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小説(2~3分)

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2023年9月の記事一覧

2分30秒小説『flying flying bullet [飛び魚の飛距離を生きる]』

2分30秒小説『flying flying bullet [飛び魚の飛距離を生きる]』

〈あれに噛み砕かれるのは御免だ〉
 飛び魚のジョーイは弾丸だ。海面を目指す弾丸だ。

 尾の直ぐ先、触れそうなとこに巨大な唇。 鮪だ。振り向かなくてもわかる。この殺意の大きさと色は、絶対に鮪。
〈ヤツは必死だ〉

 水の色が濃い。戸惑うジョーイ。焦る。深度は?海面までは?1インチに満たぬ心臓が乱爆。
〈ヤツにも聞こえている〉

 尾びれの先端が「ちっ」。
〈ヤツの唇を掠めた?〉
 逃走本能が弾け全

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2分50秒小説『トサカの錬金術師』

2分50秒小説『トサカの錬金術師』

 或る処におでん屋を営んでいるおじいさんが居ました。
 おじいさんは庭で鳥を飼っていました。鶏でした。
 おじいさんは毎朝、鶏の産む卵を楽しみにしていました。
「これで美味しい美味しいおでんができるぞ」
 ほわほわと湯気の立つ産みたて卵に愛おしそうに頬ずりして、早速おでん鍋に沈めます。

くつくつ

くつくつ

 おでん鍋は出汁をじっくりと加熱して、小さな囁きを繰り返しています。
「さぁ、出来たぞ

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2分20秒小説『8月19日の出来事』

2分20秒小説『8月19日の出来事』

参考人:山崎孝雄(店長)
10:00 A子さんの接客態度に対して注意をし
    た。
10:20 研修の為、石松店のスタッフを視察して        
    くるよう指示をした。
10:40 「視察になんて行きたくありません」と
    言ってきたので注意した。
    石松店のスタッフは全員接客力の評価が
    高く、それに対してうちの店舗のスタッ
    フは評価が低いという現状を説明し

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2分小説『塞翁が馬券』

2分小説『塞翁が馬券』

 朝のニュースの占いコーナー、蟹座のB型金運MAX!
 競馬だ!競馬しかない!
 ぶち込んでやる全貯金!っても知れた額だけど。
 オンラインで買おうとしたけど、スマホの調子が悪い。久々に競馬場に行こう。
 電車に乗る。寝過ごして通過「やっちまった」第一レースには間に合わない。遅れついでだ。この駅に確か朝ラーやってる店が……あった。すする。旨い。電車に乗り直す。
「チカンよ!捕まえて!」
「え?俺?

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2分20秒小説『洗濯物と野菜とパーマ』

2分20秒小説『洗濯物と野菜とパーマ』

 入って来るなりいきなり――
「聞いてください先生。洗濯物の汚れが落ちないんです」
「え?」
「いくら洗っても、洗剤を変えてみても、結構長めに漬け置きしても、ぜんぜん汚れが落ちないんです。どうすればいいでしょうか?」
「いや、あの――」
「分かっています!どこに行っても同じことを言われます。うちは専門外だとか、別のとこに行った方がいいとか、貴方もきっと同じ意見なんですよね?僕を……拒絶するんでしょ

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2分40秒小説『実家wars episode0』

2分40秒小説『実家wars episode0』

 母さん、俺のライトセーバーどこいったか知らん?……え?いつものとこ?……ないよ。いや、ちゃんと探したよ。いつものとこって、あれじゃろ?脱衣籠の上の棚よーねぇ?いや、奥の方も見たけどないんじゃって。いや、部屋には持って上がっとらん。
 
 ひょっとして、タカシが間違えて持って行ったんかねぇ?え?ちゃんと自分のもって行きょうた?じゃあ、俺のはどこにあるんよ。は?「知らん」って?「知らん」じゃないじゃ

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2分0秒小説『日本筋肉昔ばなし4選』

2分0秒小説『日本筋肉昔ばなし4選』

『腿太郎』

昔昔或るジムに
大胸筋と大殿筋が住んでいました
大胸筋は山にベンチプレスに
大殿筋は川にブルガリアンスクワットをしに行きました

大殿筋が川でブルガリアンスクワットをしていると
皮から大きなハムストリング筋が
「せいっ!せいっ!」
と流れて来ました
大殿筋がジムに持って帰って
大胸筋と一緒にハムストリング筋を割ろうとしましたが
すでに八つに割れていました
そうです
大殿筋が皮で拾って

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2分50秒小説『あべ氏』

2分50秒小説『あべ氏』

「お前はもう死んでいる」

 と胸に七つの傷を持つ男に言われた。私は愕然として、火炎放射器を地面に落としてしまった。

(私は死んでいる?)

 私の顔が苦痛に歪む。

「確かに……アナタの言う通りかもしれません」

3

「思えば私は、ずいぶんと酷い事をしてきました……いや酷いなんて表現じゃ生ぬるいですね、悪逆非道……そう……今まで私がとってきた行動と言えば、悪逆非道そのものでした。

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