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母へ15年越しの嘆きをぶつけた日。

私は、幼稚園のころから中学2年生くらいまでピアノを習っていました。
母がピアノにサックス、父は元バンドマン、姉はピアノ(のちにトランペットも)という音楽一家だったので、子どもの頃から音楽が身近にありました。

当然我が家にはピアノがありました。母・姉が弾くのを聞いていましたし、音楽そのものが好きだったので、自然と「ぼくもピアノやりたい!」となって、ピアノ教室に通い始めたのでした。



バーナムをちょっとずつ進めていって、初めて和音というものに出会ったときのことを今でも覚えています。

それまでは「ド、レ、ミ…」と単音ずつ弾く曲しかなかった。
けど初めて複数の音がくっついた音符が譜面にあらわれて、「えっ、これ同時に3つ弾くの?」と思いながらドミソをおさえたその瞬間、「うわあ、すげー!きれい!」と本当に感動しました。

ピアノを弾くのがどんどん楽しくなって、少しずつ弾けるものが増えていって、練習曲に挑戦するようにもなりました。



さて、小学生のいつ頃だったか覚えていませんが、私が家でピアノを練習していたある日。
私が部屋で弾くのをリビングから聞いていた母が「今のとこ、弾き方が雑だよ。スラーでしょ」とツッコむ。

ピアノを弾くお家なら当たり前の光景なのかもしれませんが、私にとってはこの母からのツッコミがすごく嫌だった。
ピアノ経験者の母からしたら、私の拙い演奏がどうしても気になったのだと思います。私がある程度の年齢・レベルになったから伝えようと思ったのかもしれません。

しかし私にとっては、右手左手の譜をさらって、ようやくメロディーと伴奏がひとつになったのを楽しんでいたところなのに、そこで茶々が入るのがとても不快だった。
それ以降も母のツッコミは時々あって、やがて私は母が家にいるときにピアノを弾かなくなりました。

練習量が減るのですから、当然ヘタにもなります。課題の曲を教室で弾きますが、ミスが増えます。先生からも指導が増えます。楽しくないです。
ほとんど練習をしないまま教室に行くなんて日も出てきて、先生からは「練習してきた?全然やってないでしょう?」と怒られます。

そんなことを繰り返している間も、自分の気持ちを誰にも打ち明けられないまま、騙し騙しで中学2年になるまでピアノを続けてきました。
(高学年になったあたりで、好きなJ-pop曲を練習させてもらえるようになったことがモチベーションの支えになっていたのかなと、今は思います。)

ですがその頃にはもう、学校から帰ってきて教室に行くまでの2時間くらいしか練習しなくなっていました。母も先生も「全然練習しないやつ」と呆れていたのではないかなと思います。

私の心も限界が来て、ある日のレッスン終わりに、先生に「すみません。今日でもう辞めます」と堰を切ったように突然退会を伝えました。
その日の帰り道、焦る先生の様子を思い出しながら、「驚かせてしまって申し訳なかったな」「もしかしたら結構マズいことをしてしまったのか…?」などと思う一方で、「これでもう練習しなくていいんだ」と解放的な気持ちにもなりました。
これ以降私はめっきりピアノを弾かなくなりました。
(余談ですがピアノとクロスフェードする形で、ここからドラムにはまっていきます)



急に時が進みますが、1ヵ月ちょっと前のことです。

友人たちと泊まった宿にピアノが置いてありました。遊びの流れで「ピアノで何でもいいから弾き語りをする」という罰ゲームを私がすることになり、そこで久々にピアノを弾きました。
数小節分のコードを必死に覚えて、弾きながら歌っただけです。たったそれだけなのですが、それが何だかすごく楽しかったのです。

そんなことがあり、15年ぶりにピアノが弾きたくなって、実家に帰った際、部屋のピアノを触っていました。
すると母がやってきて「珍しい、ピアノ弾いてんの?!」と驚きます。

先の旅行のことを話し、「ピアノを弾く楽しさにまた目覚めたんだよね」と伝えると、「”目覚めた”って、あんた自分で目を逸らしたんじゃないの」と母。

その瞬間、これまでの記憶や気持ちが一気に甦ってきて、私は思わず「違うだろ!あんたのせいでピアノがイヤになったんだよ!オレだって本当はもっと楽しく弾きたかった!」と強めに返してしまいました(なんだか子どもっぽいですね。反省…)。

母は「何のこと?」という感じで怪訝な顔して去ってしまいました。



結局過去の気持ちや母への嘆きに決着がついたかというと、そういうわけではありません。
が、「もう時効でいいんじゃないかな」とは思えるようになりました。
これからは、また気まぐれに細々とピアノを弾いてみようかなと思います。
自分が感じていたこと、母ともあらためて話してみようと思います。

それと、この文章を書いていて、先生にまたお会いする機会があったら、辞めた日のことちゃんと説明して謝らないといけないと思いました。


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