。

「歩くしかない。絶対にウォーリーを見つけてやる。金が必要なんだ!あの子の手足を再生する為に……俺が起こした事故に巻き込まれて、四肢を切断するはめになったあの女の子の為に……走ろう」

 白い床。

「何か見えるはずだ」

 白い床。

「俺はハメられたのか?」

 白い床。

「実はウォーリーなんて存在しないのでは?」

 白い床。声。

「ウォーリーは存在します」
「うるさい!」

 白い床。

「何だあれは?」

 白い床ばかりの景色、仮想的地平線に日の出が見える。
 いや、日の出ではない。床が赤い。遙か先で白い床は突如として終焉し、その先に赤い床が続いている。
 加速する。境界線に辿り着く。

「おい、この床は何だ?この世界の境界か?この赤いゾーンは侵入禁止なのか?おいっ!答えろ!……くそっ!どうして答えない……どうして……どうして?……答え……答え?」
「あと60秒です。現実世界に連絡してアナタの肉体を焼却します」
「ウォーリーを見つけた」
「アナタの意識をデータ化して出荷します」
「ウォーリーを見つけた。ここがウォーリーだ」
「……」
「そうなんだろ?この空間の床全体が巨大なウォーリーだ。この赤い床の先にはまた白い床がある!違うか?俺は今、ウォーリーの着ているセーターの上に立っているんだ』
「正解です」
「はは……やったぞ!やった!」

 早くここから出よう。本物の日の出を拝みながら一服したい。

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