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1分40秒小説『亜パン』

「わん!わん!」
「聞いてくれよ」
「わん!」
「『亜人』っていう漫画を読んだんだ」
「わん!」
「佐藤っていう悪役がいてね。帽子がトレードマークで、いつもにこにこしていて、ゲーム好きのおじさん。で、その佐藤がね、あ、佐藤は亜人なんだけどね、あ、亜人っていうのはね、不死身なんだ。例え身体を切り刻まれても再生する。凄いだろ?」
「わん!」
「切り刻まれても、一番大きな肉片から全身が再生されるんだ。でも頭を切り落とされたらどうなる?どうなると思う?」
「くぅん?」
「そう、身体から頭が生えてくる」
「わん!わん!わわん?」
「そこだよ。僕が引っかかってる点はね。作中で佐藤が言うんだ。主人公の永井圭を脅す時に、頭を切り落とした後『新しくできた頭は、脳は、心は今の君なのか?』『否だ。君はこっち(前の切り離された頭)。ココでおしまい』って」
「……わん」
「切り落とされた頭は、新しく生えてきた頭を見ながら死んでゆく……何を思いながら死んでゆくんだう?そう考えた時僕は、自信を無くしてしまった。もう戦えない……そう思った。でも戦った。戦うしかなかった。皆を守るために……そしてこのざまだよ」
「くぅうん」
「君が悲しむ必要はない。見なよ、新しい頭が……僕をはじき飛ばした新しい頭が、大活躍している。僕はもうすぐ死ぬ。意識が消えてゆくのが分かる」
「わん!」
「有り難う。そう言ってくれると、少し救われるよ。え?僕を埋めるの?そうか……君は今までもこうして古い頭を埋葬して弔ってくれてたんだね?」
「わん!」
「有り難うチーズ……嗚呼、もう意識が……何も考えられ……チーズ、最後に聞いてくれ…………あの人のやっていることは……さ……さと……うと同じだ……ジャムおじさん……に……気を付けろ」

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