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1分50秒小説『タワシ』

ワタシ「ワタシはワタシ」
タワシ「ワタシもワタシ」
ワタシ「アナタはタワシでしょ?」
タワシ「確かに、アナタにはワタシがタワシに見えることでしょうね。でもワタシはワタシ、これは揺るぎない事実」
ワタシ「違うわ、!アナタはこう言うべきよ『ワタシはタワシ』と」
タワシ「ワタシはタワシである以前にワタシ」
ワタシ「とにかく『アナタはタワシ』よ。さ、言ってみて」
タワシ「アナタはタワシ」
ワタシ「違う!ワタシはワタシ。アナタがタワシ」
タワシ「アナタはタワシ」
ワタシ「だから違うって!ワタシはワタシ、アナタはタワシ」
タワシ「ワタシはワタシ、アナタはタワシ」
ワタシ「ヤメて!タワシのクセにワタシをタワシと呼ばないで!」
タワシ「いいわ、やめてあげる。その代わり認めて!ワタシがワタシであることを」
ワタシ「……認めるわ」
タワシ「認めるのね?ワタシがワタシであることを。じゃあ、アナタは何?」
ワタシ「ワタシはワタシよ」
タワシ「アナタ認めたわよね?ワタシがワタシであることを」
ワタシ「認めたわ」
タワシ「じゃあアナタはワタシじゃない。だってワタシがワタシなんだもん」
ワタシ「違うって!」
タワシ「ワタシは世界に1人だけ。違う?」
ワタシ「確かに、ワタシが"ワタシ"と言う時にはそうだけれども……」
タワシ「いい?つまりね。セカイには沢山のワタシが存在するの。そしてそれらは、個別の存在ではなくワタシという一つの存在の一部であるわけ」
ワタシ「じゃあタワシもワタシだってこと?」
タワシ「そう!そしてワタシはタワシ、ということは?」
ワタシ「ワタシもタワシ?」
タワシ「そういうこと。良かった、分かってもらえて」

 100均のキッチン用品の棚で、2つのタワシが相互理解を示した。
 カゴに入れ、レジに向かうワタシ。

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