2分40秒小説『力士120%(当社比)』
「100人乗っても大丈夫」
というキャッチで物置市場を長年に渡り独占してきたたA社。その牙城に一槍入れたのは新興のB社。
「当社の物置は106人乗っても大丈夫!」
センセーショナルかつアグレッシヴなキャッチに、市場は震撼、B社の株価は急騰、反してA社の株価は急落。しかしA社も黙ってはいない。
「当社独自の新技術により138人も乗って大丈夫!(特許出願中)」
ざわ
ざわ
ざわめき、プレスリリースの会場に行き渡るや否や、飛び交う怒号、社に電話する者、ダッシュで会場を飛び出す者、入り乱れて大混乱。
翌朝、各新聞社の朝刊には、A社の記事が漏れなく掲載された。
やはりA社は、業界の魁、その底力、推して知るべし、と世間が納得の頷きえを返そうとした矢先、B社がyoutubeにアップロードした動画、その映像にはなんと。
B社の物置の上で、組体操のように重なり合う力士の肉壁。その数なんと120人!一斉に前方を向き直し、「どすこーーーぉおおおい」の掛け声とともに一気に物置の上に崩れ落ちる。揺れる台地、しかしB社の物置はビクともしない(なんという衝撃映像だ)。
動画の再生回数は、一月を経ずに一億previewを叩き出し、両者の株価は再び入れ替わった。
勝負は決したと、思われたその時、A社が起死回生の新商品を発表する。
「お年寄りも安心して乗れます」
TVCMの映像――無数の老人達が、備え付けのなだらかな螺旋スロープを登り、手すりの付いた物置の上に登っていく映像――その老人たちの数、どう数えても200は下らない?!
敢えて明確な人数をうたわないCMを打ち出してきたA社、消耗戦と化していた積載量というフィールドを破壊すべく、高齢化、介護、バリアフリーという新機軸を生み出し、衆目を一網打尽に取り集めたのである。対してB社――
「我が社は、女性の輝ける社会を応援します」
CMの映像――B社の物置の上にデスクを並べて、笑顔で仕事に勤しむOL達の姿。
結果から言うと、このCMは失敗に終わった。政府与党の眼玉政策に追随するB社のあざとさに世間が反発したのだ。
B社と政治家との癒着を疑う週刊誌の記事などもあって、B社の株価は急落。
A社はやはり業界の雄、物置業界のキング・オブ・キングスは、A社に決した。
――と、誰もが思ったその時、とんだ大番狂わせが起こる。
業界の異端児C社が放映したCMが、消費者の目を覚ましたのだ。そのCMのフレーズ――
「我が社の物置には、たくさん物が入ります」
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