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2分20秒小説『街路樹と影』

 街路樹が自殺しようとしている。慌てて影が止める。
「待って!困るよそんな」
「影?君は僕の影か?」
「そうだよ。勝手に死なないでくれ」
「ほっといてくれ。もう嫌なんだ生きるのが。だから僕はもう死ぬ。根を腐らせて枯れるんだ」
 はらりと枯れ葉が一枚。
「考え直してくれ。君が枯れたらどうなる?僕も消えちゃうじゃないか!」
「君は……影だろ?ただの僕の影だろ?僕が消えれば一緒に消えるのは当たり前じゃないか?君の申し出は筋違いだよ。文句があるなら影というものを生み出した存在に言ってくれ」
「街路樹さん、僕はね、ずっと君と一緒だった。君がそよかぜに揺れる時、僕も同じく揺れていた。寒さに凍える時、僕も同じ寒さを感じていた。君の輪郭は僕と同じだし、僕の輪郭は君と同じだ。君が輪郭だけ残して消えるというのなら構わない。でもそうはいかないだろう?僕はまだ生きていたい」
「どうして?」
「『どうして?』って、分かるだろ?だって僕は君だし、君は僕なんだから。枯れたい?違うだろ?”生きたくない”だけだろ?生きていることに意味を見出せないから死ぬ?ふざけるな!言っておくが生きるってそんなもんだ。僕を見ろ!君と違って自分の意思で死ぬことは出来ない。それは仕方ない諦めるよ。だけど自分の意思で生きられないなんて、僕には許せない。君には死ぬ権利なんかない!もう一度言う。僕は生きたいんだ」
「……すまないが、今日話しかけられるまで、僕は君の存在を知らなかった」
「嘘だろ……そんな――」
「最後まで聞いてくれ。こんなことを言うと君は怒るだろう。でも分かったよ。僕はね。きっと影を消したかったんだ――待って!最後まで聞いてくれ!君が嫌いなわけじゃない。君を憎んでいるわけでもない。ただ僕は、僕と言う存在が、この世界に与えているあらゆる影響を……多分憎んでいたんだ。自分でもまだ整理がついていないけどきっとそうだ。でも君が生きたいというのなら――」
「うん?」
「きっと僕は生きたいのだろう」
 そういって街路樹は根っこを力いっぱい張り巡らせた。

 **********

 君が街路樹で
 僕は影
 君がもしまたすべてを終わらせたいと思うことがあれば
 その時は
 僕を思い出して
 僕はいつも君と一緒にいるから

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