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2分40秒小説『正指』

「どうしたんですか?その手」
「ああ、ちょっと怪我してね」
「『ちょっとね』っていうレベルに見えませんけど……大丈夫ですか?」
「まぁ、大丈夫でしょ」
「ほんとですすか?拳全体包帯ぐるぐる巻きじゃないですか?」
「はは、ドラえもんみたいだろ」
「いや、まぁ」
「ほんとに心配いらないから、だって血も止まってるし」
「そうですか……それにしてもどうしちゃったんですか?」
「いやぁうっかり包丁で切っちゃてね。それが傑作なんだよ。聞いてくれよ」

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 指を切断したんだ自分で。
 台所でね。
 まな板の上に手を置いてね。
 穴あき包丁で自分の指を切った。
 ズバッという感じではなく――
 トントントンと楽器を奏でるように軽妙に包丁を上下させて。

 僕は考えた。
 (あ、これは夢だ)
 って。ホッとした。でもまてよ――
 おしっこをする夢を見て、起きたら漏らしているという体験――
 子供の頃よくあったんだよね。それと同じことがもし――
 この夢の中で起こってるとしたら僕は――

「起きるのが怖い」

 この夢は、正夢――いや厳密には違うな。「夢遊病の最中に見る歪んだ現実」そんなものなんじゃないかなって思ってね。だとしたら目を覚ましたら、僕の指はすべて切断されてしまっているということになる――洒落にならないよね?
 目覚ましが鳴っているのは分かってた。でもシカトして、確信犯的に夢に居座っていたでも――
 突如頭の上に半透明な電球が浮かんでね。

「そうだ!くっつけちゃえばいいんだ」

 夢の中で起こった事故は夢の中で解決すればいい。名案だ。
 僕は切断され散らばった指を包丁の腹でかき集め、ひとつひとつがどの指だったのかを確かめながら、つないでいった。
 断面に断面を近づけると指は、磁石のようにぴったりと元通りにくっ付いていったよ。ふふふ。
 で、僕はまな板を流しで洗って、飛び散った血もキッチンペーパーで綺麗に拭いて、ベッド戻った。

「これで大丈夫だ。寝よう」

 横になって枕を抱えて眠ろうとしたわけなんだが、あれれ?って思ってね。
 今、自分は夢の中で寝ようとしてるけど、でもさっきまで目覚ましに急かされて起きようとしていたわけで、どうすればいいのか――眠ればいいのか起きればいいのか分からなくなったんだよ。
 で、「どっちだよ!」って叫んだら、目が覚めて――

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「結局夢だったわけ」
「なんだぁ夢の話なんですね、しかし怖い夢ですねぇ」
「いや、怖いのは現実の方だよ」
「現実?」
「そう、だってさ、夢ではつっくいたはずなのに1本もくっついてないんだもの。参ったよ」

 


え?

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